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筋力低下を予防するための運動量はどの程度必要か?論文からみた廃用性筋力低下を予防するための具体的な運動量

こんにちは、CLINICIANSの代表のたけ(@RihaClinicians です!

今回は筋力低下を予防するための運動量はどの程度の量か?という件について。

 

以前の記事で、多くの臨床家が脳卒中患者の筋力増強ができるだけの十分な運動を実施できていない可能性について触れました。

脳卒中患者のリハ治療における筋力増強に値する負荷量は十分投与できているか?脳卒中患者のリハ治療中の筋力増強負荷は足りているでしょうか?本記事では、脳卒中患者の筋力増強の負荷量について研究論文を参考に具体的にこれを解説しています。十分投与できているか?答えはNoです。廃用を予防して効果的にリハビリテーションを勧めたいとお考えの方は必見です!...

 

以前の記事でご紹介した文献では、十分なリハを行なっているように見えても発症後2週間後には筋力低下を認めていました

また、筋力増強ができていないばかりか、筋力低下を予防するだけの運動量すら確保できていなかったのです。

 

では、どの程度の運動が必要でしょうか。

2000m以上の歩行、起立100回以上を行っていても筋力低下が生じていたため、それ以上は必要そうですが・・・

 

今回は、このような観点から起立や歩行など臨床でよく行う運動に着目し、廃用を予防するために必要な具体的な投与量を考えてみます。

 

歩行はどの程度必要なのか

脳卒中患者のリハ治療における筋力増強は十分実施できている?では、量を歩行距離でみていましたが、廃用性筋力低下を予防するための具体的な一日の平均歩数を万歩計を使用して検討しているものがあってそちらが参考になるのでご紹介します。

 

田中宏太佳,緒方甫,他:健常中高年者の日常生活の活動1生と下肢筋力・筋横断面積-脳卒中片麻痺患者の廃用性筋萎縮予防に関する研究-.リハビリテーション医学.1990;27:459-463.

健常中高年男性18 名(平均年齢62.5±6.7歳)を対象に、万歩計での歩行量の測定と体部CT での大腿中央部の筋横断面積の算出、CybexIIでの大腿四頭筋とハムストリングスの筋ピーク・トルク値の計測を行った。

1 日平均4000歩~8000歩の歩行を行っていた群はでは、1 日平均4000歩未満の群に比べて大腿四頭筋の筋ピーク・トルク値、筋横断総面積やハムストリングスの横断面積の値が有意に大きかった。

なお、4000歩~8000歩と8000歩以上の歩行を行っている群では、差はみられなかった。

以上のことから、健常中高年者では廃用性筋力低下を防ぐためには

1日平均4000歩以上

の歩行を実施する必要があると考えられます。

 

歩行以外の運動ではどの程度の量が必要なのか

健常者で廃用性筋力低下を防ぐためには1日平均4000歩の歩行を行うことが重要であるということがわかりました。

では、その他の運動ではどの程度の量が必要なのかも考えてみましょう。

 

・市橋則明,吉田正樹:大腿四頭筋の廃用性筋萎縮を防止するために必要な下肢の運動量について.体力科学;1993(42):461~464.

・市橋則明,吉田正樹,他:歩行量と下肢の訓練頻度の関係―1万歩の筋活動に相当する下肢筋の訓練頻度について.PTジャーナル.1995;21(11):803-806.

健常者を対象に、大腿直筋と内側広筋(斜頭)の2箇所の筋電図を貼り付け、臨床上よく行うベッド上での運動や、起立をはじめとする入院中の下肢の筋活動の低下を補う運動と、歩行時の筋活動量の比較を行った。

この結果を用い、1日1万歩の歩行を行う人が臥床時に同じだけの筋活動量を、各運動や動作で行うとしたそのトレーニング頻度を計算した。

この論文では、1万歩に相当する量が提示されていますが、前述した4000歩の歩行量に換算(報告されている各運動頻度の数値×0.4として単純計算)すると以下のようになります。

起立の回数が多すぎて驚くかと思いますが、ベッド上での運動はさらに尋常じゃない回数であることが見て分かります。

この研究では、廃用性筋萎縮を認めやすい大腿四頭筋に着目している点が非常に有用です。

以上のことから、1日4000歩と同程度の筋活動を確保するには、

起立は260~300回程度

必要であると考えられます。

 

また、これと類似した研究として、腓腹筋の廃用性筋萎縮を予防するために低活動状態を想定した6000歩の筋活動量に対応する各運動療法メニューの回数を検討したものもありました。

・西上智彦,榎 勇人,他:運動療法中の腓腹筋筋活動と1日歩行量の関連.理学療法科学.2008;23(1):111-114.

 

研究の概要は類似しているので省略し、まとめた表のみ掲載します。

臨床では、両脚立位での足底屈をよく実施するかと思いますが、下腿三頭筋の廃用性筋力低下を予防するためには、

両脚立位での足底屈470~620回程度

が必要になります。

 

少し話は逸れますが、片麻痺患者の歩行速度は生活における活動範囲を決定し、下腿三頭筋は歩行速度を規定する重要な因子とされています。

そして、下腿三頭筋は大腿四頭筋よりも廃用性筋萎縮が生じやすいと報告されています。

つまり、ベッド上の臥床時間が増ええるとまずは下腿三頭筋の筋力が落ち始め、歩行速度が低下していきます。

そして、徐々に生活範囲の狭小化が進んでいきます。

 

もちろん、下腿三頭筋とほぼ同時期に四頭筋の筋力低下も進行し、起立を行うことや転倒せずに歩くことができなくなり、寝たきりに近づいていきます。

これらのことから、患者さんの生活レベルを下げないためにも下腿三頭筋の廃用性筋力低下の予防は非常に重要であるといえますね。

 

予防するためには尋常じゃない回数の運動を行わなければならないことが理解できますでしょうか?

