その他

中堅療法士サミットを終えて、私がやってきた臨床研究について振り返る

中堅療法士サミットを終えて、私がやってきた臨床研究について振り返る

こんにちは、だいじろうです。

先日、#中堅療法士サミットにて臨床研究をテーマにしたイベントを企画させていただきました。

 

おかげさまで、イベントでは登壇者の先生方や視聴者の方々からも多くのご意見をいただいたことで、大変有意義なイベントとなったかと思います。

ありがとうございました!

 

アーカイブはコチラからご購入いただけます。

購入ページへ

 

私はファシリテーターという立場でしたので、イベント内で私見を発することは控えておりました。

“だいじろう”
“だいじろう”
当たり前だろ!

 

せっかくの機会でもありますので、本記事では、臨床研究の文化のなかったクリニックで臨床研究の文化を根付かせるために取り組んできたことなどをまとめてみようかと思います。

臨床研究に取り組んでみたい・臨床研究の文化を根付かせていきたいという方に少しでもお役に立てると幸いです。

 

私のなかでの臨床研究

 

あなたにとって臨床研究とはどんなイメージですか?

 

臨床研究の定義は「人を対象としたもの」とされており、非常に幅広いものがあります。

療法士が行う臨床研究のなかには、大学院で高度な計測機器を用いた研究や医療現場で簡便な評価ツールを用いた研究があります。

そして、それらの研究の対象が健常者だったり、地域高齢者だったり、実際の患者さんだったりします。

 

それらの組み合わせ(他にもあるかと思います)はどれも臨床研究として語られますが、背景がかなり異なる部分があるので、相手がどの文脈で臨床研究という言葉を用いているかを確認することは非常に重要です。

そこで、まずは以下で用いる「臨床研究」について共有しておきたいと思います。

 

私はこれまで整形外科クリニックで勤務してきて、そこで臨床研究をしてきました。

ですので、「医療現場で簡便な評価ツールを用いた研究」をしてきました。

その多くは患者さんを対象としたもので、イレギュラー的?に一般アスリートを対象とした研究もやったことはあります。

 

いずれにしろ、日頃の臨床の延長線上にあるような研究が多かったかと思います。

ですので、以下の内容はもしかしたら「高度な計測機器を用いた研究」に取り組んでいきたいという方には参考にならないかもしれません。

もちろん「医療現場で簡便な評価ツールを用いた研究」をやってきたからといってそれが正解だとは思っていませんし、反省する点が多いのも事実です。

 

以下の内容は、「あー、この人はこうやっていったのね」くらいの感覚でお読みいただき、参考になるところがあればパクっていただければ幸いです。

 

では、私にとっての臨床研究とはどんなものなのか?

私は以下のような目的で臨床研究に取り組んできました。

①患者さんにより良い経過をたどってもらう
②より確実に良い経過をたどってもらう
③療法士の業務負担を減らす
④施設の取り組みを発信する

 

①患者さんにより良い経過をたどってもらう

これはリハビリテーション終了時や在宅復帰時、競技復帰時といった時期により良い身体機能・活動/参加レベルに到達してもらうことを1つの指標としていました。

ここにはたとえば可動域や筋力、ADLといった医療者立脚型の評価と、DASHやJKOMのような患者立脚型の評価を導入していき、後者の成績を最優先にしつつも、前者の成績をより良くするためにどうしたらいいかを検討していきました。

 

②より確実に良い経過をたどってもらう

またより良い経過をたどってもらうことだけでなく、その経過をより確実にたどってもらうためにどうしたらいいかも検討していました。

 

運動器系であれば、ある程度疾患ごとに経過が決まってきます。

TKA術後であれば術後4〜6wで在宅復帰し、3M程度でADL自立しますし、腱板断裂術後であれば5〜6Mから重労働が可能となります。

圧迫骨折であれば6〜8wで退院。

そういった具合に疾患ごとにある程度の復帰の目安があるため、それに応えていくことが求められます。

 

