こんにちは、ようぞうです。
前回は糖尿病の低血糖についてお話ししました。
普段リハをしているときに出現する症状として、もっともポピュラーなのはこの低血糖です(もちろんあまり一般的ではいけませんが)。
今回からは患者さんと出会ったときに最初から持っていることの多い合併症についてお話していきます。
糖尿病合併症
糖尿病の合併症はその機序から、大血管障害と末梢血管障害の2種類に分割できます。
大血管障害
・壊疽(え)
・脳血管障害(の)
・心筋梗塞(き)
末梢血管障害
・糖尿病神経障害(し)
・糖尿病性網膜症(め)
・糖尿病性腎症(じ)
※ちなみに大血管障害は”えのき”、末梢血管障害は”しめじ”とキノコの名前で覚えておいてもらえたら、分かりやすいです。自分にも、患者さんにも。
この大血管障害は、はっきりとした症状であり、糖尿病に関係なくリハビリの1ジャンルとして確立されているのでここでの説明は割愛します。
今回お話しするのは末梢血管障害を対象とします。というのも、この障害たちは目に見えてこないので分かりにくいうえに様々な病気の基になる可能性が高いからです。
ちなみに、この末梢血管障害は身体の末梢にあるとっても細い血管が詰まることで生じる困った出来事である、ということを理解してもらえると病態の理解が進みますよ。
今回は末梢血管障害のうちでも糖尿病性網膜症についてお話していきます。
糖尿病性網膜症の実態
普段私達、セラピストはあまり眼の事に触れませんし、ほとんど知らない分野の事になります。
なのでこれからするお話はちょっと理解がめんどくさいなーと思われるかもしれませんのが、しばらくお付き合いください。
まず目の仕組みを思い出してもらいましょう(といっても習った記憶すら怪しいかもしれませんが)。目はどうやって見えるかというと水晶体を通った光が網膜に伝わります。
この網膜に入った光や色が視神経に伝わり、そこから脳へと伝達されます。
フィルムカメラにおける水晶体がレンズであり、網膜がフィルムにあたるのです。
フィルムはポリエステルでできていますが、網膜は人の体の器官ですから当然細胞で構成されており、そこには血管による栄養供給が必要になります。
この末梢血管が詰まると網膜の機能が劣化していくことが網膜症へと繋がっていくことになります。
この網膜症は其の病期により3つのステージに分類されます。
○単純網膜症・・・病変が網膜内に限局
○増殖前網膜症・・・網膜表層に病変が広がる
○増殖網膜症・・・硝子体内に増殖組織が侵入
もちろんこの各ステージの名前を暗記する必要はありませんが、すべてにおいて“網膜症”の名前がついていることに留意してください。
糖尿病患者さんのカルテを見た際に〇〇網膜症とついていたら、『!』と思い出してもらったらありがたいです。
また気をつけてほしいのは増殖期に進行する前までは視力低下を含む自覚症状がないことです。このため、しっかりとカルテ確認をしてほしいところです。
ちなみに脅すつもりはないですが網膜症が進行し、失明をきたす例は最近では
年間3000人
視覚障害の原因の第2位となっています(1位は緑内障)。このためしっかりと確認しておきたいところですが、ひとつ不安なことが出てきます。
というのも勤務する病院が大きい病院であり、眼科を持っていれば何も心配することはないのですが、そうでない場合は話が単純ではなくなります。
僕が勤める病院も眼科は併設されていません。
このため、内科医、看護師が協力して眼科の受診をするよう勧めています。
これにより最近では眼科の受診率も向上してきています。
『糖尿病ですよ』と言われても患者さん達はしっかりとした知識を持ち合わせておらず、痛くも痒くもありません。
ましてや眼まで影響があるなんて想像できるはずもありません。
このため、糖尿病患者さんと関わる機会があるならば、『そういや眼科の話って聞いたことあります?』くらいに話題を振ってみることもリハとして関われる大事なことです。
聞いたことある患者さんなら説明も簡単です。
また聞いたことがない患者さんには知識を得てもらう良い機会となります。
痛くも痒くもない糖尿病ですが、”失明“となると患者さんにも少し具体的な緊張感を持ってもらうことができます。
そうした小さな声かけが眼科の受診につながっていきます。
糖尿病性網膜症とリハビリテーション
糖尿病性網膜症を悪化・進行させるものは血糖管理の悪さはもちろんですがそのほかの重要な要素として血圧の上昇があります。
このため、運動に伴う血圧上昇を避けることが重要になります。
教科書的には以下のように規定されています。
○単純網膜症・・・強度の運動処方は行わない
○増殖前網膜症・・・眼科的治療を受け安定した状態でのみ歩行程度の運動可
○増殖前網膜症・・・日常生活動作能力維持のための運動処方と安全管理が必要
※いずれの病気もバルサルバ型運動(息をこらえて力む運動)は行わない
わかるようでわからない表現ですね。
ひとまず大事なことは主治医の指示をどの程度まで運動して良いかを必ず確認し、指示をもらうことです。
その上でストレッチングや軽い筋力トレーニング、自転車エルゴメータやウォーキングなどの有酸素運動を実施します。
単純網膜症の場合は中等度の強度での運動が可能と言われています。
このあたりは網膜症を発症していない患者さんと同じと考えて良いです。
ただし、血圧上昇を伴うことや息をこらえるような運動は避けてください。
特に運動をし慣れていない患者さんは筋力増強運動の際に、息をこらえてしまう傾向にありますから、必ずそばにいて観察してあげてください。
またジャンプや頭部を激しく動かすような運動も回避して欲しい所です。
また網膜症そのものへの対応ではありませんが、視覚の状態が悪くなっていることが予想されます。
このため、バランス障害やADLの低下、足部の管理などに支障が出ていることが想像されます。
生活を見ることのスペシャリストとしての私たちリハビリテーション職の立場からしっかりと評価をしておき、他職種へと伝えることも大事な役割になってきます。
まとめ
本日はは以上で終わります。まとめると以下の通りです。
・糖尿病の合併症は大血管障害と末梢血管障害の2つがある
・それぞれ”えのき”と”しめじ”で覚えると患者さんにも伝わりやすい
・糖尿病性網膜症は3つのステージがありステージ毎で運動の適応が変わる
・網膜症のある患者さんにはバルサルバ(息こらえ)運動は禁忌
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
網膜症に限らず、今後記載予定の腎症や神経障害などもそうですが、糖尿病だからと言ってただひたすらに運動をすればよいわけではありません。
時々患者さんの中にも治したい思いが強く、かなりの熱意と運動強度で頑張る方がいます。
そんな時に少しだけ手綱を引いて制御するのも私たちの大事な仕事じゃないかと考えます。
ま、もっとも急激な熱意と運動強度の上昇は長続きするものではありませんし。
ゆっくりと共に歩んでいきましょう、というのが糖尿病運動療法のもっとも大事なことかもしれません。
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