こんにちは、骨折研究をしているまっつぁん(@fractureprevent)です!
自分の臨床や研究分野の学術論文を読む機会はあると思います。
目を引く研究結果であったり、
すぐに実践できるような内容であると
自分の行なっている臨床に取り入れたり、
自分の行なっている治療の根拠にしたくなるところです。
しかし“学術雑誌は玉石混交”。
根拠がしっかりとしており、有益な情報になるものもある一方で、
非常にデータの曖昧なもの、質の低いもの=信用できないもの
も多く存在します。
情報を取捨選択することは、臨床で患者を診療している我々の責任になります。
「論文の読み方シリーズ①」として
まずは医学雑誌の見極め方と論文が雑誌に掲載されるまでの過程をお伝えしたいと思います。
雑誌の種類
様々な医学系雑誌がありますね。
大きく分けると以下の3つに分類できます。
商業誌
学術雑誌
紀要
商業誌
商業誌は、商業出版社が営利を主な目的として発行する雑誌です。
“〇〇ジャーナル”的な雑誌ですね。
これはもちろん読者が購入する雑誌となりますので学会誌・協会誌、大学や研究所などの紀要などとは大きく区別されます。
内容としては投稿論文もありますが、編集者の意向に沿ったテーマの記事や論文を専門家に依頼し書いてもらうことが多いかと思います。
学会の学会誌
例えば“〇〇学会雑誌”というものです。
専門家の集まりである学会が主に所属学会の会員に対して配布する雑誌です。
ここの雑誌に掲載される論文は学会の会員のみに限られる場合もありますし、学会員以外の投稿も認められているものも多いです。
紀要
紀要とは大学などの教育機関、研究機関などに所属する教員や学生の作成した論文が掲載される雑誌です。
さて、ここで重要なのは
商業誌は“売れないといけない”ので“売れるテーマ”“トピックとなるもの”が優先されていると思います。
また専門家の意見も重要ですが、それはエビデンスレベルが低いということもよくよく考えて読む必要があるでしょう(1名の専門家が集めた記事に過ぎないという意味)。
学会誌もその学会がどのような団体か?どのような専門家が中心で動いているのか?メンバーは、規模は?なども論文の質に影響すると思われます。
紀要に関しては卒業論文に近いイメージですので、多くの専門家のチェックが入った論文が掲載された雑誌と比べると根拠のレベルは下がるかもしれませんね。
論文の種類
雑誌に掲載されている論文には以下のような種類があります。
我々が根拠として重要視するのは“原著論文”となります。
原著論文
オリジナルの研究を詳細に論じたもの。英語だと5000ワード程度。
短報
原著論文にはならないが、早急に公表した方がいい内容の研究論文。
総説記事(レビュー)
ある専門家が、あるテーマに沿って自分の研究や他者の研究を集めて論じたもの。
学会抄録
学会発表の要旨
ここで重要なのは“原著論文”を読むことでしょう。
理由は後にお話ししますが、原著論文は複数名の専門家の厳しいチェックが入って、修正や追加研究等を経て掲載されているからです。
一方で、総説は“依頼された原稿”であるのでチェックは入っていません。
ある専門家の1意見に過ぎないということになります。
抄録はそもそも論文、文献とはみなされません。
抄録を参考にしたり、論文に引用するのはNGです。
研究とは“原著論文”となってこそ意味のあるものだからです。
投稿の流れ
さて、どのようにして論文は雑誌に掲載されるのでしょうか?
