脳・神経

これで分かる!ギラン・バレー症候群の治療と予後

“たけ”
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こんにちは、CLINICIANSの代表のたけ(@RihaClinicians です!

今回はギラン・バレー症候群の「治療と予後」についてご説明します。

ギラン・バレー症候群の病態がわからない方はまずはこちらの記事をご覧ください。

これで分かる!ギラン・バレー症候群!〜経過、臨床症状、病態、重症度と診断基準まとめ〜ギラン・バレー症候群について知りたいですか?本記事では、ギラン・バレー症候群の経過、臨床症状、病態、重症度と診断基準について丁寧にまとめて解説しています。ギラン・バレー症候群をマスターしたい方は必見です!...

 

ギラン・バレー症候群の概要まとめ

念のため、治療の話をする前にギラン・バレー症候群の概要だけ確認しておきましょう!

定義

ギラン・バレー症候群のガイドラインでは、発症前4週以内に先行感染を伴う両側性弛緩性運動麻痺で、腱反射消失と比較的軽い感覚障害がみられ、脳脊髄液の蛋白細胞解離を伴い、経過予後はおおむね良好であることを特徴とする急性発症の免疫介在性多発根神経炎と定義されています。

経過

先行感染から始まり、1~3週間後に四肢筋力低下が進行し4週間以内にピークとなります。

その後、症状は6~12ヶ月前後で軽快することが多く、自然回復することから予後は比較的良好な病気といわれています。

臨床症状

ギラン・バレー症候群の主症状は急性に増悪する四肢の筋力低下です。

脳神経障害は顔面神経麻痺、眼球運動麻痺、嚥下・構音障害などがあります。

また、感覚障害が多く、異常感覚はしばしばみられます。

急性期には自律神経症状を認め、症状のピーク時は呼吸筋麻痺のため人工呼吸器が必要となります。

病態

ギラン・バレー症候群の病態は2つ、脱髄型(AIDP)軸索型(AMAN)に分かれています。

診断基準

ギラン・バレー症候群の診断基準は①NINCDS、②Dutch GBS study group、③Hoらによる脱髄型と軸索型の電気診断基準の3つがあります。

 

概要はこの通りですが、それぞれについて詳しく知りたい方は以前の記事を読んでみてください。

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治療

まずはギラン・バレー症候群の標準的な治療についてお話しします。

標準的治療は“血栓浄化療法”“免疫グロブリン静注療法”の2つあります。

これが、ギラン・バレー症候群の治療第一選択となっています。

 

血栓浄化療法(PE)

発症から7日以内に開始します。

この治療中は、循環動態の変動や留置カテーテルの血栓形成や感染などに注意が必要です。

 

免疫グロブリン静注療法(IVIg)

5日間連続で点滴静注されます。

点滴静注時に血管外へ漏れてしまうと投与部位を中心に皮膚潰瘍や皮膚壊死になる可能性があります。

効果は2週間から3ヶ月続きます。

IVIgの治療経過と副作用

・患者の免疫機構を刺激、抑制、調節することにより免疫応答機構を調節
・刺激作用として自己抗体の異化亢進作用
・開始30分以内に認められる副作用は、頭痛、悪寒、戦慄、筋肉痛、胸部苦悶感、全身倦怠感、発熱、悪心など
・重篤な副作用は、ショック、アナフィラキシー様症状、肝機能障害、無菌性髄膜炎、急性腎不全、血小板減少、肺水腫、血栓塞栓症、心不全など

治療中の注意点、リハのポイント

治療は血栓浄化療法と免疫グロブリン静注療法を2つ連続で行うこともあれば、片方だけ行うこともあります。

治療の順番は血栓浄化療法を行って、免疫グロブリン静注療法を実施していることが多いです。

治療中は副作用が強く、点滴が漏れてしまうと二次的合併症を引き起こしやすいため、治療中にリハビリを行うのは薦められません

しかし、治療期間は2つ合わせると1~2週間程度かかりますので、仮にその間ずっとベッド安静の状態になると・・廃用症候群の進行を招きます。

廃用症候群の予防に必要な運動量に関しては以下の記事をご参照ください。

筋力低下を予防するための運動量はどの程度必要か?論文からみた廃用性筋力低下を予防するための具体的な運動量筋力低下を予防する運動量について知りたいですか?本記事では、筋力低下を予防するための運動量はどの程度必要か?また、論文からみた廃用性筋力低下を予防するための具体的な運動量を丁寧に解説しています。適切な運動量を投与して効果的にリハビリテーションを勧めたいとお考えの方は必見です!...