 

廃用性筋力低下を予防するための運動量まとめ

以上の内容をここで一旦まとめます。

廃用性筋力低下を予防するためには、

歩行は1日4000歩以上

起立は260~300回以上

両脚立位での足底屈は470~620回以上

の運動量が必要であると考えられます。

 

この結果から考えると、限られたリハ時間内でこれらの回数を確保することは非常に難しいといえます。

患者さんが介助下でも歩行や起立ができるのであれば、リハ時間以外の病棟の日常生活上でもこれらを実施する機会を多く作り、自分で動けるのであれば自主練習を十分に行っていただくことが非常に重要ということは明らかです。

 

では、みなさんは普段自主練習指導を実施していますでしょうか?

しっかり指導する必要がありますよね!

 

自主練習指導が非常に重要!運動指導の際のポイント

患者さんが自分で歩行が行える場合、上記のような具体的な運動量を提示し、必要な量は確保していただくように指導を行いましょう。

万歩計がない場合でも、簡便ではありますが一定距離内の歩数を測定し、どのぐらいの距離を歩いたら良いのかを計算して提示することもできます。

例としては、10mの距離を20歩で歩ける場合、4000歩の距離に相当するには

4000歩÷20歩=200

つまり、10mの200倍の距離が必要であるため、2000mの距離を歩く必要があります。

 

入院している病棟の廊下が50mの距離であれば、

2000(m)÷50(m)=40

となるため、50mの廊下を40回は往復する必要があります。

 

上記のように、歩数を測定する距離内に要する歩数を用いて一日に必要な歩行量を求める場合の式は、以下のようになります。

一日に必要な距離(m)=4000歩÷測定距離内の歩数×測定距離(m)

 

その他、ベッド上や立位で行える動作も同じですね。

 

ただ、こんなの半端ではない実施回数を提示されても、非現実的な話に感じてやる気が出る人は少ないと思います。

結局、やる必要がわかっていてもやらなければ意味がないので、やる気が出るように工夫してあげましょう。

 

50m廊下を20往復の例であれば、午前と午後の二回に分ければ10往復ずつですし、4回に分ければ5往復ずつで良いです。

このように、一日の目標値を分割し、その人のやり易い時間を一緒に相談してみると、実際にやる気になってくれることが多いと思います。

 

さらに、よりやる気を出してもらうためには、実施した結果、どうなのか?を提示しましょう。

実施前に、筋力値やそれに代わる動作評価などを行っておき、実施する内容や実施した量を記載するような紙を配布し、成果を定期的に評価して提示します。

 

患者さんと一緒に紙面を見ながら、

「これだけ実施できているからこれだけ筋力や動作が向上している」

「実施できていなかったから向上していない」

ということが共有できると思います。

 

自主練習指導の定着率は、この一連の作業、特に、

患者自らが行った行動がどうなのかというフィードバックを行うことが最も重要

であり、指導だけで終わってしまうと実際は実施されていないといったことが多々生じますのでご注意ください。

 

 

しかしながら、、、もう少し効率的に筋力強化を行う方法はないでしょうか。

これに関しては良い方法がありますので後日触れることにします。

本日は以上で終わりです。最後までご覧いただきありがとうございました!

参考資料

1)田中宏太佳,緒方甫,他:健常中高年者の日常生活の活動1生と下肢筋力・筋横断面積-脳卒中片麻痺患者の廃用性筋萎縮予防に関する研究-.リハビリテーション医学.1990;27:459-463.
2)市橋則明,吉田正樹:大腿四頭筋の廃用性筋萎縮を防止するために必要な下肢の運動量について.体力科学;1993(42):461~464.
3)市橋則明,吉田正樹,他:歩行量と下肢の訓練頻度の関係―1万歩の筋活動に相当する下肢筋の訓練頻度について.PTジャーナル.1995;21(11):803-806.
4)西上智彦,榎 勇人,他:運動療法中の腓腹筋筋活動と1日歩行量の関連.理学療法科学.2008;23(1):111-114.
5)Perry J, Garrett M, et al.: Classification of walking handicap in the stroke population. Stroke. 1995; 26:982–9.
6)大畑光司:脳卒中片麻痺患者の主要な障害としての筋力低下について.秋田理学療法.2010;18(1):3-7頁.
7)Akima H, KunoS, Suzuki Y, et al.: Effects of 20 days of bed rest on physiological cross-sectional area of human thigh and leg muscles evaluated by magnetic resonance imaging. J Gravit Physiol. 1997; 4(1): 15-21.
8)運動療法学第2版 障害別アプローチの理論と実際 [ 市橋則明 ],文光堂,2014.

Summary>各障害別に生理病態、評価~治療の実際までがエビデンスを基盤として幅広く掲載されている。各アプローチの作用機序までは詳細に掲載されていない箇所があるものの、一冊あればリハを行う中で遭遇する疾患への代表的な治療の基本がわかる。

 

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