脳・神経

二木の脳卒中リハビリテーション患者の早期自立度予測の重要点と使い方を徹底解説!

こんにちは、CLINICIANSの代表のtake(@RihaClinicians )です!

今回は脳卒中の予後予測に関する絶対に押さえておきたい話。

 

脳卒中リハリハビリテーションの分野における早期予後予測は、何年もの間、盛んに討論されています。

しかし、急性期から予後予測指標として使えるものとしては、今だに二木先生の「脳卒中リハビリテーション患者の早期自立度予測」に代わるようなものが出てきていない現状です。

そこで今回は、脳卒中患者の早期自立度予測として1980年代に発表された二木立先生の「脳卒中リハビリテーションの早期自立度予測」の論文をご紹介し、この重要点と使い方を徹底解説します!

 

二木の予後予測法が使用される理由

二木立先生の予後予測方法は、年齢、自立度・基礎ADL(能力障害)、臨床的諸因子(機能障害)から構成される方法であり、良質な研究計画に基づいて行われています。

また、臨床的な側面が強い評価を採用しており、予測精度の高さと後続研究による良好な精度の報告も存在します。

予測精度は入院時に7割、2週時に8割、1ヵ月時に9割の高精度で最終的な歩行自立の可否が予測可能です。

このため、現在でも臨床で広く使用されている方法であり、脳卒中リハビリテーション分野では知らない人はいないぐらい有名な予後予測方法です。

 

使用する前に原著を必ず読もう!

二木立先生の予後予測方法は臨床でよく使われるだけに、ぱっと見で使用しやすいようフローチャートでまとめられた図が出回っています。

フローチャートは非常に便利で、僕も普段携帯して使わせていただき重宝しています。

しかし・・使用する前には、まずは原著を読んでください。

強調していいます。

 

「使用する前には必ず原著を読んでください」
(※一応読まなくても適切に利用できるように記事は書いていますw)

 

なぜ原著を読むことが重要かというと、原著にはこの記事でも後述する重要な注意点や各項目の評価方法の定義が明確に記載されているからです。

出回っているフローチャートの多くは、この点が欠落しているものが多いです。

 

仮に、あなたが臨床で担当する患者さんにこの方法を用いて予後を予測する場合、正確に予後を当てるには、まずはその患者さんが“報告されている論文の対象にあてはまるような方である”ということが重要な条件になります。

つまり、予後予測方法は、使用する対象があてはまっていないと使えません

 

これを天気予報の例で挙げるなら、鳥取県の天気を知りたいのに天気予報では東京の天気を確認するようなものです。

実際にこんな風に天気予報を見る人がいたら笑ってしまうかもしれませんが、予後予測もこれと同じようにぶっ飛んだようなことをしないように常に気をつけておかなければなりません。

また、仮にあなたの担当患者さんが対象にあてはまるような場合、次は評価項目をどのように評価するかが重要となります。

フローチャートにちっちゃく書いてある文字だけを読んで自分オリジナルの評価を行うのではなく、研究で行われた方法と同様の評価を行わなければまったく意味がありません 

 

このようなことは、原著を読めば書いてあります。

あら??私ちょっと怪しいかも・・

と思った方は、内容を再度ご確認ください。

 

この記事では、僕自身が必要最低限と思う箇所のみを載せております。

では、長くなりましたが、以下に二木先生の脳卒中リハビリテーション患者の早期自立度予測の論文を簡単にまとめたものを掲載します。

 

脳卒中リハビリテーション患者の早期自立度予測の流れ(フローチャート)

まずは、こちらのフローチャートで流れを把握してください。

 

ここで重要なのが、上記のフローチャートの評価の定義です。

BRSについては以前の記事をご参照ください(ベッドサイド上で評価を行うなら上田12段階片麻痺機能検査で代用可)。

 

評価の定義は以下の通り↓

 

ベッド上生活自立とは?基礎ADLとは?

