整形外科

頸椎症性脊髄症の基礎

こんにちは!理学療法士のこじろう(@reha_spine)です!!

CLINICIANSの中で主に腰痛や脊椎に関する内容をアップしております。

今回は、頸椎疾患である「頸椎症性脊髄症」について、基本的な内容を中心にまとめています。

 

頸椎症とは

頸椎症は症状により以下の3つに分けられます。

①変形性頸椎症

②頸椎症性神経根症

③頸椎症性脊髄症

①変形性頸椎症

主症状は頸部痛、頸部の圧痛、可動域制限などでいずれも局所にとどまります。

痛みは起床時や動作開始時に強く、椎間板や椎間関節由来と考えられています。

 

②頸椎症性神経根症

①の症状に神経根症状が加わったものになります。発症は50-60歳代が多くなります。神経根症は上肢症状が中心であり、頸部痛や一側性の上肢の疼痛が特徴的です。罹患した神経根支配の知覚領域に一致した放散痛やしびれ、知覚障害、筋力低下、腱反射低下が認められます。spurling testは重要な所見です。

 

③頸椎症性脊髄症

①の症状に脊髄症の症状が加わったものになります。先天性の脊柱管狭窄があれば発症時期は早くなり、40-50歳代での発症もあります。

 

今回は③の頸椎症性脊髄症について概要をまとめていきたいと思います。

 

頸椎症性脊髄症の疫学

・好発年齢:50歳代

 

・欧米人に比べ脊柱管が生まれつき狭い日本人に多く、男性は女性の2倍となります。

 

・黄色靱帯の脊柱管内膨隆が合併している場合, 脊髄はX線所見よりさらに高度
の狭窄状態に置かれます。

 

・好発部位:C5/6椎間

高齢者では加齢に伴う変化により下位頚椎の可動域が減少し,代償性に上位頚椎の可動域が増加します。よって高齢者の患者では65歳未満の患者と異っており,主病変の高位がC3/4,4/5である症例が約80%とかなりの割合を占めています。

 

 

発生因子

発生因子としては以下のものがあります。

①静的圧迫因子:椎間板の膨隆や椎体骨棘による脊柱管狭窄、先天的に頸部の脊柱管前後径が狭いなど

②動的圧迫因子:頸部後屈時の椎体のすべりなど

③循環障害因子:狭窄レベルでの白質および灰白質の虚血性変化など

 

これらの因子が混在することで複雑な病態を呈します。

 

特に、高齢者では動的な狭窄が強く関与していたとの報告があります。

 

動的因子として頚椎の不安定性の有無が重要であり,3㎜以上のすべりがあると本症が生じやすくなります。特に高齢者においてすべりは重要な因子であり,約半数の症例において認められます。
また、脊椎間不安定による動的狭窄の場合, 脊柱管前後径が12mm以下になる場合に脊髄圧迫が発生しやすくなります。

 

頸椎症性脊髄症の症状

主な臨床症状

①手足のしびれ(手指のしびれなど)

②巧緻性運動障害

③歩行障害(つまづきやすい、歩行速度の低下など)

④膀胱直腸障害(尿が出にくい、頻尿、残尿)

頚椎症性脊髄症の初期症状は両手指のしびれと歩行障害であり,それぞれ64%,16%いわれています。

 

手の巧緻運動障害、痙性歩行障害、手足の末梢優位で髄節に限局しないしびれ感や感覚障害が特徴です。

 

日常生活では箸が使いにくい、字が書きにくい、ボタンがとめにくいなどの障害が出ます。

 

また、歩き始めや階段昇降の困難、とりわけ下降が難しくなります。本症では下肢の筋力低下を伴うことは少なく,むしろ痙性歩行や失調性歩行を訴えます。痙性歩行が明らかな症例では両下肢の反射は亢進し,Babinski反射や足クローヌスが高率に陽性となります。失調性歩行のある場合には閉眼によってこの傾向は悪化し,Romberg徴候は陽性となります。

 

四肢の反射は圧迫髄節高位では低下し、それ以下では亢進します。

 

膀胱直腸障害では頻尿や排尿遅延、便秘などが出現します。

 

合併症

神経根症と脊髄症が合併することもしばしばあります。

 

また、.最近では高齢患者の増加によって,腰部脊柱管狭窄症との合併が少なくありません。頚椎症性脊髄症で手術を施行した350例中,脊髄造影で高率に腰部脊柱管狭窄所見97例(27%)下肢腱反射の低下20例(21%)を認めたという報告もあります。

