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パーキンソン病におけるリハビリテーションと住環境整備

こんにちは、cascade (@cascade1510 )です!

私はこれまでに約10年間、訪問リハビリテーションの業務を行ってきました。

このブログでも、これまでに住環境整備について考え方や実践について書いてきたりYouTubeによる動画にて、生活環境について解説していきました。

https://youtu.be/lVokFkLp5Z4

そしてそれぞれの疾患に対して、それぞれの疾患の特徴に応じた住環境整備が必要になってきます。

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認知症における住環境整備認知症における住環境整備について話しています。 ...

 

そして今回は、パーキンソン病における住環境整備についてリハビリテーションと合わせて書いていきます。

 

パーキンソン病には特有の症状があり、それにより日常生活に支障が生じたりすることがあります。

よって、これらのパーキンソン病に特有の症状を理解することで、それに対する対策を立てることができます

 

パーキンソン病の特徴・症状とは

ここで簡単にパーキンソン病についておさらいしておきましょう。

パーキンソン病は、脳内のドーパミンという神経伝達物質の不足によって、手足が震えたり筋肉がこわばったりして動作に障害が現れる神経難病の一つです。

パーキンソン病の代表的な症状として、以下の「四徴」があります。

パーキンソン病の四徴:
①振戦

②固縮

③無動(寡動)

④姿勢反射(歩行)障害

振戦については、片側の上肢から発症することが多く、続いて同側の下肢、反対側上肢、反対側下肢へと進むことが多いとされています。

固縮(筋固縮)は筋肉のこわばりによりスムーズに動作ができなくなる症状をいいます。

無動・寡動は、文字通り動作が無くなること、少なくなることで、素早い動きができずゆっくりとした動作になることを指します。表情が乏しくなり「仮面様顔貌」と呼ばれる症状を呈します。

姿勢反射障害については、身体の動きにあわせた立ち直りなどの姿勢反射ができず、体勢を崩して転倒しやすくなる症状を指します。歩き初めの第一歩がでにくい「すくみ足」や細かい歩幅で歩く「小刻み歩行」、歩き出すと体が前へトントントンと出てしまい止まれなくなる「突進歩行」といった現象がみられたりします。

 

ちなみにパーキンソン病における評価スケールについては、統一されたスケールもあるのでこちらをご参照ください。

パーキンソン病の病態把握のための評価方法 ~統一スケールUPDRS(Unified Parkin- son’s Disease Rating Scale)~パーキンソン病の病態把握のための統一スケールUPDRS(Unified Parkin- son’s Disease Rating Scale)について知りたいですか?本記事ではUPDRSの評価方法と評価の際のポイントについて解説しています。パーキンソン病をマスターしたい方は必見です!...

 

パーキンソン病におけるステージごとのリハビリテーションについて

パーキンソン病には「Hoehn & Yahr(ホーン・ヤール)の重症度分類」が広く知られており、そのステージの状態ごとにリハビリテーション内容も変化していきます。

