こんにちは、CLINICIANSの代表のたけ(@RihaClinicians )です!
臨床における下肢筋力評価は等尺性筋力評価が用いられることが多いですが、等尺性筋力評価は測定のために高価な機器を必要とする欠点があります。
そのため、地域在住高齢者を対象としたフィールドでは、下肢筋力の評価方法として動作やパフォーマンスから下肢筋力を評価する方法がより広く用いられているようです。
今回は、その中でもよく用いられることCS-30(30秒椅子立ち上がりテスト)の評価法と数値の解釈方法についてご説明します。
CS-30とは
CS-30は30-sec chair stand test(30秒椅子立ち上がりテスト)の略です。
Jonesら(1990)によって考案された30秒の間に椅子から立ち上がることのできる回数を測定し、下肢筋力・パフォーマンスを評価する評価法です。
CS−30はレッグプレスを用いた下肢筋力測定結果との相関が高く(r=0.71)、下肢筋パワーの評価が可能と言われています。
また、本邦においても中谷ら(2002)や中原(2007)が60歳以上の男女を対象に信頼性(r=0.84-0.88)や妥当性(等尺性膝伸展筋力との相関係数r=0.44-0.5210)、リカンベントスクワットマシンによる膝伸展筋力との相関係数r=0.9011)を報告しており、近年広く使用されています。
CS-30の特徴
・高価な機器は不要、在宅にあるもので評価ができる
・30秒間という短時間で測定ができる
・体力低下者でも評価ができる(これと似た評価に10回立ち座りテスト(10回の起立着座を何秒でできるか)があり、これは10回の起立着座ができる人でないと評価困難であるが、CS-30はそのような方でも評価可能。)
評価方法
必要物品
・ストップウォッチ
・昇降運動用踏み台(高さ40cm)あるいは肘掛けと背もたれのない頑丈な椅子
方法
①踵の低い靴か素足で行う。
②椅子の中央部より少し前に座り、背筋(背中)を伸ばす。
③両脚は肩幅程度に広げ、膝の間を握りこぶしひとつ分くらい開ける。
④膝関節は90度からわずかに屈曲させ、足裏を床につける。
⑤両手を胸の前で組む。
⑥用意に続き“始め”の合図で背筋が伸び、両膝が完全に伸展するように立ち上がり、すばやく腕を組んだまま開始時の座位姿勢に戻る。
⑦背筋が伸びていなかったり、膝が完全に伸展していない場合はテストを中断し、再度測定する。
⑧30秒間できるだけ多く繰り返す。
・テスト前に5-10回練習させるとよい。
・テストの実施は1回とする。
・膝関節に違和感が生じた場合はテストを直ぐに中止させる。
・立ち上がったときの姿勢は、「両膝が完全に伸展し、背筋が真っすぐ伸ばされている」ことを確認する。もし完全に立ち上がっていない場合は回数からその数を減じる。
・立ち上がり途中で30秒に達した場合は1回にカウントする。
・壁を背にして実施するときは、座ったときや立ち上がったときに壁に頭をぶつけることがあるので補助者は注意する。
※評価方法を誤ると測定した数値は全く別物になるので測定データは比較に用いることができず、さらに再現性もなくなってしまうので注意!特に椅子の高さに注意!
結果の解釈:性別年齢別 5段階評価
CS-30の評価結果の解釈は、中谷ら(2003)が本邦における性別年齢階級別 5段階評価表(n=1469)を発表しているので、そちらのデータと評価結果を比較すると良いです。
文献の数値を表にまとめると以下の通りです。
年齢群 | CS–30回数 | ||||
優れている | やや優れている | ふつう | やや劣っている | 劣っている | |
5 | 4 | 3 | 2 | 1 | |
男性 | |||||
20~29 | 38以上 | 37~33 | 32~28 | 27~23 | 22以下 |
30~39 | 37以上 | 36~31 | 30~26 | 25~21 | 20以下 |
40~49 | 36以上 | 35~30 | 29~25 | 24~20 | 19以下 |
50~59 | 32以上 | 31~28 | 27~22 | 21~18 | 17以下 |
60~64 | 32以上 | 31~26 | 25~20 | 19~14 | 13以下 |
65~69 | 26以上 | 25~22 | 21~18 | 17~14 | 13以下 |
70~74 | 25以上 | 24~21 | 20~16 | 15~12 | 11以下 |
75~79 | 22以上 | 21~18 | 17~15 | 14~11 | 10以下 |
80歳以上 | 20以上 | 19~17 | 16~14 | 13~10 | 9以下 |
女性 | |||||
20~29 | 35以上 | 34~29 | 28~23 | 22~18 | 17以下 |
30~39 | 34以上 | 33~29 | 28~24 | 23~18 | 17以下 |
40~49 | 34以上 | 33~28 | 27~23 | 22~17 | 16以下 |
50~59 | 30以上 | 29~25 | 24~20 | 19~16 | 15以下 |
60~64 | 29以上 | 28~24 | 23~19 | 18~14 | 13以下 |
65~69 | 27以上 | 26~22 | 21~17 | 16~12 | 11以下 |
70~74 | 24以上 | 23~20 | 19~15 | 14~10 | 9以下 |
75~79 | 22以上 | 21~18 | 17~13 | 12~9 | 8以下 |
80歳以上 | 20以上 | 19~17 | 16~13 | 12~9 | 8以下 |
なお、中谷らはこの報告で以下のような総括を示されており非常に参考になります。
中谷敏昭,他:30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30テスト)成績の加齢変化と標準値の作成.臨床スポーツ医学20(3):349-355.2003.
CS-30テスト成績は加齢に伴って男女とも二次関数的な低下を示し、50歳以降にその低下度は大きくなることが示された。CS−30テスト成績の加齢変化には男女差は認められず、70歳以降では若年者の40~50%にまで低下することが明らかになった。
これらの結果は、下肢筋力や大腿部の筋量の加齢変化を報告した先行研究とほぼ同じであったことから、CS−30テスト成績の加齢変化は下肢筋力の変化と同じ傾向であるといえる。
結果の解釈:転倒カットオフ
転倒のカットオフ値に関する有用な報告は見当たらないが、川端ら(2008)は地域在住高齢者135例を対象にCS-30を行い、転倒歴(過去1年間の転倒既往を回想法で評価)との関連を報告している。
CS-30を転倒有無でROC曲線を作成した結果、最も統計学的に有効なカットオフ値は14.5回(AUC85.2%、感度88%、特異度70%)であった。
CS-30の転倒カットオフ値
14.5回
参考資料
・Jones CJ, et al.:A 30-s chairstand test as a measure of lower body strength in community-residing older adults. Research quarterly for exercise and sport. 1999;70(2):113-119.
・横川正美,他:筋力と椅子からの立ち上がり動作時聞との関係.総合リハビリテーション.2004;32(2):175-180.
・中谷敏昭,他:30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30テスト)成績の加齢変化と標準値の作成.臨床スポーツ医学20(3):349-355.2003.
・中谷敏昭,他:日本人高齢者の下肢筋力を簡便に評価する30秒椅子立ち上がりテストの妥当性.体育学研究47(5):451-461.2002.
・中谷敏昭,他:若年者の下肢筋パワーを簡便に評価する30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30テスト)の有効性.体育の科学52(8):65-69.2002.
・中原和美.:最大下肢伸展筋力および生活機能と30秒椅子立ち上がりテストの関連性. 理学療法科学.2007;22(2):225-228.
・川端 悠士,他:地域在住高齢者における転倒予測テストとしてのCS-30の有用性.理学療法科学.23(3);2008:441-445.
本日は以上で終わりです。
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