※ベッド上生活自立

ベット上生活自立とは、最低限、一人で、ベッド上の起坐や座位保持を行う。車いすへの移乗や操作の可否は問わない。

※基礎ADL

基礎ADLは以下の食事、尿意の訴え、寝返り三項目であると定義されています。

食事

実行:毎回、最後まで一人で食べる。食べ方は問わない。
介助:経口摂取可能だが介助を要する。または、経口摂取不能で、点滴や経管栄養を行っている。

尿意の訴え

実行:失禁・尿閉がなく、正確に尿意を訴え、処理されるまで待てる。
介助:失禁、尿閉、正確に尿意を訴えられない、処理されるまで待てない。

寝返り

実行:看護師による体位変換を必要としない程度に自分で寝返りをする。完全側臥位になれなくてもかまわない。
介助:看護師による体位変換を必要とする。それが不要でも、意識障害・認知症のために体動が著しい場合も含む。

 

<両側障害の定義>

両側の運動麻痺だけではなく、片麻痺かつ体幹のバランス障害、体幹のバランス障害のみのもの(脳動脈硬化性Parkinsonismなど)も含まれている。

 

実際の使用方法

上記のフローチャートに記載されている評価時と同じ時期評価の定義通りに評価を行います。

各時期でフローチャートの項目に該当しない場合は次の時期まで評価を待ちます

また、フローチャートに記載されていませんが以下のような点も参考になりますので押さえておきましょう。

・59歳以下では、入院時に全介助でも「基礎的ADL」1項目でも実行なら最終的に屋外歩行自立となる。

・59歳以下では、入院2週時に全介助でも「基礎的ADL」2~3項目実行なら最終的に歩行自立となる。

・59歳以下では、入院1ヶ月時に全介助でも「基礎的ADL」2~3項目実行なら最終的に歩行自立となる(ただし、これは症例数が少ないために暫定的な結論)。

 

入院後1ヵ月の時点で、59歳以下かつ全介助の患者、および60歳以上だが“遷延性意識障害・痴呆・両側障害・高度の心疾患”を有さず、しかも基礎的ADLを2項目以上実行している患者では明確な予測は困難である。

 

これを用いれば、最終到達レベルとおおよその時期の予後予測ができます。

さらに、短期目標もおのずと設定できてしまいます。

これについてはイメージが湧きにくいと思いますので、実際に具体例を挙げて考えてみましょう。

 

例えば、入院時BRSⅣの場合は、

・短期目標(2週時)はベッド上生活自立

・長期目標(最終到達/2ヶ月以内)は屋外歩行自立

という風に設定します。

 

入院時BRSⅣ以上であれば、フローチャートに従って最終到達レベルは2ヶ月以内に屋外歩行自立となる可能性があることになります。

短期目標はどのように設定するかというと、ここで注目するのがフローチャートの2週時の箇所です。

2ヶ月以内に屋外歩行自立の状態になる方は2週時にはベッド上生活が自立しているという法則があることがわかりますでしょうか?

つまり、入院時にBRSⅣである場合は、2週時にはベッド上生活が自立します(入院時に基礎ADLのうち2項目実行可能な場合もこれと同じ)。

 

なお、もし経過中にこの設定通りにならない場合は長期予後を再度検討する必要があります。

予後予測は最初に行ったらその後しないわけではありません。

経過をみながら適宜評価・修正します。

 

上記の例の場合であれば、2週時点で再度ベッド上生活が自立しているかを評価し、自立していればそのままの長期目標を目指します。

もし自立していなければフローチャートの2週時点の最終的に歩行不可能になる項目に該当しないかどうかをみます。

これにも当てはまっていなければ、長期目標の2ヶ月以内に屋外歩行自立を一度保留にし、一ヶ月時点のベッド上生活自立を中期目標として挙げると良いのではないでしょうか。
(※治療プログラムは決してベッド上動作自立を目指すために起居動作練習をする必要はありません。歩行しましょうw)

 

 

それでは、最後に最も重要な脳卒中リハビリテーション患者の早期自立度予測の注意点を記載しますのでご参照ください。

 

