こんにちは、CLINICIANSの代表のたけ(@RihaClinicians )です!
今回は体表からわかるランドマークを用いた重心位置と姿勢の評価(力学的負荷の評価法と治療への応用方法)についてのお話です。
姿勢やアライメントから基本的動作を見ることは、理学療法では基本中の基本です。
しかし、意外にもネット上にはこの評価方法をわかりやすく説明しているサイトがありませんでした。
書籍には当たり前のように載っているのですが・・毎回色々な本を探すのは大変なので、簡単にまとめました。
ざっくり内容を見る
重心とは
重心とは身体の質量分布の中心のことです。
分かりにくい言葉ですが、以下の図の例のように、身体の色んな部分の重さの中心をとっていくと身体重心の位置が決まります。
右上肢と頭部の重心位置は、右上肢の重心位置と頭部の重心位置の均衡が取れるところになり、同じような感じで全ての部分の中心を結んでいくと一箇所に集まります。
このように、四肢や頭部などの全体の重さの中心となる点が身体重心の位置ということですね。
重心と支持基底面の関係
支持基底面とは、その名前の通り支持している底の面のことです。
両足で立っているときでは、接地している足底面の外縁を囲んだ範囲のことです。
前述した重心は身体の重さの中心となる点であり、重力はこれに対して床方向に一直線にかかります。
よって、重心位置から床方向に一直線の下ろした線(重心線)が支持基底面内にあれば物体は安定しますし、支持基底面から外れていれば回転する力(回転モーメント)が発生し物体は転倒します。
ただし、人の場合では、こんなに簡単には転倒しません。
なぜかというと、転倒しないようにこの回転モーメントをなんとか止める(拮抗する)ように筋肉を使って調整しているからです。
しかし、筋肉をつかって止めているとそれだけその筋肉に負担がかかります。
たとえば、上半身重心が股関節よりも前方にある場合、上半身は股関節を中心に前方に倒れるような回転モーメントが発生するため、それを防ぐために背部や股関節後面の筋群が常時働かなければいけない状態になるので、背部や股関節後面の筋肉にかかる負担がかなり増えてしまいます。
重心位置を評価することはこのような力学的負担を評価することにも応用できます。
補足)機能的支持基底面
先ほど立っている時の支持基底面について説明しましたが、立っている時に接地している足底面のすべてが真に体重を支持できるわけではありません。
たとえば、立っている時の前足部の足底面に画びょうが置いてあったとしましょう。
この場合、普通であれば(痛みをなんとも思わない超人でなければ)、画びょうが当たっている前足部には体重をかけられないと思います。
つまり、このようになんらかの理由で足底面に荷重をかけられない部分の支持基底面は、支持基底面であるけども機能的には使えない支持基底面であるといえ、これを機能的支持基底面と言います。
機能的支持基底面は、60歳より若い人では足長の約60%の範囲が機能的支持基底面として使え、60歳以上の高齢者では加齢によ伴い機能的支持基底面の範囲は徐々に減少していくことが報告されています。
重心位置の評価方法
臨床では前述したように各体節における重心をそれぞれ評価し、その点を結んでいくなんて方法は使いません。
かなりの時間がかかってしまいますし、正確に行うことは困難です。
身体重心の位置は「上半身重心」と「下半身重心」の位置の合成であることが報告されているため、臨床ではこれを用いておおよその身体重心の位置を判断します。
よって、以下の重心位置の基準を覚えておきましょう。
上半身重心の位置:第7~8胸椎部
※第7胸椎棘突起ののおおよその位置は、肩甲骨下角の位置になります。棘突起と各ランドマークの位置関係については以下の記事をご覧ください。
下半身重心の位置:大腿長の1/2~上1/3の間の点
身体重心の位置:上半身重心と下半身重心の中点
ここで注意しなくてはならない点が一つ!
