呼吸循環

臨床的に考える低酸素血症

こんにちはリョウ(@HealthCare_ryo)です。

 

今回は臨床的に考える『低酸素血症』について基礎の基礎をお話します。

 

血圧などと一緒によく臨床で計測される経皮的酸素飽和度(saturation of pulse oximetry oxygen:SpO2)。

 

臨床でもよく耳にするのですが、

 

・SpO2 80%台です。
・運動するとSpO2下がりました。
・SpO2低いけど運動してもいいですか?

 

などなど。

 

でもセラピストとして「SpO2が低下している」

 

という現象のみを捉えるだけでは不十分です。

 

これらに関してはまず、

 

・なぜSpO2が低いのか?低下するのか?
・SpO2が低下する原因はなんなのか?

 

を考える必要があります。

 

セラピストとして「SpO2が低下している」のみでなく、

 

なぜ低下しているのか?

 

を考えて運動療法を提供する必要があります。

 

低酸素血症の原因

 

低酸素血症の原因は大きく4つに分類できます。

 

・シャント
・換気血流比不均等
・拡散障害
・肺胞低換気

 

この4つの原因がそれぞれ、もしくはいくつか組み合わさって低酸素血症という病態を生じています。

 

そのためまずはこれら4つの原因のメカニズムを理解しておくことがとても重要です。

 

 

1. シャント

 

シャントの代表的な例は痰での気道閉塞や無気肺です。

 

シャントとは換気がない肺胞に血流だけが存在する状態です。

 

本来、肺胞では取り込んだ空気と血液とでガス交換が行われています。

 

しかし、痰によって気道が閉塞したり無気肺となったりするとガス交換が行われません。

 

そのため低酸素血症を生じてしまいます。

 

 

臨床的ポイント

 

病態のメカニズムを理解したら臨床的に応用することが必要となります。

 

シャントによる低酸素血症を理学療法士として評価するポイントには聴診や画像所見があります。

 

シャントの代表例としては痰による気道閉塞や無気肺です。

 

なので聴診によって痰の有無を評価したり、画像所見によって無気肺の存在を評価しておくことが重要です。

 

 

2. 換気血流比不均等

 

換気血流比不均等の代表例は慢性気管支炎や気管支喘息などです。

 

換気血流比不均等とは肺胞での換気量と血液量のバランスが崩れた状態です。

 

肺胞ではガス交換が行われています。

 

十分な換気(肺胞換気量)と十分な血液(毛細血管血流量)があることで体内の酸素分圧は保たれます。

 

深部静脈血栓症のように換気に比べて血液量が少ない場合(死腔様効果)も、

 

上述した痰による気道閉塞や無気肺のように血液量に比べて換気が少ない場合(シャント様効果)も換気血流比不均等が生じて低酸素血症を来してしまいます。

 

 

臨床的ポイント

 

換気血流比不均等による理学療法介入でのポイントは『長期臥床による換気血流比不均等』です。

 

長期臥床によっても換気血流比不均等は生じてしまいます。

 

もともと健常人でも血流は重力の影響を受けるので下肺に多く分布し、

 

肺内の換気血流比は一様ではなく不均等に分布しています。

 

しかし、長期臥床ではこの不均等分布がさらに増大し換気血流比不均等による低酸素血症を来しやすくなります。

 

長期臥床患者や積極的なポジショニング管理がされていない患者では端坐位による離床や

 

側臥位や腹臥位などのポジショニングにて低酸素の改善をみることがあります。

 

これは端坐位や側臥位、腹臥位などによって換気血流比不均等の是正がされることが大きな要因です。

 

しかし、長期臥床患者の安易な離床やポジショニング変更にはリスクも当然あるので注意が必要です。

 

・離床による運動負荷によって息切れを来し低酸素が悪化する場合
・ポジショニング変更による痰詰まりを来し低酸素が悪化する場合
・深部静脈血栓症や肺塞栓により低酸素が悪化する場合

 

などなど

 

上記のようなリスクがあるので、

 

長期臥床で低酸素血症!=換気血流比不均衡!!=離床!!!

 

のような安易な離床は危険ですので注意しましょう。

 

 

3. 拡散障害

 

拡散障害の代表例はCOPDや間質性肺炎などです。

 

肺胞内のガスと肺毛細血管内の血液は薄い膜で隔てられています。

 

酸素がヘモグロビンと結合するためには拡散によってこれらの膜を通過し赤血球内に入らなければいけません。

 

しかし、肺胞壁の浮腫や線維化、胸水の貯留などの間質病変によって酸素が拡散しにくくなり、低酸素血症が生じてしまいます。

 

これが拡散障害による低酸素血症です。

 

ちなみに、酸素の拡散に要する時間は0.25秒と言われており、この時間の拡大によって低酸素血症が生じます。

 

 

臨床的ポイント

 

肺胞気からヘモグロビンまでの拡散のしやすさを拡散能と言いますが、これは各ガスの種類によって異なります。

 

拡散障害があると酸素は十分に拡散できないため、酸素化されない血液が増えてPaO2は低下します。

 

しかし酸素と二酸化炭素を比較すると、

 

二酸化炭素は酸素の20倍の拡散能を持っており、

 

拡散障害の影響を受けにくくPaCO2に変化はあまり見られないのが特徴です。

 

また、上述しましたが拡散障害では酸素の拡散に要する時間が拡大して低酸素血症が生じます。

 

そのため、酸素を受け取る側の血液の速度が速くなっても(運動による心拍数増加など)、

 

酸素化されない血液が増えて低酸素が生じます。

 

これを逆に考えると、

 

拡散障害の病態では血流速度を上げないようにゆっくり動いたり、

 

心拍数を上げないようにしたりすることで運動時の低酸素を緩和することが可能です。

 

 

 

4. 肺胞低換気

 

肺胞低換気の代表例は呼吸麻痺や気道狭窄、拘束性・閉塞性換気障害など多岐に渡ります。

 

肺胞低換気とはガス交換に必要な換気量が十分に得られない状態です。

 

呼吸筋疲労で呼吸運動が低下したり、

 

気道狭窄で肺胞全体に出入りする酸素の量が低下したりなどして肺胞低換気は生じます。

 

 

臨床的ポイント

 

低酸素血症を生じる4つの原因のうち、

 

PaCO2の上昇を認めるのは肺胞低換気のみです。

 

肺胞低換気は肺胞に出入りする酸素の量が減少したり、

 

換気運動そのものが障害されたりするため低酸素血漿のみならず、

 

体内にCO2が蓄積します(高炭酸ガス血症)

 

 

まとめ

 

今回は低酸素血症を生じる4つの原因について解説しました。

 

低酸素血症の原因

1. シャント
2. 換気血流比不均等
3. 拡散障害
4. 肺胞低換気

 

単に「SpO2が80%台に低下していて低酸素血症を来しています」

 

と言ってもそれぞれの原因で病態や理学療法のアプローチ方法が異なります。

 

現象のみを捉えず原因を深掘りして適切なアプローチを選択していきたいですね。

 

ABOUT ME
リョウ
リョウ
理学療法士|急性期総合病院の集中治療領域から地域の予防医療領域、オンラインでのトレーナー活動まで2000人以上を担当|その他予防施設での活動やオンラインでのヘルスケア活動、医療機器開発など、とにかく理学療法士という枠にとらわれず興味関心のあることはやってみる。そんなフリーダムな生き方がモットー。SNSも有益な情報をお届けするのでぜひ見てください!!
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