もちろんこれは教科書的な基準ですので、実際にはそこから外れてしまうケースも少なくありません。

そのときに「なぜ外れてしまうのか」「外れてしまうことは本当に仕方のないことなのか」といった疑問を解決していくことが重要だと考え、臨床研究に取り組んでいました。

 

③療法士の業務負担を減らす

さらに私の施設ではいわゆる運動器リハだけでなく、消炎鎮痛での対応もしていました。

この仕組みを導入している理由としてはいろんなものがありますが、1つは自分たちの取り組み次第で「楽ができる」ということです。

 

「楽ができる」というのは単に仕事が減るということではなく、患者さんが最良(であると考えられる)の経過をたどるために療法士がかけるコストを最小化するということです。

そこを最小化することで、臨床研究や他の業務改善、地域への取り組みにも尽力する時間を捻出することができます。

トレーナー活動もやっていたので、そのための資料づくりや研鑽なども含めてです。

 

そうすることで、通常の療法士が108単位で週に100名程度に貢献するところを、同じような業務時間でそれ以上の方々に貢献できるようにしていました。

もちろん患者さんの経過は保った上でです。

 

④施設の取り組みを発信する

これは付属的な目的だったのですが、学会発表を通じて取り組んでいる臨床研究について報告していくことで、自施設での取り組みを周囲の方々に知ってもらうきっかけになります。

これは患者さんを紹介してもらえる導線にもなり得ますし、そういった取り組みをしたいという療法士のリクルーティングにもつながります。

 

ですので、施設の成熟度によっては大きな学会で発表したり、論文を投稿したりするよりも、地方の学会で発表するようにした方がもしかしたらメリットはあるのかもしれません。

 

以上のような目的で私は臨床研究に取り組んできました。

 

では続いて、実際に私が取り組んできたことについて紹介していきます。

 

まず私が取り組んだこと

 

えーっと、私が取り組んできたことを紹介するとか書いちゃいましたが、これからご紹介する仕組みは私が考えたものではなく、私が一番最初に勤めた職場の仕組みをパクったものです。

仕組み自体を運営していくことは大変な面はありますが、非常に有効なものだと感じていますし、汎用性の高いものだと思いますので、ぜひ参考になさってみてください。

 

前述した目的①②の通り、臨床研究は臨床成績を確認するためにやっていた側面があります。

そのためにまずはじめに取り組んだことは自施設の主要疾患のクリニカルパスの作成です。

 

過去数年分の患者データから自施設に来院する患者さんのなかで主要な疾患トップ3をピックアップしました。

“だいじろう”
“だいじろう”
スタッフが少なかったのでトップ3にしましたが、ある程度スタッフがいるのであればもっと増やしても良いかと思います。

 

そして、まずはその主要疾患トップ3の患者さんにたいして確実に「牛丼並盛」を提供できるようにしようと考えました。

「牛丼並盛」についてはこちらをご参照ください。

牛丼並盛とは?

 

主要疾患トップ3ですので、当然ながらよく遭遇する疾患であり、書籍や論文などでも多数取り上げられているものとなります。

そういった情報を参考にしてざっくりとクリニカルパスを作成しました。

 

このクリニカルパスは「何をするか」ではなく「何をクリアするか」を基準に作成していきました。

そして、定期的に評価していき、それらの基準をクリアできているかどうかを各スタッフがチェックできるようにしていました。

 

たとえばTKAであれば術後2wの時点で術中伸展可動域の獲得を基準としていました。

その場合、術後2wの時点でクリアできていなければアウトですので、その前に先輩・上司に相談するというルールを設けていました。

そしてその先輩・上司がクリアできなければさらにその上の立場のスタッフが対応するという流れです。

“だいじろう”
“だいじろう”
ここでいう上の立場は経験年数ではなく、TKAチームのリーダーとなります。1年目の子がその役割を担うこともあります。

 

もしクリアできなかった場合はなぜクリアできなかったのか、防げた事象なのか、仕方のない事象なのかをTKAチームで検討していきました。

 

そういった流れでTKAであれば術後1年時の患者さんの経過をより良いものにするためにどうしていったらいいかを検討し、その過程のなかで既存の報告とは異なる知見・新たな知見などが得られたら学会で発表するという流れでした。