上半身と下半身は動作中に動くので、動作中は身体重心の位置も変化します。
通常の静止立位の状態では重心位置は骨盤の中ほど(第2仙椎のやや前方)に位置していますが、スクワットを例に挙げると、スクワット動作時には下肢は屈曲して体幹は前傾するため、重心位置は骨盤よりも前に移動し骨盤の外に移動します。
動作中は適宜身体重心の位置が変化しているため、上半身重心と下半身重心をしっかりイメージして追いながら身体重心の位置を評価しましょう。
なお、動作中における力学的負荷も評価方法の例としてもスクワット動作がわかりやすいかと思いますので、これもスクワットを例として考えてみましょう。
体幹を前屈してスクワットを行った場合、身体重心の位置は骨盤のかなり前方に位置し、重心線は支持基底面内の前か中心辺りに落ちることになります。
しかし、体幹を前屈せずに上半身重心の位置を変えずにスクワットをした場合、身体重心はほぼそのままの位置か後方よりに位置することになるため、重心線は支持基底面内の中心かやや後方辺りに落ちることになります。
体幹を前屈した場合と前屈しない場合で比較すると、前屈しない場合は重心線が膝関節軸よりもかなり後方を通る位置になるため、体幹を前屈しない場合よりも膝関節を屈曲させる方向にかかる回転モーメントが強くなります。
このように、動作中も身体重心の位置が把握できれば、その重心位置から垂直におろした重心線と各関節の位置関係から関節や筋肉に加わる力学的負荷の推測が可能になります。
力学的負荷は、回転モーメントが強いほど強くなるため、前述のように各関節が重心線から離れている程度を見れば負荷が把握できますね。
スクワットの場合は膝関節の屈曲モーメントが強くなるため大腿四頭筋の負担が増え、膝蓋脛骨関節(PF関節)の負担も大きくなります。
変形性膝関節症の患者さんにスクワットをさせると同じようにPF関節に負担がかかるような方法を取られることが多く、膝を曲げた途端に「膝が痛い」とおっしゃられ、レントゲンではPF関節が磨耗していることが多いです。
膝関節に負担の少ないスクワット方法を指導することで、日常生活における起立着座機会の痛みが軽減することも多いです。
重心線と身体各部との関係
重心の位置が変化しなくとも、重心線と各部位との位置関係は変化します。
先ほど触れましたが、各関節の回転モーメントは関節が重心線から離れるほど強くなりますので、重心線と関節の位置が離れているとその関節や関節を制御する筋肉にかかる負担は大きくなります。
逆に、関節モーメントは関節が重心線に近くなれば弱くなるので、重心線と関節の位置が近くなるほどその関節や関節を制御する筋肉への負担は少なくなります。
重心線と各部位の位置関係の評価方法
理想的な姿勢は各関節や筋肉への負担が少なく、安定していて外乱刺激に反応しやすく、エネルギー消費が最小限となる姿勢です。
この姿勢は、一般的に以下の重心線と各部位の位置関係にある場合であるといわれていますので、以下の体表のランドマーク(指標・目印)を覚えて評価を行いましょう。
ランドマークは、皮膚や筋肉ではなく、位置が変化しにくい骨を用います。
※皮膚や筋肉は、片側のみが張っていたりすると、引っ張られたり捻れたりして位置が変化してしまいます。
前額面(前方)のランドマーク
・鼻
・胸骨もしくは剣状突起中央
・両側の上前腸骨棘もしくは大転子を結ぶ線の中央
・両側の膝関節(膝蓋骨)を結ぶ線の中央
・両側の足関節(内果もしくは外果)を結ぶ線の中央
※加えて、両側の上前腸骨棘、股関節、膝関節、足関節、第2中足骨が同一直線状にある状態
前額面(後方)のランドマーク
・外後頭隆起
・椎骨棘突起
・両側の肩峰を結ぶ線の中央
・正中仙骨稜(仙骨にある棘突起みたいな突起)
・両側の上後腸骨棘もしくは大転子を結ぶ線の中央
・両側の膝関節(膝蓋骨)を結ぶ線の中央
・両側の踵骨を結ぶ線の中央
※加えて、両側の上後腸骨棘、股関節、膝関節、足関節、踵骨が同一直線状にある状態
矢状面のランドマーク
・外耳道
・第7頚椎
・肩峰
・大転子の後方(股関節中心)
・膝関節の前方(膝蓋骨の後方)(約1.4cm後方:膝蓋骨のやや後方)
・外果の前方(約4.4cm前方)
重心線と各部位の位置関の評価を行う際には、ニュートラルポジションの評価方法も同時に行って全身的にアライメンをみると良いです。
補足)第7頚椎と仙骨底後縁の位置関係と力学的負担について
力学的負担が最小限である理想的な姿勢の評価に関しては前述の通りですが、別の視点からも推察できます。
健常者では、第7頚椎から床へ垂直に降ろした線が仙骨底後縁と一致します。
第7頚椎から下ろした垂直線が仙骨底後縁よりも前方に移動し股関節よりも前の位置になると、それだけ体幹や股関節を屈曲するモーメントが強くなりますので、背部の筋群や股関節伸展筋群にかかる力学的負荷が増大します。
