整形外科

末梢神経障害の予後と運動療法の注意点

こんにちは!理学療法士のこじろう(@reha_spine)です!!

CLINICIANSの中で主に腰痛や脊椎に関する内容をアップしております。

ここ数回の記事では末梢神経障害に関する内容についてまとめていますので、過去の記事も良ければ参考にして頂けたらと思います。

前々回は「腰椎疾患における下垂足の予後」という記事を投稿しました。

腰椎疾患における下垂足の予後今回は「下垂足」について基本的な内容をまとめています。ヘルニアや狭窄症などによって下垂足を呈した患者の予後やリハビリ時の注意点について十分に理解できていますか?腰椎疾患を担当されている方には特に読んで頂きたい内容となっています。...

そして前回は「末梢神経障害の基礎」という記事を投稿しております。

末梢神経障害の基礎今回は「末梢神経障害」について基本的な内容をまとめています。末梢神経障害には様々な要因があります。特に末梢神経障害に触れることの多い整形外科にてリハビリを行っている方には特に読んで頂きたい内容となっています。...

 

神経損傷程度と臨床的予後

末梢神経損傷の原因は、末梢神経に対する外傷や急性・慢性の圧迫、牽引などの整形外科的疾患だけでなく、神経の腫瘍や血行障害、疾病による損傷もまれではありません。¹⁾

また、長期の圧迫や摩擦などによる手根管症候群や肘部管症候群などの絞扼性神経障害も重要になります。

末梢神経損傷の分類として、「Seddonの分類」「Sunderlandの分類」が使用されます。Sunderland分類はSeddonの分類から「軸索断裂」を神経損傷程度にしたがって3型に細分化し、合計5型に分類したものになります。²⁾

この2つの分類を下のように1つの表にまとめています。

Tinel徴候 ¹⁾²⁾

再生有髄軸索は徐々に髄鞘に取り囲まれますが、先端のまだ髄鞘に覆われていない部位を叩打すると、その神経の支配領域にビリッとする感じが出現します。
末梢神経の軸索損傷部位より末梢方向にしびれが放散し、神経の再生に伴って放散距離は延長します。Tinel徴候陽性の部位は再生神経の伸長に伴い徐々に遠位へと移動しますが、神経の回復が順調であるか否かを継時的なTinel徴候の末梢方向への進行で評価できます。

 

上の表を文章で説明しますと以下のように分類されます。

Seddonの分類~ 一過性神経不動化~

Sunderlandの分類のGradeⅠと対応しており、軸索や結合組織に損傷はなく、局所的な脱髄による一時的な伝導障害です。ワーラー変性は起こりません。

ワーラー変性:
軸索が損傷すると、それより遠位の軸索や髄鞘はシュワン細胞やマクロファージの食作用によって変性、除去されることをいいます。

Seddonの分類 ~軸索断裂~

損傷が及ぶ結合組織によってSunderlandの分類でいうGredeⅡ~Ⅳに細分化されます。

Ⅱは軸索に損傷があるものの、結合組織の連続性は保たれている状態です。軸索が伸長することで元の神経支配を獲得することができます。

Ⅲでは神経周膜は保たれており、神経束の構造は維持されますが、神経内膜が損傷されているため、軸索が元の神経効果器を支配できず、過誤神経支配となり、機能回復不全となることがあります。

Ⅳでは神経周膜の損傷を含み、再生する軸索が神経束間の間隙入り込んでしまうことがあり、神経効果器に辿り着くことができず、自発的な回復はまれになります。神経周膜での縫合が必要となります。

Seddonの分類 ~神経断裂~

Sunderlandの分類のGradeⅤと対応しており、神経構造体のすべての連続性が断たれた状態で回復には神経縫合が必要となります。

 

神経の名前がたくさん出てきて頭が混乱しそうなため、前回記事でもご紹介した神経の基本構造のイラストを載せますので照らし合わせながら読んでみて下さい^^

末梢神経障害の機能訓練

主な機能訓練としては以下のものが挙げられます。

1)関節可動域訓練
2)感覚訓練-知覚再教育、異常知覚への適応訓練
3)筋力増強訓練-漸増抵抗運動(De Lorme法)
-漸減抵抗運動(Oxford法)
4)筋再教育-EMGフィードバック法、視覚、聴覚フィードバック
-kenny法
5)巧緻動作訓練

 

1)関節可動域訓練

末梢神経障害にて最も制限を来しやすいのは足関節の背屈制限です。

これは腰椎疾患による下垂足の方でもよく経験します。

よく、壁を背にした立位姿勢で楔状の台の上に立ち足関節背屈位にてアキレス腱のストレッチを行う方法がありますが、注意点としては「反張膝」にならないように注意しましょう。

