こんにちは、CLINICIANSの代表のたけ(@RihaClinicians )です!
今回は、脳損傷急性期にリハビリテーションをはじめる前に知っておかなければならない病態と経過の基礎の内容を掲載します。
本当に基本的なことなので、ベテランの方は読まなくても良い内容かと思いますが、これが意外に頭に入ってない人も多いです。
予後予測を立てたり、リスク管理をしたり、治療プログラムを適切に計画するために意外に役立つかもしれません・・・
これをパッと聞いて不安な方は読んでみてください。
脳卒中急性期治療をはじめる前に押さえておきたいポイント
脳卒中急性期のリハビリテーション治療と言えば、『リスク管理』『予後予測』というワードを思い浮かべる方が多いかと思います。
しかし、リスク管理や予後予測だけではなく、これらを含めたプログラムも適切に立案するためには、まずは以下のキーワードを把握していないといけません。
『病態』と『経過』
この2つを理解することの重要性がわかれば、自ずと患者さんの病態の変化を見据えた治療プログラムを立てることができるでしょう。
普段バリバリに臨床を行っておられる方にとっては当たり前のように頭の中で処理している内容ですが、わかりやすく解説してある資料は少ないため、今回はこれについて簡単に触れてみたいと思います。
この情報がこれから脳卒中急性期の治療を始める方にとって有益になる情報になれば良いな・・と考えております。
では、さっそく!
病態と経過を理解する
脳卒中を発症すると、損傷した脳部位の機能は消失し、これに伴う神経症状を呈するため、日常生活に支障になるような機能低下が発生します。
具体的には、脳梗塞や脳出血などで手足の運動を支配する脳領域が損傷すれば手足の運動麻痺、言語の領域が損傷すれば失語症を呈します。
この後が重要です。
脳梗塞を例に挙げてご説明します。
まず、脳梗塞で損傷した脳領域の細胞には、むくみ(浮腫)が発生します。
損傷した部分に浮腫が発生すると、その部分はむくんで腫れあがってしまうため、周囲の正常な脳細胞を圧迫しその箇所の脳血流も低下させます。
これが厄介なんです。
正常な脳細胞も血流が低下してしまうとその部分の脳機能が低下するため、神経症状はより重症化します。
そして、血流低下が顕著な状態が持続すると、その正常だった脳細胞も脳梗塞になり、さらにそこに浮腫が発生するため、さらなる浮腫の増悪が引き起こされて損傷範囲が広がっていきます。
浮腫は脳損傷の領域が大きいほど強く発生します。
脳は頭蓋骨で閉ざされた空間にあるため、広範囲損傷で浮腫が起こると、頭蓋内の圧が上がる頭蓋内圧亢進をきたしたり、脳が押されて飛び出て頭蓋骨や小脳テント(脳細胞よりも比較的硬い脳内の膜・仕切り)に正常な脳細胞が押し潰される脳ヘルニアを起こすこともあります。
ここまでの話のチェックポイントは以下になります。
脳梗塞の病態と経過
一段階:脳浮腫 3~10日まで下降
二段階:脳浮腫ピークアウト以降は上昇
脳損傷急性期では浮腫や頭蓋内圧亢進により、脳機能は全体的に低下して神経症状がより顕著に出現します。
浮腫は、脳細胞が損傷してから徐々に強くなり、『3~10日程度がピーク』です。
これは急性期にリハビリテーションを行う方には非常に重要な点ですので、よーく覚えておいてください。
脳梗塞で脳外科の手術がなされる場合は、症状を改善するためというよりかは、この頭蓋内圧や脳ヘルニアによる更なる症状進行や死を間逃れる(救命)ために行われることが多いです。
手術をしない場合でも、脳浮腫を抑えるために抗浮腫薬の投与などが行われることもあります。
次に、浮腫がピークアウトして治まってくると、圧迫されて機能が低下していた脳細胞は血流を取り戻し、再度(離床やリハビリテーションなどで)その機能が使われれば機能を取り戻していきます。
つまり、浮腫がピークを迎えるころまでは症状は下降するように低下していきますが、浮腫の改善とともに症状は上登りに改善していくといった二段階の変動をするイメージをもってください。
脳卒中後に神経系が回復していく要因は、大きく以下の二通りがあるといわれています。
[局所的変化]
◎浮腫の改善 数週間~2ヶ月間
◎虚血性ペナンブラの改善 数時間~数週間
◎ディアスキシスの改善 数日間~数ヶ月間
[中枢神経系の再組織化]
◎神経伝達物質の変化 数週間~数年
◎抑制経路(サイレントシナプス)の顕在化 直後から数ヶ月間
◎シナプス形成 数週間から数ヶ月間
などなど
これに関しては、話の道がそれてしまうので今回は触れませんが、気になる方は以下の資料に結構詳しく書いてあるのでこちらをご参照ください。
ここまでは、脳梗塞の病態に関する浮腫、頭蓋内圧亢進の話をしましたが、脳出血でも同様です。
ただ、脳梗塞と違うところは、脳出血では三段階に神経症状が変化するというところ。
一~二段階までは脳梗塞と同じです。
三段階は血腫の吸収時期に合わせて症状の改善を呈します。
つまり、以下のような流れになります。
脳出血の病態と経過
(ゼロ段階:出血拡大 24時間以内 起これば顕著に症状は下降)
一段階:脳浮腫 3~10日まで下降
二段階:脳浮腫ピークアウト以降は上昇
三段階:血腫の吸収に合わせて上昇
血腫の吸収時期は、『2週間~1ヶ月程度』の時期なので、この時期に再度、症状が改善して能力が伸びてくると予想がつきます。
大量出血の場合は血腫が吸収されるまでにさらに期間がかかりますし、それだけ損傷の程度が強いため、大幅な回復曲線にはならない可能性があります。
上記の段階にはゼロ段階も加えて記載しており、これはリスク管理上十分な注意が必要なものですが、出血の拡大は起こらない場合もありますのでカッコとさせてもらいました。(重要ではないということではありません!)
