こんにちは、CLINICIANSの代表のたけ(@RihaClinicians )です!
今回は脳画像から運動麻痺の有無を判断したり、予後予測を行う上で重要な皮質脊髄路(錐体路)の走行とみかたについて。
はじめて脳画像に触れる人や学生さんでもわかりやすく解説しておりますのでご参考までに!
ざっくり内容を見る
一次運動野の役割と皮質脊髄路を読影できるメリット
中心溝の同定でも簡単に触れましたが、中心溝の前方にある中心前回には随意運動のスタート(指令塔)となる一次運動野が存在し、随意運動はこの一次運動野からの運動指令が皮質脊髄路を下行し抹消の骨格筋を動かすことで可能になっています。
つまり、脳画像の各スライスにおける皮質脊髄路の位置がわかり、脳損傷が起こった場合にその箇所の損傷有無が判別できれば、運動麻痺が臨床症状として生じるのか、また、今後運動麻痺が回復する見込みがあるかといった予後予測が可能になります。
上記で述べた通り、皮質脊髄路は一次運動野をスタートとして下行するため、脳画像を用いて皮質脊髄路を見るためには、まずは「一次運動野の位置」と「皮質脊髄路の走行」のイメージを頭に入れておく必要があります。
それでは皮質脊髄路(錐体路)の走行と脳画像のみかたについて解説していきます。
一次運動野の位置と体部位局在
一次運動野の位置は、中心溝の同定で挙げた方法を用いてみつけてください。
中心溝の前方にある脳回が中心前回でありこれが一次運動野です。
また、一次運動野には体部位局在があり、大脳縦裂側から外側に向かって下肢、体幹、上肢、手指、顔面の順に運動領域が存在します。
そして、一次運動野から下行する皮質脊髄路はこの体部位局在ごとの線維でまとり、ひねりを加えながら回転するように下行していきます。
>wikipedia 一次運動野 と 神経機能局在診断より改変引用
皮質脊髄路(錐体路)の走行
皮質脊髄路(錐体路)は
一次運動野
放線冠
内包
中脳大脳脚
橋底部
延髄錐体交叉
(※80~85%は対側-外側皮質脊髄路、15~20%は同側-前皮質脊髄路を下行)
脊髄前角細胞
の順に末梢へ下行します。
>神経機能局在診断より引用
図を見てもおわかりの通り、皮質脊髄路の体部位局在は一次運動野から中脳まではまとまった線維で下行しているために保たれています。
しかし、橋底部では横橋線維が運動線維の間を横切るように走るため、各運動線維は分散します。
つまり、脳画像で体部位局在を意識してみられるのは中脳ぐらいまでになります。
橋底部のラクナ梗塞などの場合に運動麻痺が軽症であることが多いですが、この理由は皮質脊髄路の線維が橋底部で分散しているためですね。
脳画像による皮質脊髄路(錐体路)の見方
上述した皮質脊髄路の走行のイメージをしっかり抑えた上で、以下の①~⑤のレベルのスライスを順番にみていきましょう。
各皮質から下行する運動線維の通り道(皮質脊髄路)は、顔面の領域が桃色、上肢を緑色、体幹を水色、下肢を赤色で示しています。
>脳の機能解剖と画像診断より改変引用
説明の際に用いた図では、イメージし易いように顔面、上肢、体幹、下肢の4パーツから成るCLINICIANSオリジナル ホムンクルス君が登場しますので参考にしていただければと思います。
手作り感が満載です!すみませんw
皮質レベル
中心溝の前方に位置する中心前回(一次運動野)を同定すると、中心前回の大脳縦裂側の内側面に下肢、そこから外側方向へ体幹、上肢の体部位局在が並んでいます。
中心溝の同定方法でも述べた通り、中心溝の後方へ凸(もしくは逆Ω)のような形状をしている部分の内側に手の運動領域があります。
皮質レベルでは顔面の領域はまだみえません。
半卵円中心レベル
下肢、体幹、上肢の運動線維は、皮質から放射状に側脳室外側方向へ集積するように通過していきます。
半卵円中心レベルでは顔面の支配領域が出現します。
側脳室天井レベル
先ほどと並びは同様ですが、側脳室の天井レベルでは横並びになっていた線維が側脳室に近づきつつ、ひねりを加えながら回転していきます。
徐々に前方に顔面、後方に下肢が位置しています。下肢の線維は側脳室の近傍を通過します。
モンロー孔レベル
視床とレンズ核、尾状核頭に囲まれた句の字型の内包がみえるレベルです。
運動線維は内包の中でもより狭い空間である内包膝部から後脚に集積します。
顔面は膝部、上肢・体幹・下肢は内包後脚を通過します。
この部分の損傷では運動麻痺が重症化しやすくなるため、小さな損傷でも予後が不良になることが多いです。
>神経機能局在診断より改変引用
中脳(上部)レベル
内包同様に運動線維が集積しており、皮質脊髄路は中脳大脳脚を三等分した中央3/1の部分を通過します。
>神経機能局在診断より改変引用
被殻や視床出血では、モンロー孔レベルで横方向(内包方向)への血腫の伸展で皮質脊髄路が損傷される点に目が行きがちですが、このレベル、つまり縦方向(中脳方向)への血腫の伸展も皮質脊髄路の損傷につながるので要チェックです。
これらがわかっていると、以前の記事で紹介した日本脳卒中の外科研究会のCT分類では、このような皮質脊髄路が損傷する点も考慮された分類になっていることもわかりますね。
その他に脳画像を見る上でおいて押さえておきたい点
◎脳回の形状は個体差があるものの、脳は頭蓋内の限られた容量が決まっている空間で形成されているため、線維は最短ルートを通る(もちろん脳室なども皮質脊髄路は通過しません)。放線冠は線維が通っている箇所がわかりにくいですが、この点に配慮して皮質から集束していく箇所までの最短ルートに皮質脊髄路を見出すように心がけると、徐々に読影精度が上がってくると思います。
◎皮質および中継核の損傷による障害は重度で予後も不良です。しかし、連絡線維の損傷による障害は、代償経路などが残存することなどもあり比較的予後は良好です。
◎連絡線維が密である部位(中脳大脳脚や内包後脚)の損傷による障害は重度ですが、疎である部分(橋や放線冠など)の損傷は予後良好です。
なお、今回は、画像所見を用いて皮質脊髄路の損傷有無の判断方法やこれが予後に関連することをお話しましたが、画像所見はあくまで評価の一つとしてとらえていただければと思います。
画像所見は非常に有用!