逆に、仙骨底後縁よりも後ろにあるとこれらの筋群は楽な状態が保てます。これは腰痛治療などにも役立ちます。
臨床治療への応用
既に応用方法については出てきていますが、以下の点を意識して行うと治療を効果的に行うことができます。
重心位置を評価して過負荷部位を把握
重心線の位置を評価することで、各部位のどこに負担がかかっているのかが把握できます。
股関節を中心に制御を行うように治療をする
上半身重心と下半身重心について前述しましたが、人は重心の位置を大きく分けて上半身と下半身の位置を変化させることによって制御するとご説明しました。
これは治療にも応用することができます。
以下の図のように、上半身と下半身が股関節でつながっているようなモデルを用い、重心を特定の位置に固定した場合の例で考えてみましょう。
重心線の位置は股関節中心と一致するため、股関節中心の位置に固定してみて考えてみましょう。
上記の図のように、上半身と下半身を調節すれば股関節中心から重心位置が移動しないことがわかりますよね。
このように、上半身と下半身が協調して動かせれば重心位置を整えることが可能ですので、治療を行う際にはまずは重心を股関節中心のところに上手く調整できるように上半身と下半身を整えるような全身調整(徒手療法)や動作練習をしましょう。
つまり、まずは股関節の可動性を向上させたり、股関節制御を練習します。これは股関節機能を上げるだけで、上半身重心と下半身重心のコントロール能力が向上し、身体重心のコントロールする能力が向上するということが言いたいのです!
このように股関節機能を向上できれば、上述した理想的な姿勢アライメントの重心線に近い姿勢にその他の各部位を修正していくことで徐々に良好な姿勢・パフォーマンスに導くことができます。
治療を上手く運ぶためには、いきなり患者さんを寝かせて各関節の硬い部分などを見つけ出して調整しない方が良いです。
一見すると最初から悪そうな箇所を見つけて治しにかかる方が早いような気がしますが、大事なのは全体的なバランス!
わかりにくいので例を挙げると、
身体重心の位置は上半身重心と下半身重心の位置で決まってくるので、下肢に悪い箇所があるからといって下肢だけ治療を行っても、立った時には結局上半身重心が崩れているので再び治療前と同じ形に戻ってしまいます。
また、元に戻らなかったとしても、治療前の状態で患者さんは元々の日常生活動作を安定して行っていたわけですから、上半身重心の位置を治療していなければ普段と姿勢制御方法が変わってしまい、逆に容易にバランスを崩しやすくなる可能性が出てくるなどの問題が生じます。
まずは全体的な重心コントロール能力を上げるために上半身重心と下半身重心の中間となる股関節の機能を上げる必要があります。
重心位置のコントロールと姿勢変化の特徴を治療に用いる
なお、臨床では重心が前方向に偏っていたり、後ろ方向に偏っているなどの症例を目にすることが多いと思いますが、重心位置のコントロールと姿勢は、足底面(床面や支持基底面)を変化させることによっても治療を行うことができます。
以下のような特徴も応用してみましょう!
支持基底面を狭くする
荷重できる場所を前足部のみにすると重心の前方偏位、後足部のみにすると重心の後方偏位に誘導できます。
理想の重心位置に身体重心が落ちるような姿勢制御にしたければ、理想の重心位置になる外果のやや前方(土踏まずのやや後方部)辺りに接触面積がくるようにハーフストレッチポールの上に乗ってもらうのもありです。
傾斜のある台を使用する
昇り方向に向かって立つと前足部に荷重が偏るので重心の前方偏位、降り方向に向かって立つと後足部に荷重が偏るので重心の後方偏位に誘導できます。
上記の方法は全て、転倒せずに姿勢が保持できる状態を維持する練習を行うことで足部よりも上方に位置する各部位も重心に合わせて変化させる練習を行うことができます。
支持基底面を変えることで普段働きにくい姿勢保持筋群を賦活したりするような治療として応用できるということですね!
後方への重心偏位を促したいのであれば、後ろ歩きなども効果があります。
参考資料
本日は以上で終わりです。
今回は体表からわかるランドマークを用いた重心位置と姿勢の評価(力学的負荷の評価法と治療への応用方法)についてのお話でしたがいかがでしたでしょうか?
本当に基本中の基本ですが、重心位置、支持基底面、姿勢評価は応用しようと思えばいくらでも応用方法が出てくる面白いものです。
これらを上手く使いこなしてより有意義な治療にしたいものですね。
最後までお読みいただきありがとうございました!
https://connect-clinicians.com/pilates/neutral-position-supine/
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