さあ、どうでしょうか?
ここまで話せば、最初に触れた『病態』と『経過』を理解しておく重要性はわかりますか??
把握できていれば、発症からの経過を考えてリスク管理での注意点や実施するプログラム、活動範囲の拡大の仕方も変わってきますよね。
具体例を挙げると、発症から2病日目の脳出血の患者さんを担当し、初回評価をして、介助で車椅子に乗せれたら次の日も同じように乗せれるでしょうか?
翌日は浮腫で症状が悪化している可能性があることが容易に想定がつきます。
早期離床は重要ですが、この時期に脳浮腫(さらに脳浮腫に伴う周囲の脳細胞の血流低下)を配慮せずに病棟での車椅子離床を許可することは、考えた方がいいですね。
また、同様に意識レベルがⅡ-10程度、BRSⅢ程度で車いすには乗れないような患者さんをみた場合などでも、次の日に症状が進行して意識レベルや麻痺が悪化するかもしれないと予想がつきます。
翌日に介入する際には、前日よりも離床を進めれると考えるよりかは、前日よりも症状が悪化している可能性が高いため、まずは(頭蓋内圧亢進症状や脳ヘルニアの徴候を含む)神経症状の評価を行い、変化をみるのが最優先です。
脳損傷範囲が広く、より頭蓋内圧が上がりやすいことが想定できるような症例であれば、この評価もより丁寧に行う必要がありますし、症状変化がなかった場合でもVital signが変動しやすくなるかもしれないといった想定もつきます。
また、浮腫がピークアウトした時期、つまりに症状改善がみられる時期に症状進行や能力低下がみられるとしたらどうでしょうか?
通常の病態だと低下することはないから・・・
再発!?
なんてこともすぐに判断ができるかもしれません。
さらにですが、リハビリテーションの目標を設定する場合にも上記の病態・経過は役立ちます。
能力が上がってこないと想定する時期に高い目標は設定せず、きちんと上がってくる時期と合わせて設定にしておく方が、適切な目標の設定ができるのではないでしょうか。
たとえば、脳出血の場合は少量の出血でない限り概ね2週間~1ヶ月は機能・能力面は劇的には改善してきませんので、この時期に高い目標を立てたりするのは違いますよね。
(※高い目標を立てないことと積極的な神経可塑性を引き出すリハをしないこととは全く別物です。しっかりと残存回路を引き出すリハをしましょう。)
この病態と経過の知識は、ステージ理論と合わせて考えるとより適切なプログラムを提供できることができる材料になりますし、既存の予後予測方法を使用した場合もその設定時点までの回復のし具合が目に見えるようにイメージできるようになります。
これらの内容に関してもまとめているのでご参照ください。
今回触れた『病態』と『経過』は、わかりやすくまとめて書いてくれている資料がなかなかないですが、これを意識しながら治療をやってみてはいかがでしょうか?
より効果的で適切な臨床が行えるヒントになるかもしれません。
病態や再発の影響以外で経過を左右する重要なもの
なお、脳梗や脳出血で上登りになる時期で上がってこない、もしくは能力が徐々に低下してくる場合があります。
それは、見落としがちで特に重要なものですが・・
『廃用症候群』
です!
発症早期からこれを十分に予防しておかないと、影響してきますよ~
どの程度の内容をやったら廃用症候群を予防できるかは、以前にアップしておりますのでこちらもご参考までに。
まとめ
今回お話しした脳梗塞、脳出血のイメージは文章だと少しイメージが湧きにくいので、最後に臨床経過のイメージを図でまとめたものを掲載しておきます。
くも膜した出血のおまけでどうぞ!
くも膜下出血については今回は触れる程度でしたが、こちらに詳細に病態と経過をアップしています。
長くなりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました!
参考資料
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