こんにちは、CLINICIANSの代表のたけ(@RihaClinicians )です!
前回は脳卒中リスク管理の概要(ペナンブラ、Difusion-perfusion mismuch、脳血管自動調節能、動脈硬化の評価)についてお話しましたが、今回はそれとあわせて知っておく良いウィリスの動脈輪と頭蓋内血管の狭窄病変の注意点について。
話の内容としては、頭蓋内血管に狭窄があるときのリスクをどう考えて管理してリハを行うのかといったところを丁寧にご説明していきます。
読者の方が理解して自分で考えながら記事を読んで頂けるような構成でつくりましたので、途中に僕が質問した事に関してはご自分でも考えながら読み進めてみてください。
ざっくり内容を見る
ウィリスの動脈輪とは
ウィリスの動脈輪とは、脳底部で内頚動脈と椎骨動脈の枝が連絡して形成された輪状もしくは六角形の血管の吻合のことです。
これはみなさんご存知ですね。
では、ここでまず最初にやっていただきたいことがあります。
ウィリスの動脈輪を2分以内で書いてみてください!
めんどくさい記事だなーとお思いになるかもしれまんが、ここで自分で本気で頑張って書いてみることが非常に重要になるので、めんどくさがらずに頑張って書いてみてください。
下の方に答えを書きましたので、書けた方は下の方にスクロールしていってください。
まずは見ないように書いてみてくださいね!
どうでしょうか?
ちゃんと書けましたか?国家試験にでますよw
正解はこちらです↓
ウィリスの動脈輪の書き方の簡単な説明も動画でいれておきますのでご参照ください。
頭蓋内狭窄病変のリスクと?
ウィリスの動脈輪を書いてもらいましたが、これをいったい臨床でどのように使うかを説明していきます。
以下の図は前回の記事のDifusion-perfusion mismuchのところでご紹介した症例の各脳画像です。
医師の初診では、NIHSS合計3点(減点項目は顔面1、右上肢1、左下肢1)であり、症状は軽症例であるものの、MRI高信号領域(白色部分)とCTP MTT延長領域(赤色部分)にmismuchがあり、MTT延長領域-MRI高信号領域をした範囲(mismuch部分)に広範囲のペナンブラを有しています。
前回もご説明しましたが、ペナンブラ部分はまだ脳梗塞に至っていない部分ですが、このまま十分な脳血流の改善がなければいずれ脳梗塞になる可能性がある部分です。
つまり、このような症例の場合は、軽症であるものの、脳血流が低下すると広範囲の脳梗塞に陥る可能性が高い症例といえます。
※この説明だけだとわかりにくい方はまずは前回の記事をご確認ください。
さらに、その他の画像所見も合わせてみてみましょう。
画像検査項目と結果
【DWI】左ACA/MCA watershed area(境界領域)に散在性に高信号
【MRA】左ICAはわずかに描出ある程度の高度狭窄でMCAも狭窄、右ICA、VA、MCAにも狭窄あり
【CTP】両ACA、左MCA領域にCBF低下/MTT延長
【Neck eco】左ICA 狭窄率79% risky pluque+
※略語の説明:ACA-前大脳動脈 MCA-中大脳動脈 ICA-内頚動脈 VA-椎骨動脈 CBF-脳血流量 MTT-平均通過時間
※risky pluque:不安定で血流にのって飛んでいってしまいそうなプラークのようなもの
ここでその他の画像所見を掲載しましたが、どこの病院でも自分で脳画像所見が読影できない限りはこのような情報しか得られません・・・
みなさんはこの情報をどのように解釈していますでしょうか?
頭の中に脳の血管のイメージがついていない人はチンプンカンプンでしょうねw
でも、この情報を解釈する際、先ほど書いてもらったウィリスの動脈輪が非常に役に立ちます。
ウィリスの動脈輪を元に、この画像所見が実際にどのようになっているかを一つずつ書いてイメージ化してみましょう。
まとめると以下のような図になります。
さらに、図だけだとわかりにくい方もおられるかと思いますので、解説動画もつけておきます。
どうでしょうか?
