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糖尿病と理学療法④〜低血糖症状とリスク管理〜

こんにちは、ようぞうです。

前回、インスリンについてお話しした際に少しだけ低血糖のことについて触れました。

糖尿病と理学療法③ インスリンとリハビリテーション〜ホルモンによる血糖調整の仕組みと運動療法時のリスク管理~糖尿病について知りたいですか?本記事では、糖尿病認定理学療法士が糖尿病のホルモン調整のポイントとリハビリテーション(運動療法)のリスク管理について丁寧に解説しています。糖尿病患者さんに関わるセラピストは必見です!...

 

今回はその低血糖についてもう少し掘り下げてお話ししていきます。

と、いうのも糖尿病患者さんのリハにおいてもっとも危険で出会う機会の多い症状が低血糖なのです。

そのため、なぜ起こるのか、そしてその対処及び回避方法についてお話ししていきます。

 

低血糖の定義 ~どのくらいが低血糖なの?~

定義としては「血糖値が生理的な変動範囲を超えて低下することによって様々な症状を呈した状態」となります。

教科書的には血糖値が70mg/dlを下回ると生じると言われており、その数値をもとに対処していく必要があります。

実際に私が所属する病院でも定時の血糖測定で70mg/dlを切るとマニュアルに沿って対処がなされるようになっています。

しかしながら、日頃から高血糖状態が持続している患者さんでは100mg/dl前後に低下した状態で生じることもありますので日頃からの血糖測定値を確認しておく必要があります。

ちなみに正常血糖値は70~110mg/dlの範囲が目安です〔患者さんに説明する際にはセブン-イレブンと大手コンビニの名前で覚えておいてもらうと良いですよ〕

 

低血糖の症状 ~交感神経症状と中枢神経症状~

低血糖の症状は大きく分けて二つあります。

症状が出始めた初期に見られる交感神経症状(70mg/dl前後を切った時から出始めます)と、さらに進行した場合に見られる中枢神経症状です(50mg/dlを切ると生じ始めます)。

交感神経症状

血糖値が下がり始めると、正常に保つために生体は初期反応としてカテコラミンやグルカゴン(前回出ましたね)を分泌し、血糖値を上げようと努力します。

いわば「ちょっとやばいかも」と思い始めて体が警告を発するのです。

その時に現れる症状として、冷汗・不安感・顔面蒼白・動悸などが現れます。

私たちでも日常生活で大きな不安感にとらわれた時(「あれ?台所の火を消して出たっけ?」とか「あ、今日大事な約束の日だったの忘れてた。うわ、どうしよう」など)、に似たような冷汗や動悸などが訪れます。あのような状況が何の原因もないのに起こると考えてください。

中枢神経症状

次に中枢神経症状では頭痛・眼のかすみ・動作緩慢・集中力の低下などが起こったのちに意識障害や、異常行動、けいれんなどが生じ、最終的に昏睡となります。

これは深刻な血糖不足が生じたことで体が動かなくなっていく状態です。

ひどいケースでは死に至ることがあります。

したがって交感神経症状が警告症状であるのに対し、中枢神経症状は生命の維持に関わってくる症状となります。

ところで、ここでひとつ注意点があります。

低血糖状態となるうえで上記の段階を踏んでくれるとこちらも対応の取りようがありますが、普段低血糖気味の人や自律神経障害(糖尿病性神経障害で詳しく述べます)の方は交感神経症状が出ないことがあります

すなわち警告症状による”アラーム”が鳴らない状態でいきなり重篤な中枢神経症状が生じます(これを無自覚性低血糖といいます)。

このため、普段から血糖値が低めの人についてはしっかりと事前に医師や看護師、またカルテの確認をしておく必要がありますので十分に注意してください。

 

低血糖とその対応 ~リハ中に起こったら~

低血糖を起こした患者さんは自身の変調の様子を知っているので、「この感じは低血糖かも?」と言われます。

一方で低血糖を起こしたことのない患者さんでは、状況が分からず、上記のような交感神経症状を「なんか変な感じ」とか「ぞわぞわしてきた」なんて表現されます。

また、いきなり中枢神経症状が出る場合もあります。

その状態を起こしたことのある患者さん本人に聞くと、「自分で低血糖症状が出たことに気づいて、家族に電話をしようとするけどカバンからうまく携帯を取れないのが続いた」とのことだったようです。