“だいじろう”
“だいじろう”
術後1年時←これはもっと長期的に調べられたらいいなと考えています。

学会発表はついでにやるって感覚です。

 

これを実際にやっていくと、意外と仕組みを作っていくことで患者さんの経過をより良いものに保てるということが分かりました。

極端に言えば、フェイズごとにクリアすべき項目が出てきて、その項目をクリアするためにはセルフエクササイズやADL指導でも十分だということです。

 

そして、療法士はそれがクリアできているか・クリアできそうかをチェックすることと、クリアできなさそうなときにそれを徒手的な介入でサポートすることが主な役割となってきます。

そうすることで療法士がやるべきことは限られてくるので、その限られたことをより深めればいいという状況になります。

 

療法士がなんでもかんでもやる必要がなくなることで、患者さんの経過をより良く、より確実なものにできていたかと考えています。

 

実際に他施設から腱板術後の患者さんが転院されてくることが多かったのですが、その紹介元の執刀医の先生から「なぜキミのところに送った患者さんはみんな経過がいいの?」と言われました。

これは腱板チームのリーダーであったスタッフの功績です。

 

少し話がズレてきていますが、普段の臨床業務のなかに臨床研究を取り入れていくというスタンスが大切かと思います。

 

臨床研究に取り組んでいくことが臨床業務をより円滑なものにしてくれるようにするということですね。

そういったメリットを設けることは臨床研究を継続していくためには重要かと思います。

 

臨床研究のメリット

 

続いて臨床研究のメリットについて。

前述したような患者さんにとってのメリットや、スタッフや施設にとってのメリットがあります。

 

そして、私が臨床研究を導入して最も大きかったと感じるメリットは「共通言語・共通理解が得られたこと」です。

 

クリニカルパスの運営と臨床研究を連動させていくためには、まずそれぞれの病態についての理解を統一しておくことが重要です。

そして検査・測定についての正確性・再現性などを担保していくためにスタッフ間での理解や技術を共有していく必要もあります。

 

同じ施設の療法士でも疾患に対しての理解がさまざまだったり、どういった評価をするかが個人に丸投げされていることもあるかと思います。

もちろん完全に統一することが良いとは思いませんが、「牛丼並盛」を提供するためには軸となる部分は統一すべきだと考えます。

 

そして、その統一していく過程はかなり大変なのですが、統一できるとスタッフ間のコミュニケーションが非常に円滑になります。

いろんな齟齬がなくなってくるので、臨床業務以外の部分でもメリットが大きいように私は思います。

 

これは私が勤務していた施設を受診した患者さんが他施設でおっしゃられていたことらしいのですが、「あそこの施設はみんなが同じ対応をしてくれるから信頼できる」とおっしゃられていたそうです。

“だいじろう”
“だいじろう”
この言葉は嬉しかったです(T_T)

 

私は一応管理職という立場ではありましたが、全スタッフが同じような思考で業務に取り組んでくれていたので、私は責任をとるだけで良かったんですよね。

 

マネジメントコストを最小化してくれる。

 

これは臨床研究に取り組んでいった一番のメリットだと私は思いました。

 

臨床研究を根付かせるには

 

さてさて、じゃあ、この臨床研究を根付かせるためにはどうしたらいいか?

前述してもいますが、いかに臨床研究に取り組むことのメリットを設計できるかがポイントだと思います。

 

だれかの学会発表や論文投稿のため”だけ”に臨床研究を導入していくとなかなか協力は得られないと思います。

 

これは臨床研究に限ったことではありませんよね。

なにかを導入するためには必ず周囲の方々のサポートが必要となります。

 

そのためにはそれを導入することで周囲の方々が勝つように仕組みをつくっていく。

これが臨床研究を根付かせていくために大切なことだと思います。

 

まとめ

 

以上が「私が取り組んできた臨床研究」です。

 

私は今、フリーランスとして活動しており、健康教室などを運営しています。

一人ぼっちでの運営ですのでかなり難しい面がありますが、そのなかでできる臨床研究はなんなのかを悶々と考えたりもしています。

 

この記事が同じように臨床研究に取り組んでいる・取り組もうとされている方の一助となれば嬉しいです。

またご感想・ご質問・ごダメ出しなどがあれば、ぜひ記事をシェアしてツイートいただけると幸いです。

 

最後までお読みいただきありがとうございました!