これをみると、左のペナンブラ領域はウィリスの動脈輪を介して左の椎骨動脈と右の内頚動脈をメインに血流を受けてなんとか脳梗塞にならないような状態をkeepしているということがわかります。
上記の図では、右の内頚動脈も狭窄があるといっていますが、内頚動脈は主幹動脈の中でも最も太い血管であるため、多少狭窄していてもある程度になるまでは血流を送ることができます(※ただし狭窄程度による)。
ちょっと説明がわかりにくいかと思いますが、図で書いてみるとわかりやすくなりますね。
この状態は「左椎骨動脈と右内頚動脈によってなんとかペナンブラ領域の血流が保たれている状態」であり、さらに「左内頚動脈には今後プラークが飛んで新たな脳梗塞を発症させる可能性の高いリスキーなプラークがある」ということを理解できますでしょうか?
つまり、血圧をちょっとでも下げたらやばいリスクがあることがこれで理解できるかと思いますし、血圧が低下した場合にどの領域の症状がで易いかが理解できると思います。
このような症例の場合だと、ペナンブラ領域に該当する両側前大脳動脈領域と左中大脳動脈領域の症状、たとえば運動性失語や前頭葉症状、意識障害などが血圧が低下したら出現しやすい症状と考えていただければ、離床中、もしくはリハ中にこの変化に即座に気付いて対応ができると思います。
また、左内頚動脈にあるリスキープラークも血流の流れやすい方向から飛んだ場合に左中大脳動脈領域や左前大脳動脈領域に詰まりやすいので、それも同じように想定できますね。
ウィリスの動脈輪を書ければ、このような情報処理もきちんとリハに治療につながるように考察できます。
書けなかった方は、しっかり書けるように復習しておきましょう!
回復期や生活期への提言
最後に回復期や生活期の方へ一言だけ提言をさせてください!
正直なところ、今回のようにウィリスの動脈輪を書いて検査結果を解釈できるというところは、
脳画像所見が読める急性期のリハスタッフには必要ありません。
なぜなら、急性期では上記に掲載した図のように、これらの画像情報が自分で見て確認できるからです。
今回ご紹介したような文字で掲載された検査結果からウィリスの動脈輪を書いて理解する方法は、回復期や生活期のリハスタッフに行っていただきたい考え方です。
回復期や生活期の方では、こんなの必要ないよ!っていう知識がない方もおられる思いますが、、、必要です。
理由は、急性期の在院日数は年々短縮しており、上記のような急性期でみているような患者が回復期でみる現状が加速的に進展していることが一つ。
もう一つは、上述したような症例は症状がごく軽度で投薬コントロールができて早期に自立できればすぐ退院します。ADLが戻ってペナンブラは落ち着いたとしても、頭蓋内血管の狭窄率やrisky pluqueは急性期で外科的な治療をしなければそのまま生活期に持って帰っていますよね。
つまり、きちんとリスク管理してリハを行っていかないと回復期でも生活期でも運動負荷を加える危険性は高くなるということです。
実際、僕が以前に勤めていた病院のデータ(2016年)では約4割もの患者さんが急性期からそのまま退院になっています。
症例数は755例もあれば十分説得力あるデータだと思います。
4割って結構多いですよね!
在院日数も平均2週間程度なので、おそらく次回にお話する自動調節能が破綻している期間でもあります。
回復期や生活期でかかわるリハスタッフもこのようなリスク管理ができていないとかなり危険なので、しっかりリスク管理をいただければ幸いです。
ここまでの詳細な情報が自分の病院まで回ってこないというのであれば、情報を取り寄せたり、直接前医に電話したりして情報を揃えて介入することも大切ですよ。
運動時のリスクもわからずに患者さんを危険にさらすことがないように、お互い情報を共有して地域で患者さんの生活を良い状態に保てるリハを提供していきたいと僕は思っています。
長くなりましたが、本日は以上で終わりです。
いかがでしたでしょうか?
ほんと、当たり前のことだけど意外にこういう知識が使えていないなと感じた方はおられませんでしたか?
脳卒中の勉強会などにいくと最近ではEBMの話ばかりですが、こういう当たり前のことも臨床では個別性のあるリハ治療につながります。
もし上手く使えていなかったと感じる方がおられましたら、再度、復習と使い方を考えることをしなおしてもいいかもしれません。
次の記事では「脳卒中リスク管理 概要:具体的な血圧管理と自動調節能の破綻期間」についてお話します。
ここまで読まれた方は、では実際にどのように管理するんだよ!って煮えたぎっておられるかと思いますので、こちらをご参照ください。
(なお、脳卒中全体に共通するリスク管理のお話は今回で終わりというような感じですが、重要な話でまだ触れていないものに「脳浮腫や頭蓋内圧亢進」があります。これに関しては話の流れ的にわかりにくくなるので、血圧管理の話をしてから行います。)
最後までお読みいただきありがとうございました!
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