ここでは、それぞれのステージごとのリハビリテーションについて概略を記しておきます。

①StageⅠ~Ⅱ

この時期では、活動性を落とすことなく維持することはとても重要であるため、職業を持っている人はなるべく仕事を継続したほうがよいです。

日常生活についても規則正しく行うことが必要で、できるだけ活動的に維持するようにします。

家庭にいる場合は簡単なスポーツ布団のあげおろし、買い物、草むしり、庭木の手入れなど適当なホームプログラムを作り実行します。

パーキンソン病では病院の訓練室以外の室内や戸外での歩行や運動もすすめられます。まずは1日最低30~45分の軽く息切れする程度の散歩がすすめられます。

高齢者では50~60VO2maxを一応の目安として、自覚的にややきついと感じる運動より少し軽い運動をこころがけます。

次のような症状が現れたら、運動の限界のサインとなります。

  • 翌日に疲れがかなり残る運動
  • めまい
  • ふらつきの出現
  • 前胸部の疼痛
  • 著明な呼吸困難など

運動についてはあそびなどを取り入れて、楽しみながらおこなうことでモチベーションを高めます。

患者および家族によるグループ練習、家庭でのパーキンソン体操なども行われたりします。

②StageⅢ~Ⅳ

ステージⅢでは可動域制限、姿勢反射異常、筋力低下、歩行障害、拘束性肺機能障害、摂食・嚥下障害、基本動作・ADL能力の低下などがみられるようになります。

歩行障害の様子は多彩ではありますが、日常生活では転倒の危険が高くなり、福祉用具の導入、住環境設備が必要になります。

また、ステージⅣではADLに介助が必要になり、介護者に対する介護技術指導や心理的サポートが必要となります。

この段階においてもステージⅠ・Ⅱでおこなったことで可能なことは行います

日常生活では、日課を定め、リズムある規則正しい生活をするようにします。
家庭内において、小さいことでもよいので役割分担を与えて満足感や自信を与えることも大事です。

運動療法としては、随意的な可動域が狭くならないように積極的に四肢の関節可動域運動、体幹の伸展、回旋運動、深呼吸運動、バランス練習、歩行練習を行います。

もし廃用性に筋力低下を認めれば積極的な運動療法を進めます。

書字や発声練習も必要な場合があります。
練習の形態は、日課を決めた家庭での練習が基本となります。
ときにグループ練習、通常の訓練室での個人練習がなされ、ホームプログラムが指導されます。

自律神経障害に伴う排尿障害、尿路感染症には、早期の評価と対処が行われます。

また長期の前屈姿勢により引き起こされる腰痛膝関節痛に対しては、腰痛体操や大腿四頭筋の筋力運動等がすすめられ、坂道歩行を避けることで慢性疼痛が減少することもあります。

本症の回復がみられないことに伴ううつ症状筋緊張性頭痛には運動療法とともに生きがいの獲得など心理的に配慮した指導を併用します。

さらに杖の使用や歩行器・シルバーカー等の歩行補助具を使用して日常的に歩行することも転倒防止や柔軟性の確保によいとされています。

③StageⅤ

このStage Vは、日常生活ではまったく介助を要し、車椅子に座りきりあるいはベッドに寝たきりになるレベルです。

ただし車椅子で外出の機会を与え、わずかな残存能力を使用させるようにすると全介助での完全な寝たきりを防止できることがあります。

リハビリテーションの場面では他動的な関節可動域運動を要することも多いです。

褥瘡、尿路感染、呼吸器感染には速やかに対処します。

 

それぞれの場面での住環境整備

パーキンソン病に対する住環境整備についてですが、それぞれのステージのそれぞれの場面に応じた対応を考慮しながら進めていきます。以下に各場面での住環境整備を紹介します。

・姿勢保持

日常生活において、臥位や座位での姿勢保持に留意します。

症状が進行して座位にて体幹や頸部の保持が困難になる症例では、例えば車椅子やベッドの背もたれの角度や高さを調節し、体幹前屈や頸部伸展を避ける工夫をします。

臥位においても頸部伸展や屈曲姿勢の継続を避けるために、枕の高さ、臥位のポジショニングを調整します。

また、視覚や聴覚、皮膚刺激といった刺激入力によって運動が誘発されやすいといった特徴もあり、パーキンソン病患者の姿勢改善には感覚入力を考慮したアプローチが効果的と考えられています。

 

・起居動作

寝返りが大変な場合、柔らかい寝具では動きにくくなるため、比較的固めの寝具が有効です。

また、寝返る方向と反対側の手で寝返る方向のベッド手すりや紐をつかむことで起き上がるきっかけを作り起き上がりやすくなったりします。

ベッド手すりがなかったり、布団を床に敷いている場合は、もともとのベッドや布団の横に起き上がり用手すりを設置する工夫もあります。

 