 

この治療期間中は、治療が行われていない時間帯を狙ってリハ治療の投与を行いましょう。

私が実際に理学療法を行っていた前医では、治療の時間とは別にきちんとリハビリの時間を確保していただくように看護師さんに協力を依頼して確実に時間を確保していました。

この時期にもしっかりリハを投与しておけば廃用症候群の影響はなくなり、治療終了後の回復も非常に円滑に進みますので、病棟と連携して上手くリハ治療を投与しましょう。

また、治療期間中は医師も治療のためにベッド上安静の指示を出している施設が多いこととと思われます。

主治医に治療の病態や経過(効果)を確認することは勿論、廃用症候群のリスクと離床を含めたメリットとデメリットをディスカッションできるような療法士であることが重要であると思います。

 

予後

さて、ここからは皆さんが気になるであろうギラン・バレー症候群の予後または予後予測についてです。

ギラン・バレー症候群は病態や経過、年齢などでさまざまな因子により予後が変わります。

予後予測因子をまとめると以下の通り!

 

 

予後不良は高齢進行速度が早い軸索型の場合となります。

なお、進行速度に関しては表の表現だけではわかりづらいと思いますが、進行が早い例は

「筋力低下をきたし、独歩で来院。ギラン・バレー症候群の診断するために診察、評価などを行うが、1~2日で急に歩けなくなり、呼吸がしづらくなり、人工呼吸器装着となった。」

というような感じです。

この場合、独歩の方が数日で呼吸器装着となっており、進行速度は早く、予後不良因子となります。

 

逆に、「何ヶ月前から少しずつ筋力が低下し歩きにくくなった」ような場合は進行速度としては遅いため、予後良好になります。

 

次に、PEあるいはIVIgが行われたギラン・バレー症候群の予後については以下の通りです。

PEあるいはIVIgが行われたギラン・バレー症候群の予後

outcome:患者数 (割合)
発症後4週間:介助があれば歩行可31/172(18%)
発症後4週間:介助なしで歩行可35/172(20.3%)
発症後4週間:人工呼吸器装着44/308(14.3%)
発症後6ヶ月:介助なしで歩行可100/122(82%)
発症後1年以降:介助なしで歩行可292/347(84.1%)
発症後1年:筋力正常312/515(60.6%)
発症後1年以降:重篤な運動障害あり188/1349(13.9%)
発症後1年:relapse(再発)24/624(3.8%)
GBSのために職業を変更:31/82(37.8%)
GBS診断後1年以内に死亡:61/1391(4.4%)

 

こちらの予後予測で注目していただきたいところは、発症後6ヶ月と発症後1年以降のところです。

発症後6ヶ月で独歩不能例は18%、発症後1年での独歩不能例は16%であり、発症後6ヶ月を超えた以降の歩行能力の改善はほとんど得られません

つまり、このデータからは発症から6ヶ月が歩行能力の回復の限界ということになるでしょうか。

 

ただし、発症後1年の時点では、筋力が完全に回復したとされる例は61%です。

この段階で十分に筋力は改善しきっていない症例が多く残っているため、これ以降も筋力の改善に伴って歩行能力も回復してくる可能性があるかもしれません。

 

なお、注意しなければならないことは、上記のような予後予測に対する研究のほとんどは、独歩不能例を対象として検討が行われており、軽症例は除外されています。

よって、最も症状が悪い時でも歩けるような症例はこの予後予測に当てはめて使用できないといった問題があります。

さらに、電気生理所見の解析や病型の地域差なども考慮すべき問題がたくさんあります。

現状では上述した内容がギラン・バレー症候群の予後予測因子となりますが、予後予測の研究は今後の展望に期待しましょう!

 

終わりに

今回はギラン・バレー症候群の治療と予後についてのお話をしました。

ギラン・バレー症候群の治療はある程度確立したものとなっていますが、予後予測はいまだに研究段階です。

よって、この記事で書いた予後予測はあくまで一部分と捉えてもらえていただき、今後もっと良い研究が出るのを期待しておきましょう♪

 

本日は以上で終わります。

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

参考資料

1)江藤, 梅野,他:ギランバレー症候群に対する治療と理学療法,PTジャーナル,47(12);2013:1053-1059.
2)国分,桑原:Guillain-Barre症候群の電気診断,臨床神経生理学,41(2);2013.4:103-111.
3)大野,三村,他:Fisher症候群19例の臨床解析,日眼会誌,119(2);2015.2:63-67.
4)野村:免疫グロブリン大量静注療法の基本とpitfall,神経治療,31(2);2014:183-187.
5)海田:Guillain-Barre症候群の予後因子,臨床神経学、53(11);2013.11:1315-1318.
6)大野:Fisher症候群,神経眼科,31(1);2014:28-35.
7)東原:Guillain-Barre症候群の自律神経障害への治療,神経治療,30(1);2013:16-21.
8)楠:ギラン・バレー症候群,検査と技術,40(1);2012:6-10.
9)森:ギラン・バレー症候群,耳喉頭頸,85(6);2013:438-442.
10)尾花:43.ギランバレー症候群のリハビリテーション,総合リハ,40(5);2012:680-683.

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