重要な注意点

・自分が予測したい患者さんと脳卒中リハビリテーション患者の早期自立度予測の論文の対象者が同類のものであること

論文の対象者は以下の通りです。これと同様の症例でなければこの予後予測法を使うことはできません。

脳卒中発症後、第30病日目以内に入院(発症から入院までの期間:中央値 第2病日目、平均値 第6病日目)

片麻痺、両側性障害、(脳幹や小脳性の)失調症を呈する症例(上肢単麻痺や精神症状のみ、RINDやTIA、麻痺のないくも膜下出血症例は除外されており対象外。くも膜下出血も数は少ないが含まれている)

※入院後に病状や障害がさらに進行した症例や再発作を起こした症例、認知症を有する症例も対象として含まれている

二木先生は1987年に同様の予測方法を用い、より早期の発症から7病日以内に入院した患者(発症から入院までの期間:中央値 第1病日目=発症当日入院、平均値 第2病日目)に対象を絞り、症例数をさらに増やした検討を行っています。その結果は、入院時に7割、2週時に8割、1ヵ月時に9割の高精度で最終的な歩行自立の可否が予測可能であることが確認されました。

 

 

・自立度や基礎ADLの一般原則は原著通りに評価を行うこと

患者のできる(潜在)能力ではなく、日常生活での実行有無を評価する。

「自立」「実行」とは、患者が監視や介助および指示(促し)なしに、一人で自発的に、安全に、安定して、各動作を行っている場合に限る。

場所や日内変動で自立度や基礎ADLが異なる際は、より低い方の状態を選択する。

 

・入院後に病状や障害がさらに進行した場合や、再発作を起こした場合は、入院後の最も低い段階での自立度や基礎ADLを用いる(再発例も使用可

 

・個々の患者について各時期の予測基準が矛盾している場合は、遅い時期のものを採用する

 

 

どうでしょか?

重要な注意点、意外に重要だと思いませんか??

原著には、あなたの臨床にとって有用な情報ものっているかもしれません。

もし今回の内容を見て原著を読みたいと感じた方がおられましたらぜひ見てみてくださいね!

 

終わりに

今回、二木立先生の脳卒中リハビリテーション患者の早期自立度予測のポイントを簡便にまとめましたが、僕としては二木先生の資料をまとめるにはやや内容やボリュームにかけてしまった印象です。

この予後予測方法自体は非常に有用なものですが、この方法を提案するまでに至った二木立先生の研究論文の内容、これに記載されているような個々の症例まで検討する臨床力は、本当に尊敬に値するものを感じました。

最近の僕は、臨床研究をしても多変量解析でばかりで統計的な差に固執していましたが、二木立先生の色々な資料を拝見させていただく中で、「臨床に関わるものの研究は大きなデータを解析することじゃなくて、こういう風に患者さんをみてください」というようなメッセージを強く感じました・・(※二木立先生と僕は全く関係はありませんw)

 

参考資料

今回の記事の参考資料は以下の1と2のみです。

しかし、今回の記事を書いている中で、上記の「終わりに」で行ったようなことを感じたので、3)以降の資料は僕がその他の多くの方に読んで頂きたいと思うものも掲載させてもらいました。

1)二木立:脳卒中リハビリテーション患者の早期自立度予測.リハビリテーション医学.1982;19(4):201-223.
2)二木立:脳卒中の予後予測―歩行自立度を中心に.理・作・療法.1987;21(11):710-715.
3)脳卒中の早期リハビリテ-ション第2版 [ 二木立 ].医学書院.1992
4)二木立:脳卒中患者の障害の構造の研究―(第1報)片麻痺と起居移動動作能力の回復過程の研究.総合リハビリテーション.1983;11(6):465-476.
5)二木立:脳卒中患者の障害の構造の研究―(第2報)機能障害の構造および機能障害・年齢と能力障害との関係の研究.総合リハビリテーション.1983;11(7)557-569.
6)二木立:脳卒中患者の障害の構造の研究―(第3報)日常生活動作の構造の研究.総合リハビリテーション.1983;11(8):645-652.

 

 

本日は以上で終わりです。

最後までお読みいただきありがとうございました!

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