こんにちは。
鳥取県でウィメンズヘルスの情報を発信しているLISAです。
前回は基本的な排尿メカニズムや排尿障害の種類についてお話しました。
今日はその続編、女性にお悩みの多い「切迫性尿失禁」と「腹圧性尿失禁」の評価とアプローチについてお話します。
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切迫性尿失禁の評価
前回お話した通り、尿失禁は蓄尿症状(尿を膀胱にためておくことが困難)の一部です。
その中で切迫性尿失禁とは膀胱自体の蓄尿機能が低下して生じる症状になります。
要因としては過活動膀胱(overactive bladder: OAB)や神経因性膀胱がありますが、時には尿路感染症から生じた膀胱炎が原因となる場合もあります。
この場合には尿検査や残尿検査をする必要があります。
過活動膀胱とは膀胱が不随意(意図しない時)に収縮してしまう膀胱の状態です。
切迫性尿失禁の場合、必ず「尿意切迫感」という我慢できない尿意を感じる症状があります。
この尿意は普段私たちが感じる様な徐々に強くなる尿意とは異なり、どのような場面でも突然やってくる強い尿意です。
また、尿意切迫感を感じた時や直後に失禁が生じます。
これは「水の音を聞いたとき」や「トイレのドアノブに手をかけた時」などに起こることが多いです。
切迫性尿失禁が疑われたら、まずは過活動膀胱症状質問票(OABSS)をしてみましょう。質問票は次のURLからダウンロードできます。
http://minnano-haisetsu.com/images/OABSS.pdf
また、過活動膀胱や神経因性膀胱が生じる可能性がある疾患がないかどうかも確認します。
具体的には脳血管障害,神経疾患,糖尿病,子宮・骨盤内手術の既往,脊椎疾患などです。
切迫性尿失禁の治療法
切迫性尿失禁の場合、アプローチとしては行動療法があります。
別名「膀胱トレーニング」といい、尿意を感じたらトイレに行ける環境で5分間我慢をし、徐々に我慢する時間を伸ばしていくことで膀胱容量を増やしていきます。
また、3日間排尿日誌をつけることで実際に取っている水分量と排尿量が合っているか、失禁するタイミングに傾向があるかなどをみることができるので、排尿日誌をつけること自体が行動療法となります、書式は以下からダウンロードできます。
http://minnano-haisetsu.com/images/LUTS-diary.pdf
行動療法で改善ができない場合には薬物療法(抗コリン薬)がありますので、専門医療機関へ相談してください。
腹圧性尿失禁の評価
腹圧性尿失禁は読んで字のごとく腹圧がかかった時に生じる尿失禁です。
症状が起きる時は
①咳やくしゃみをした時
②歩行や走行した時③スポーツなどでジャンプした時
など特徴的です。
要因としては骨盤底筋の弱化があり、妊娠中には子宮の重みで膀胱や骨盤底筋が圧迫されて生じます。
経腟分娩で会陰切開など骨盤底筋にダメージを受けた人は一時的に生じますが、軟部組織の修復に加え骨盤底筋体操を行うことで改善します。
何人出産したか、経腟分娩か、出産時に会陰切開を行ったかどうかなどの出産歴は重要な情報です。
女性の場合には更年期以降、エストロゲンの減少により骨盤底筋の弱化が起こるため、60代以降になると腹圧性尿失禁の有病率が増加します。
肥満があり、重労働や日常的に腹圧がかかる動作が多い人や便秘気味で排便時にいきむ人も腹圧性尿失禁を生じやすいので日常生活の癖について問診することが重要です。
検査は泌尿器科で行われるストレステスト・60秒間パッドテスト・尿流動態検査があります。
腹圧性尿失禁のアプローチ
軽症の場合には3か月を目安に骨盤底筋体操(ケーゲル体操)を行うことが推奨されています。
骨盤底筋体操については指導する時にポイントがあるので後述します。
また、骨盤底筋体操以外にも、姿勢を整えること(円背姿勢の改善や骨盤を中間位に保つ)ことも骨盤底への負担を軽減させることができ、腹圧性尿失禁の改善につながります。
骨盤後傾位になっている方はこれを修正していくのも大切ですね。
保存療法で改善が困難な場合には中部尿道スリング手術で尿道を支えるという治療がありますので専門機関にご相談ください。
骨盤底筋体操を指導する時のポイント
実際に臨床をしている中でも骨盤底筋体操の指導は本当に難しいと感じています。
なぜならきちんと収縮できているかを直接確認できないから(医療機関によってはエコーなどを使用してできるところもあります)です。
しかしながら、指導する時のポイントがありますので、頭に入れておくことが重要です。