 

今後とも中堅療法士サミットをよろしくお願いいたします!

 

ABOUT ME
だいじろう
だいじろう
理学療法士・アスレチックトレーナー 鹿児島でコンディショニングスペースIDOCOを運営 整形外科やスポーツ現場で経験を積み、現在はフリーランスとして整形外科のアドバイザーやトレーナー活動が中心。セラピストやトレーナーの方々がもっとワクワクして活動していけるような社会を実現したいです。 整形外科やスポーツ現場での経験で培ってきた知見をお伝えしていきます!
CLINICIANS公式コンテンツも要チェック!

 

充実の“note”で飛躍的に臨床技術をアップ

CLINICIANSの公式noteでは、ブログの何倍もさらに有用な情報を提供しています。“今すぐ臨床で活用できる知識と技術”はこちらでご覧ください!

≫ noteを見てみる

 

 

実践!ゼロから学べる腰痛治療マガジン

腰痛治療が苦手なセラピストは非常に多く、以前のTwitterアンケート(回答数約350名)では8割以上の方が困っている、35%はその場しのぎの治療を行っているということでしたが、本コンテンツはそんな問題を解決すべく、CLINICIANSの中でも腰痛治療が得意なセラピスト(理学療法士)4名が腰痛に特化した機能解剖・評価・治療・EBMなどを実践に生きる知識・技術を提供してくれる月額マガジンです。病院で遭遇する整形疾患は勿論、女性特有の腰痛からアスリートまで、様々な腰痛治療に対応できる内容!臨床を噛み砕いてゼロから教えてくれるちょーおすすめコンテンツであり、腰痛治療が苦手なセラピストもそうでない方も必見です!

マガジン詳細をみてみる

 

実践!ゼロから学べる足マガジン

本コンテンツでは、ベテランの足の専門セラピスト(理学療法士)6名が足に特化した機能解剖・評価・治療などを実践に生きる知識・技術を提供してくれる月額マガジンです。病院で遭遇する足の疾患は勿論、小児からアスリートまで幅広い足の臨床、エコー知見などから足を噛み砕いてゼロから教えてくれるちょーおすすめコンテンツであり、足が苦手なセラピストもそうでない方も必見です!

マガジン詳細をみてみる

 

実践!ゼロから学べる肩肘マガジン

本noteマガジンはCLINICIANSメンバーもみんな認めるベテランの肩肘治療のスペシャリスト(理学療法士)5名が肩肘の治療特化した機能解剖・評価・治療などを実践に生きる知識・技術として提供してくれます。普段エコーなどを使って見えないところを見ながら治療を展開している凄腕セラピストが噛み砕いてゼロから深いところまで教えてくれるので肩肘の治療が苦手なセラピストも必見のマガジンです!

マガジン詳細を見てみる

 

YouTube動画で“楽しく学ぶ”


実技、講義形式、音声形式などのセラピストの日々の臨床にダイレクトに役立つコンテンツが無料で学べるCLINICIANS公式Youtubeチャンネルです。EBMが重要視される中、それに遅れを取らず臨床家が飛躍的に加速していくためにはEBMの実践が不可欠。そんな問題を少しでも解決するためにこのチャンネルが作られました。将来的に大学や講習会のような講義が受けられるようになります。チャンネル登録でぜひご活用ください♪登録しておくと新規動画をアップした時の見逃しがなくなりますよ!

≫ YouTubeを見てみる

※登録しておくと新規動画をアップした時に通知が表示されます。

 

なお、一般の方向けのチャンネルも作りました!こちらでは専門家も勉強になる体のケアやパフォーマンスアップに関する動画を無料で公開していますので合わせてチャンネル登録を!

Youtubeを見てみる