しかし実際の状況を患者さんの家族さんに聞くと「遠目から見ててカバンから携帯を出してはしまい、また出してはしまうのを繰り返していて不審だった」とのことでした。

このように低血糖では突然に説明のつかないような行動をとることがあります

「低血糖かも?」と感じたら、いったんリハを中断し、看護師に連絡して早急に血糖測定をしてもらう必要があります。

また病院内のように設備や看護師が近くにいるなど環境が整っていないケースではどうするか、といいますと、ひとまずブドウ糖を10gもしくはブドウ糖を含んだジュースなどを摂取してもらいます。

参考までに当院ではこの写真のようなブドウ糖をリハ室に備蓄しています。

 

低血糖を避けるには

血糖コントロールが不良の患者さんに対してはなかなか難しいものがありますが、一般の糖尿病患者さんではリハ中の低血糖出現を回避する方法があります。そのためには以下の点に注意してみてください。

空腹時の運動は避ける

教科書的に言われていることです。

空腹時は特に血糖値が低くなっていることもあり、この時間帯での運動は避けるべきです。

特に食事をとってから次の食事までもっとも時間の空いてしまう朝食前は避ける必要があります。

ただし昼・夕食時前の運動については絶対的な禁忌ではなく、日ごろの血糖変動や飲んでいる薬によってできる場合もあります。

この場合は主治医と相談して運動可能かどうか決めてください。

食後すぐの運動は避ける

食事をとってからエネルギーになるまでの時間は健常の人と比べると、糖尿病患者さんでは時間がかかります。

したがって食事をとってお腹がこなれるまで1~2時間の間をあけるようにしてください。

服用中の薬を把握しておく

服用する薬の種類によっても低血糖を引き出しやすいものがあります。

一般にSU(スルホニルウレア)薬と言われる薬及びグリニド薬、そしてインスリンです。

これら3つの薬は体内の血糖状態にかかわらず、インスリンを放出することで血糖を下げる効果があるため、食事の量がいつもより少なかったりすると血糖低下を引き起こす可能性があります。カルテなどではこの商品名を見かけたときはしっかりと時間を把握してリハに臨んでください。

SU薬・・・オイグルコン、ダオニール、アマリール
グリニド薬・・・スターシス、ファスティック、グルファスト、シュアポスト

 

まとめ

本日は以上で終わります。

今回の内容をまとめると以下の通りですね!

まとめ

・低血糖は「血糖値が生理的な変動範囲を超えて低下することによって様々な症状を呈した状態」で70mg/dl以下を差すことが多い。
・低血糖の症状は警告症状である交感神経症状といのちに係わる中枢神経症状の2種類。
・低血糖がリハ中に起こった場合はすぐさま血糖測定を。必要であればブドウ糖を服用してもらう事。
・低血糖を避けるには、ご飯を食べてしっかりと昇華された時間を狙うと良い

 

最後までお読み頂きありがとうございました。

 

運動をすることで血糖は降下します。

それは糖尿病における運動の目的の一つでもあるのですが、状況によっては低血糖を引き起こしてしまうリスクにもなることがあります。

そのためにしっかりとその機序と対策、そして何より避ける方法を知ってもらえてたら、臨床においても怖がることなく、冷静に対処できると思います。

ABOUT ME
ようぞう
ようぞう
【理学療法士/日本糖尿病認定療養指導士】 ある時に思い立ち、町や村を直す設計技師から人の身体を治す理学療法士に転身しました。そうして憧れの理学療法士になり、理学療法士にできることを探していたら、糖尿病理学療法に行き当たりました。そこで思うことは糖尿病は誰にでもなりうる病気であること、そして誰にでも避けることのできる病気であることを知りました。僕が知ってることを紹介していくことで、少しでも糖尿病を知り、そして糖尿病理学療法という世界に興味をもって貰えたら嬉しいです。
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