①クライアントに骨盤底筋について知ってもらう
骨盤底筋は見えるところにない筋なので、存在すら知らない人が多いです。
少なくともランドマークとなる恥骨結合・尾骨・両坐骨結節をクライアントさん自身に触っていただき、その4点の囲まれた中に骨盤底筋が存在することを理解してもらいましょう。
また、骨盤底筋は収縮することで会陰腱中心が頭側に移動します。
間違った収縮(いきむような)をすると会陰腱中心は足側(立位や坐位なら床側)に押し出されます。
そのイメージを掴むために風船を膨らませてもらい、腹圧がかかった時に骨盤底筋を収縮させないと会陰腱中心が押し出される感じを体験していただくことも効果があります。
収縮のイメージは
「膣を引き上げるように」
「ズボンのチャックを下から締めるように」
「おしっこを我慢するように」
など、様々なバリエーションがあります。
②呼吸とともに収縮させる
骨盤底筋は腹横筋と連動して収縮します。
また、横隔膜とは平行に存在するため、横隔膜が拳上(呼気時)すると骨盤底筋も拳上(収縮)します。
そのため、骨盤底筋を収縮させるときには息をはきながら行うことが重要です。
③姿勢を変えることで徐重力位から抗重力位へ
骨盤底筋が弱化している場合、座位や立位などの姿勢で骨盤底筋を収縮させることは難しいことが考えられます。
その場合には、四つ這いで臀部を高くした姿勢や背臥位で膝立ての姿勢など徐重力位で行うことで収縮をアシストすることができます。
徐重力位で収縮が可能になれば四つ這いや両手を机などの上に置き体幹を前傾させた姿勢、さらに座位から立位と少しずつ抗重力位にしていきます。
④速筋と遅筋を両方鍛える
骨盤底筋は速筋と遅筋の両方を持っています。
そのため姿勢の保持もでき、瞬間的に尿道を締めて尿を出さないようにできます。
そのため収縮させる秒数は遅筋の場合には10秒収縮させ10秒休むを繰り返し、速筋の場合には1秒収縮させて1秒休むのどちらも行います。
また、物を持つ時やくしゃみが出そうなときなどのタイミングで収縮することも練習になります。
⑤簡単にできるフィードバックを使う
ポイント①で話した通り、正しく収縮できている場合には会陰腱中心が頭側に移動します。
そこで、簡単にできるフィードバックとして骨盤底筋のある会陰部(恥骨・尾骨・両坐骨結節に囲まれた四角形)に折りたたんだハンカチを置き、そのハンカチから会陰部が離れるような感じがあれば正しく収縮できていることになります。
⑥生活の中で続けられる工夫をする
骨盤底筋体操は場所や時間を問わずにできます。
可能であればいくらでもしてもらっていいのですが、実際に続けることが困難と言われています。
そこで生活の中にトレーニングを組み込み、決まったタイミングで行うような工夫が必要です。例えば、テレビをみている時にCMの間は必ず行うなどです。
⑦定期的に確認する
骨盤底筋体操の効果についての調査では、はじめに指導を行っただけでは効果はなく指導者が定期的に確認することで効果がみられたという報告があります。
月に1回程度は正しく行えているかどうか確認しましょう。
混合性尿失禁について
これまで紹介した切迫性尿失禁と腹圧性尿失禁の2つが混在した混合性尿失禁も存在します。
この場合には、それぞれのアプローチが必要になりますが片方のアプローチだけで両方の症状が改善することもあります。
今回は以上です。
尿失禁は有病率が高くても受診率が低く、実際に困っている人は多くみられます。
尿失禁があることで外出をしなくなったり、やりたいことができなくなるなどのQOL低下にもつながります。
セラピストが関わることでこのようなお悩みを持つ方が少しでも減ることを願っています。
ちなみに・・股関節が良くなると尿失禁も改善したとこの論文では報告されているので、股関節の機能改善は骨盤底筋群の機能改善にもなるということ。面白いですね。
ウィメンズヘルスのこの知識は普段の臨床において色んなところで役に立ちます。興味がなかった方もぜひ勉強してみてください。
参考資料
・日本排尿機能学会過活動膀胱診療ガイドライン作成委員会編.過活動膀胱診療ガイドライン.ブラックウェルパブリッシング,2005
・日本排尿機能学会女性下部尿路症状診療ガイドライン作成委員会編.女性下部尿路症状診療ガイドライン.リッチヒルメディカル.2013
・https://minds.jcqhc.or.jp/n/cq/D0000262
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