こんにちは、CLINICIANSの代表のたけ(@RihaClinicians )です!
本日は重症筋無力症の医学的治療についてご説明します。
治療の種類
まず、重症筋無力症の治療の種類を列挙すると以下の通り。
★対症療法
1.抗コリンエステラーゼ(ChE)阻害薬
★免疫療法
1.副腎皮質ステロイド
2.カルシニューリン阻害薬
3.血液浄化療法
4.免疫グロブリン(IVIg)
★拡大胸腺摘除術
★クリーゼ
★リツキマシブ
本日はこれらの治療法について解説していきます。
重症筋無力症の治療
重症筋無力症の治療を行う前に重症筋無力症の多様性に注意する必要があります。
発症年齢(小児、若年、高齢)、罹患筋の分布(眼筋、四肢筋、球筋、呼吸筋など)、自己抗体の種類(抗AChR抗体、抗MuSK抗体など)、胸腺組織(胸腺腫、過形成、萎縮胸腺など)や合併する自己免疫疾患の有無(赤芽球癆、円形脱毛、低γグロブリン血症、心筋炎、味覚障害など)などを整理します。
さらに、治療に影響しそうな合併症(糖尿病、高脂血症、骨粗鬆症、悪性腫瘍、消化性潰瘍、白内障など)の有無や性別・職業などの社会的背景を加味して治療ゴールを設定する必要があります。
では、重症筋無力症の治療はどのようなことをするのか?
短期的治療としては自己抗体の除去(血液浄化療法)あるいは機能低下(免疫グロブリン静注療法)を図ったり、補助的にシナプス伝達機能を回復(抗コリンエステラーゼ薬)させて症状のコントロールを図り、長期的に自己抗体産生の抑制を目指していきます。
根本治療は胸腺摘除・ステロイド・免疫抑制薬です。
理由は、抗AChR抗体産生を抑制することができるからです。
対症療法はコリンエステラーゼ阻害薬・血液浄化療法・IVIgです。
理由は、一過性に症状を改善させることができるからです。
ただし、気を付けて頂きたいところがあります。
それは、これらの治療効果が“いつ”起き始めてくるのか!ということです。
効果発現に至るまでは以下の4段階になっています。
①AChR抗体産生細胞の減少・抑制
②AChR抗体産生抑制
③すでに存在しているAChR抗体の減少
④AChRの再構築(約1週)
胸腺摘徐・リツキマシブは①の段階に作用するために効果発現には数か月~数年かかり、ステロイド・免疫抑制薬は②に作用して③以下の段階を経るので、IgGの半減期が約3週であることを考えると、効果発現・安定には少なくとも1ヶ月程度時間を要することが考えられます。
血液浄化療法は③の作用なので、効果発現・安定には1週間ほど要します。
眼症状に対するステロイドパルスでは治療翌日に筋無力症状の改善することもあります。
したがって、評価時期も毎日ではなく、治療効果が出始める段階の時期や実際の患者さんの変化が起きたときに評価することが適切であると思われます。
では、それぞれの治療について項目ごとに解説していきます。
抗コリンエステラーゼ薬
抗コリンエステラーゼ阻害薬はメスチノンとマイテラーゼの2つあります。
メスチノンは30分以内に効果が発言し2~4時間持続し、マイテラーゼは効力が強く4~8時間持続します。
メスチノンは1日上限3錠程度として、症状に合わせて自己調節も可能です。
抗コリンエステラーゼ薬はガイドライン中でも診断・治療に有効であることと、過剰なアセチルコリンによる腹痛、下痢、流涎、発汗などのムスカリン様副作用や徐脈、血圧低下など循環器系の副作用があり、コリン作動性クリーゼの発現には十分注意が必要です。
これらはあくまでも対症療法であり、根本治療ではありません。
副腎皮質ステロイド
重症筋無力症の中心的な治療は免疫療法である副腎皮質ステロイドです。
使用方法は、初期増悪(1週間以内)を避けるため、10mg連日(または20mg隔日)から開始し、最大60mg連日(または120mg隔日)まで増量し1~3ヶ月程度維持し、症状安定後じゃゆっくりと減量(1ヶ月ごとに5mg程度)していきます。
これを漸増大量療法といいますが、この治療は多くの副作用が出現するため、最近ではステロイドの使用料を少なめに設定し、カルシニューリン阻害薬を併用する方法が主流になっています。
ステロイドの副作用は、ムーンフェイス・中心性肥満、不眠、骨粗鬆症、気分変調・精神障害、高脂血症、多毛などの外観上のものや、耐糖能異常や消化性潰瘍、易感染性などがあります。
短期的な効果を期待する場合はメチルプレドニゾロンによるステロイドパルス療法がおこなわれます。
カルシニューリン阻害薬
さきほど記載した通り、カルニシューリン阻害薬はステロイドとの併用が基本です。
保険適用となっているのはタクロリムスとシクロスポリンの2種類です。