・歩行時

すくみ足や小刻み歩行に対して、廊下などには20~30cm間隔でカラーテープを張るなどすることがあります。

またレーザーポインターを照射することによって、立ち上がり動作や歩行動作が劇的に改善するようで、以下のサイトには動画もあります。

https://optinews.info/2018/11/06/parkinsons-disease-2/

 

そして、もともとレーザーが出るような杖や歩行器、さらには靴も市販で売られたりしてあります。

・ひかりステッキ

https://store.shopping.yahoo.co.jp/iru-collection/ts112.html

・アクトモアステッキ レーザーガイド

https://www.frontier-ph.com/main.cgi?c=2/1/1/1/1:25

 

・その他の日常生活時

日常生活においては、ドアの開閉、方向転換、物の出し入れ、浴槽への出入りといった動作の際にバランス障害が影響を与え転倒のリスクとなります。

このような転倒リスクを最小限にするためには生活場面での動作指導のほか、病室や在宅での環境整備が重要です。

例えば転倒の危険性がある場所には目印をつけて注意喚起したり、手すりを設置するなどします。

開き戸は開閉時にからだのバランスを崩しやすいので、引き戸の必要性が高くなります。

できれば間取りも、直角に曲がるような配置を避けたりします。

 

・車椅子駆動

車椅子を駆動する動作は、パーキンソン病において苦手な動作のひとつとなります。

歩行同様、上肢のハンドリムを動かす動作は小刻みで、さらに前傾姿勢になることによりキャスターにかかる比重が大きく、駆動効率が悪いためほとんど前に進みません。

そこで、車椅子のタイプを軽量なものに変更したり、車軸の位置やフットレストの角度、キャスターの種類を変更したりして駆動効率を上げる配慮が必要です。

また、StageⅢぐらいから側彎が出てくる症例もあり、適切なシーティングによる座位姿勢の確保が重要です。

・意思の伝達

パーキンソン病の症状として、介護者を呼ぼうとしても声が出ないことがあります。このような場合、介護者を呼ぶ手段として、発信機と受信機を無線でつなぐワイヤレスコールというものも有用です。

また、携帯用会話補助装置(トーキングエイド)も有効です。

おわりに

以上、運動療法とともに住環境整備の紹介を、主としてパーキンソン病について書いてきました。上記以外にも日常の様々な場面に応じて住環境整備を考えていく必要があります。

そしてここで挙げたことはなにもパーキンソン病だけに限らず、「多発性梗塞」、「薬物性パーキンソニズム」、「正常圧水頭症」、「脳腫瘍」、「外傷後パーキンソニズム」、「進行性核上性麻痺」、「黒質線条体変性症」、「凡発性Lewy小体病」などに起こるパーキンソニズムでもこれに準じてリハビリテーションプログラムや住環境整備は行われます。

疾患をひとくくりにしてもその症状や各個人の能力・意欲・性格、そして個人のおかれた環境は様々です。大事なのは、その対象者のその場面に合ったベストな選択を模索し続けていくことに変わりありません。

 

今回は以上です。

この記事が少しでもみなさんのお役に立てれば幸いです。

 

参考文献

1)平山恵造:臨床神経学,南山堂,2006

2)安藤和也,杉村公也:リハビリテーションのための神経内科学第2版,医歯薬出版,2005

3)村田美穂:パーキンソン病.総合リハ33(8): 709-712, 2007

4)野尻晋一,山永裕明,中西亮二:パーキンソン病の病期別理学療法ガイドライン.理学療法19(1): 23-30, 2002

5)東京商工会議所:福祉住環境コーディネーター検定試験2級公式テキスト.第5版,2019

 

 

ABOUT ME
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2020年4月より大学教員/Physical Therapist /Ph.D in rehabilitation/ 大阪大学理学部高分子科学→修士(M.S.)→Teijin Limited研究職→大学リハ学科→博士/介護予防/訪問リハ/研究や国試の勉強などを発信 理学療法士として何ができるか、理学療法士の枠にこだわらずに何ができるか、ワクワクするような新たな可能性を追い求めていきましょう!
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