 

灰白質と白質が障害された場合の症状

頸髄症で認められる症状は中心灰白質の障害である髄節徴候白質の障害である索路徴候に分類されます。

 

神経症状は髄節症状 (脱力, 筋萎縮, 腱反射低下~ 消失など) と索路症状 (錐体路障害, 知覚障害など) に分けて観察することが大切になります。

 

 

筋力低下,知覚障害は,索路徴候および髄節徴候のいずれからも起こり得るということです。

 

また、髄節症状は頸髄の被圧迫高位を示します。

 

頸髄が圧迫された場合、白質より中心灰白質の方が障害されやすくなります。そのため、髄節徴候が索路徴候よりも先に出現しやすくなります。

髄節運動細胞の40%が残存すれば髄節支配筋の脱力が発生しない可能性があるとも言われています。

 

病型分類~服部分類~

服部分類は脊髄病変の進行度に従ったもので治療方針を決定するのに有用になります。

 

圧迫部の脊髄中心部の灰白質に初発し,周辺へと広がることが定説となっています。 そして
その病変は可逆的なものから非可逆的なものへと変化していきます。

 

自然経過として脊髄障害は脊髄中心部(上肢症状)からはじまり,徐々に後側索(下肢の痙性麻痺),最後に前側索(下肢の温痛覚障害)に広がります。前側索までの症状が出現した場合や高度の脊柱管狭窄が認められる場合は症状が進行しやすいので手術のタイミングを逸しないようにすることが大切です。

 

また、下の図のように脊髄横断面の解剖学的位置と照らしわせてみると症候の進行が把握しやすくなります。

 

<脊髄横断面の解剖と伝導路>

錐体路では内側からC:頸髄、Th:胸髄、L:腰髄、S:仙髄の順に配列されています。

診断基準

①四肢のしびれ(両上肢含む)、手指の巧緻性障害、歩行障害のいすれかを認めるもの。

②単純X線像で椎間狭小、椎体後方骨棘、脊柱管狭窄(14mm以下)を認めるもの。

③単純X線像でみられる病変部位でMRIまたは脊髄造影上、脊髄圧迫所見を認め、臨床所見より予想される脊髄責任病巣部位高位と圧迫所見が一致する。

④頸椎後縦靭帯骨化症(OPLL)、頸椎椎間板ヘルニアによる頸髄症は除外する。

⑤脳血管障害、脊髄腫瘍、脊髄病変疾患、多発性末梢神経障害が否定できる。

 

手術に関すること

手指の巧緻性障害、歩行障害、排尿障害などの日常生活上の制限が出始めると手術適応を考慮します。

 

特に脊髄圧迫所見が明らかで短期間で症状が進行する場合や膀胱直腸障害を合併する場合は早期の手術適応となります。

 

6カ月を越えて持続しているしびれ感や知覚鈍麻は術後遺残しやすくなります。脊髄症が発症後数年以上も経過し、MRI上も脊髄萎縮や四肢の明らかな筋委縮や知覚障害などの廃用性変化を伴う場合には手術の改善率は特に悪い傾向となります。

 

opeは前方から侵入する「前方除圧固定術」と後方から侵入する「椎弓形成術」があります。

 

opeに関してはここでは簡単に触れることにしますが、脊髄症の改善に関しては両者で差はありませんが、前方法では隣接椎間障害が発生しやすく、移植骨の脱転などの合併症があることや、可動域や軸性疼痛に関しては後方法が劣るといったような様々な報告があります。

 

脊髄の症状は複雑で頸椎の症状の理解はなかなか難しいと思いますが、今回の記事を参考に臨床に活かして頂けると幸いです。

 

以上、簡単ではありますが今回は終了となります。
今後は頸椎症性脊髄症の評価についてもまとめていきたいと思います。

 

ではまた^^

参考文献

・都築暢之:「頸椎症性脊髄症」リハビリテーション医学1998. 35: 324-329

・田中雅人:「頚椎症性脊髄症の診療ガイドライン」岡山医学会雑誌.第122巻.April 2010.67-71

・頸椎症性脊髄症診療ガイドライン2105改訂第2版

・長谷斉:MEDICAL REHABILITATION No.74.59-64.2006

・古賀隆一郎:理学療法36巻.11号.973-982.2019

 

 

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