カルニシューリン阻害薬は抗体産生の原因となる自己反応性T細胞の増殖とそれに関与するサイトカインの抑制が主たる作用機序です。ステロイド剤の減量と副作用の軽減が可能性であり、早期に導入することでステロイド剤の最大投与量を抑制することも可能です。
しかし、長期に使用した場合は感染や腫瘍に対する免疫機能が抑制する可能性もあります。
血液浄化療法
免疫浄化療法は自己抗体に直接作用するかあるいは除去することで作用を発揮するため、相違の治療効果が期待できます。
早期強力治療を重症筋無力症の初期より積極的に施行する治療戦略となっています。
血液浄化療法は1日おきに3~5回を1クールとして行います。
血液浄化療法の方法は単純血漿交換、二重膜濾過血漿交換、免疫吸着療法などがあります。
AChR抗体陽性例でも陰性例でも有効ですが、MuSK抗体陽性重症筋無力症については、免疫吸着療法よりも単純血漿交換、二重膜濾過血漿交換が薦められています。
免疫グロブリン(IVIg)
免疫グロブリン療法は前述の血液浄化療法と同様の効果を期待されています。
免疫グロブリン投与は0.4kg/kgを5日間投与します。
副作用は頭痛、発熱、高血圧、悪寒、吐気などがあります。また、血液粘度を上昇させるため、脳血管障害、虚血性心疾患、腎不全などのリスクを考慮します。
免疫グロブリン療法は血液浄化療法と比べても遜色のない結果であると報告されています。
その他のCLINICIANSの記事の中でも免疫グロブリン療法や血液浄化療法について書いていますのでご参照ください。
拡大胸腺摘徐術
胸腺腫のある場合は可能な限り早期に胸腺腫の摘出を行います。
胸腺摘徐術はガイドラインでも適応について十分な検討を行うことが推奨されています。
胸腺摘徐の有効性が期待できる因子として、胸腺過形成、異所性胸腺組織がない、発症から胸腺摘徐までの期間が短い、若年者であることとなっています。
そして、MuSK抗体陽性重症筋無力症に対する胸腺摘徐術の有効性は見込めないとされています。
クリーゼ
クリーゼは急激な呼吸困難、球麻痺が進行し呼吸管理を要する重篤な状態です。
感染、疲労、術後、禁忌薬投与が原因となります。
気道確保、呼吸管理と誘因除去を行いながら、免疫療法を組み合わせて重症筋無力症の管理を行います。
重症筋無力症に対する免疫療法が一般的になり、重症例を抗コリンエステラーゼ阻害薬だけで治療するような症例がほとんどなくなった現在では、コリン作動性クリーゼの頻度は極めて低いと考えられます。
新規治療
ここ10年くらいで免疫抑制薬であるカルニシューリン阻害薬とIVIgが重症筋無力症に対して保険適応を取得し、治療の幅が増えています。
カルニシューリン阻害薬を使用する目的は、臨床症状の改善とステロイド原料による副作用の軽減であることは前述していますね。
IVIgは血液浄化療法と同等に効果的であるため、患者の全身状態が不良な場合は、IVIgを選択しやすいです。
今後の有効な治療(すでに使われていますが)の一つとして、リツキマシブ(リツキサン)があります。こちらはB細胞表面に発現するCD20を標的としたモノクロナール抗体製剤として使われています。
これまでの報告では、他の治療法で効果が十分でない症例に限り、使用を考慮されAChR抗体陽性例よりもMuSK抗体陽性例で有効性が高いといわれています。
試験的にはMuSK抗体陽性の難治性重症筋無力症にリツキマシブを導入して治療開始半年で十分な治療効果を得ることができているそうです。
しかし、リツキマシブ治療導入から効果が発現するまでの間、他の免疫治療を施行するとリツキマシブの治療効果を減弱させてしまう可能性があり、リツキマシブ導入前に筋無力症状を安定させておく必要があります。
どんどん、新しい治療法が出てきており、運用も開始されてきています。
現在使用されている治療を知っておくことで、いま何の治療を行っているのか、効果はいつ発現されるのか、運動をしてもいいのか、を理解することが私達理学療法士にとっても非常に大事です。
上記が少しでも参考になるところがあれば幸いです。
本日は以上で終わります。
最後までお読みいただきありがとうございました!
参考文献
1)鈴木、鈴木:重症筋無力症 神経・筋疾患の病態と診断・治療(Ⅲ)、医学と薬学、第68巻、第3号、2012.9 421-426
2)川口 直樹:重症筋無力症の新知見と治療、神経治療 32 ;197-200、2015
3)川口 直樹:重症筋無力症の新知見と治療、神経治療 31 ;140-144、2014
4)村井 弘之:重症筋無力症の治療、医学のあゆみ 255 No.5 2015.461-465
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