しかし、これだけにこだわり過ぎると、その他の臨床評価や患者さんの訴えから得られる多くの情報が盲目になる可能性もあります。
脳画像で問題がありそうと感じたら実際に評価をして確認してみましょう。今回ご説明した皮質脊髄路の損傷であれば麻痺の程度を評価しましょう。
https://connect-clinicians.com/brain-nerve/paralysis-assessment-uedagrade/
臨床上の多くの情報を統合する中でこの情報が有意義なものになれば幸いです。
このブログには、脳画像以外にも予後予測を行う方法に関する記事の掲載も行っていますので興味がある方はこちらも見てみてください。
https://connect-clinicians.com/brain-nerve/acute-assessment-abms2/
参考資料
1)wikipedia 一次運動野
2)CT・MRI画像解剖ポケットアトラス(1)第4版 頭部・頚部 [ トルステン・B.メーラー ] 頭部・頸部.メディカル・サイエンス・インターナショナル.2015
3)神経局在診断改訂第6版 その解剖,生理,臨床 [ マティアス・ベーア ] .文光堂.2016
4)脳の機能解剖と画像診断 第2版 [ 眞柳 佳昭 ].医学書院.2010
5)久留裕,真柳佳昭:画像診断のための脳解剖と機能系 [ ハンス・ヨアヒム・クレッチマン ].医学書院.1995
6)脳卒中理学療法の理論と技術改訂第2版 [ 原寛美 ]..メジカルビュー社,東京,2013
脳画像を見るためのおすすめ書籍
病気がみえる 〈vol.7〉 脳・神経
初心者~中級者向け。脳神経の解剖、疾患の病態・生理や医学的管理や内服治療など、広く浅く掲載されています。しかし、浅いといっても内容は十分。脳神経疾患に携わる看護師や療法士は必ず持っている、もしくは見た事があるというぐらい有名で万能な著書
脳卒中ビジュアルテキスト
初心者向け。フルカラーで図が多く、内容も読み易い。広く浅くといった感じではあるが、必要最低限のことが掲載されていると思います。個人的には、最初に掲載されているスライス毎の構造物と脳血管の支配領域の図があったことが素敵だと思います。
神経局在診断―その解剖,生理,臨床
高次脳機能障害学
初心者~中級者向け。名前の通り高次脳機能障害のことに関して書かれています。高次脳機能障害というと分かりにくい本が多い印象かと思いますが、これはスラスラ読めますね。脳画像のスライスに関する項があり、責任病巣に関してもちゃんと書いてあります。また、高次脳機能障害の評価法や対応も書かれているので参考になりますよ。
脳の機能解剖と画像診断
上級者向け。本当に画像オンリーのことが書いてあるといっても良いのではないでしょうか。実際のCT、MRIと対応させて脳の構造物が細かく掲載されています。水平面だけではなく、前額面、矢状面の画像もちゃん細かく掲載されています。血管の支配領域も脳幹部まで細かく掲載されていたりと、とにかく細かいところまで手が届く感じで僕は結構好きです。これが逆に分かりにくい人もいると思いますが・・
CT・MRI画像解剖ポケットアトラス(1)第4版 頭部・頚部
初心者~上級者向け。脳画像のみかたの本というよりは、脳画像のカンペですね。臨床で脳画像をみていて、これってなんだったけ?と思うときにかなり重宝します。今回紹介する本は、全てA4サイズ以上ですが、これはポケットに入っていつでも見られる本です。
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中級者~上級者向け。脳梗塞に限定されて掲載されており、内容は全体的にみて濃い。上記で紹介した高次脳機能障害学と似ているところはあるが、こちらの方が医者目線が強くマニアックな印象。頻回に症例の実際の画像がでてくるので症例報告などが好きな人はこちらの方が読み易いかもしれません。
本日は以上で終わりです。
最後までお読みいただきありがとうございました!
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