拘縮予防には温熱療法と持続的伸張が効果的といわれています。

 

2)感覚訓練

感覚障害では特に深部感覚障害と痛覚障害がdisabilityに影響を及ぼすといわれています。痛覚障害では火傷や皮膚障害に影響します。

感覚訓練は、末梢神経の神経再生の促進と、中枢での知覚の適応性が関与してきます。
そして訓練としては早期と後期訓練に分かれます。

早期では未熟な感覚受容器からの情報を再学習させます。

後期では立体覚の学習で、物体を視覚的に確認し、それを実際に把握して再学習させます。
具体的にははじめは開眼にて物体の位置や大きさ、形状を確認し、触れたり、掴むことで物体を認知します。これを繰り返した後に閉眼にて同じことを行い、立体覚、位置覚、表在覚などの訓練効果を上げていきます。

表在覚が比較的良好で深部覚が障害されている場合には代償されることもあります。感覚を中枢で増強する訓練でもあります。

また、位置覚を表在覚で代償させる方法も試みられています。

3)筋力増強訓練

末梢神経障害の方のリハビリを行う上で、皆さんが臨床の中で疑問に感じているところはココではないでしょうか?

次の章では筋力強化方法について特に注意すべき点について説明していきます。

 

リハビリ時のポイント ~筋力強化練習の注意点~

現在では損傷された末梢神経を加速的に再生する方法はありません。そのため、末梢神経損傷の保存的治療の目的としては、再生した神経の再支配を受けるまでの脱神経筋や組織の機能を維持することになります。

末梢神経損傷後の筋力低下と筋委縮には廃用性筋委縮の要素も含まれているため、下肢の筋力強化訓練は有用です。

しかし、筋力強化時の注意点があるため、その点についてここから説明していきたいと思います。

聞いたことがある方も多いと思いますが、末梢神経損傷による脱神経筋に対して過剰な運動負荷を行うと、逆に筋力低下を示すことが古くから知られています。(overwork weakness)。過大な運動負荷により病的な末梢神経が機能過多となり、神経細胞、軸索の代謝機能や軸索内の輸送機能が障害され、再生機能に影響を及ぼし、逆に変化を強める可能性が指摘されています。⁴⁾

 

また、神経再生の時期によって運動負荷が神経再生に抑制的に働くことも指摘されています。特に末梢神経再生初期の運動量は過度にならないように注意する必要性があります。

 

筋力強化訓練ではMMTを参考に負荷を設定していくとよいと思います。

[MMTを目安とした筋力強化方法] ⁴⁾

MMT1+レベル:自助運動
MMT1+~2+レベル:重力を除去した自動運動
MMT2+~3+:重力に抗しての自動運動
MMT3+以上:重力+抵抗運動

末梢神経障害には過負荷に注意し、疲労が残らない程度の負荷量で行いましょう。また、切断・縫合の場合は直後の関節運動が血管再生の遅れや瘢痕組織の増生を引き起こし、神経再生の妨げになるため、直後の運動療法は避けるべきともいわれていますので医師と十分に連携をとった上でリハビリを行いましょう。⁵⁾

また、運動神経の再生に時間がかかると通常で15-18カ月で神経筋接合部は消失し、不活性となるため、運動神経の再支配が始まったとしても筋収縮は得られません。

以上、簡単ではございますが前回と今回にて末梢神経障害について基礎的な部分をまとめさせて頂きました。

少しでも皆さんの臨床の参考になれば幸いです。
最後までご覧頂きありがとうございました!!

参考文献

1)木村浩彰:末梢神経損傷の病態と整形外科的治療.理学療法25巻.1号.2008.319-326
2)鳥巣岳彦:標準整形外科学 第9版
3)河合秀紀:末梢神経再生における細胞移植とリハビリテーション.日本基礎理学療法学雑誌.21.1.2018
4)眞野行生:末梢神経障害のリハビリテーション.リハビリテーション医学.28.No.6.1991
5)柿木良介:外傷性末梢神経障害の治療とそのリハビリテーション治療の実際-腕神経叢損傷-.Jpn J Rehabil Med 2018.55.939-942

 

 

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整形外科病院勤務の理学療法士 腰痛/骨盤痛/ピラティス/運動器認定理学療法士/転倒予防指導士 運動器分野、特に腰痛・骨盤周囲の疼痛について発信、吸収していきたいと思います。
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