Peer review (査読)という審査を経て“原著論文”として論文が掲載されるまでの道のりをお話しします。
論文ができたらまず、投稿する雑誌の投稿規定通りにテキストの体裁を直すことが必要になります。
投稿規定はその雑誌の法律です。法律に従わないと受け付けてはもらえません。
例えば、
見出しの書き方・・
引用文献のカンマの位置など・・
事細かいルールが各雑誌には存在します。
まずはそれをクリアする必要があります。
投稿された論文は、その雑誌の目的にあっているかを編集長によって判断されます。
例えば、手術療法に関する論文を保存療法のリハビリ関連の雑誌に投稿しても、それを読む読者にとっては全く興味のないものになるので、受け付けてもらえません。
また、
世界中で引用される影響力の高い英文雑誌(図2)などでは
その論文の質が低ければ投稿された時点で、
“申し訳ないが、あなたの位に添えない”
といった内容の編集者からのメールがすぐにきて(通称Editor Kickと言います。)投稿の受け付けすらしてもらえない場合もあります。
無事に受付されたら、
その投稿された論文内容が審査できる専門家による“査読”という論文審査が始まります。
この査読する専門家は
よく学会誌の裏表紙あたりにリストが記載されている編集委員であったり、
全く学会とは関係ない専門家にメールで依頼された場合もあります。
通常、2-3名の専門家がその論文を審査し、1-2ヶ月で一回目の審査が終わります。
以下の結果のメールが来ます。
①Accept: 雑誌に掲載可!
②Minor revise:軽微な修正で掲載可!
③Major revise:大きな修正を行い、再審査でOKであれば掲載可!
④Reject:掲載不可
一発でacceptされることはほとんどありません。
ほとんど③ですので、時間をかけて修正して再投稿
1ヶ月後くらいにまた結果がくる、、、といったやり取りを行い
うまくいけば半年かけて論文が雑誌に掲載されることになります(図2)。
掲載までの道のり-苦い思い出-
私が初めて英語論文を作成し、投稿した時のエピソードです。
4月に某雑誌に投稿し、翌日にEditor Kick笑
すぐさま、次の雑誌に投稿しようと思ったのですが、
上述したように雑誌には“投稿規定”がありますので、今一度次の雑誌用に原稿を修正。
ようやく2週後に完成し投稿しようとしたところ、
文献検索をしていると
自分が投稿しようとしている研究と似た内容の論文が
新たに他の雑誌に掲載されているではないですか!!
ということで、その論文を精読し、引用文献として“はじめに”に記載するために再度論文を修正。
ようやく2回目の投稿が1ヶ月後の5月にできました。
2ヶ月後、
Reject(不採用)の結果でメールが来ました。。。
負けじと
3回目の投稿を6月に行いました。
しかし、2ヶ月経っても返事がないので、
雑誌社に拙い英語で「審査結果はまだでしょうか?」とメール
「今、審査中です」と返事がありました。
さらに2ヶ月経ち、
再度「審査結果はまだでしょうか?」とメール
「今、審査中です」とテンプレートのような返事がまたありました苦笑
さらに2ヶ月(投稿から半年、1回目の投稿から8ヶ月)経過しました。
実はこの論文は“博士学位審査”論文でしたので、私は期日までにこの論文がAcceptされなければ、規定の3年間で大学院を卒業できなかったのです。
その後、学位論文提出期日1週間前になっても雑誌社から返事がないため、私は泣く泣く休学届けを出しました。
するとその翌日に一発でAcceptの返事が!苦笑
なぜ、こんなに審査が長かったのでしょうか?
理由は
“審査員が多忙で、論文を読む時間がなかったから”だと思います。
(それにしても半年は忘れていたとしか思えないのですが、、)
最近の雑誌は投稿から掲載までの流れは速くなっています。
私も現在、査読者として1年に5-10本程の論文審査を行いますが、
雑誌社から審査期日のアラートや催促のメールがよく来ますので1ヶ月以内には審査を終えるようにはしています。
ただ、この審査は無償で行われています。
さらに研究の専門家はみな忙しい方ばかり。
論文を読み審査する時間に時間がかかるのは致し方ないと思います。
ハゲタカジャーナルに気をつける
ハゲタカジャーナルという言葉をご存知でしょうか?
高い審査料や論文の掲載料を要求し、ろくな審査も行わないのに掲載する雑誌が急速に増えています。
これは1つの商売になっている訳です。
では、なぜこのような雑誌が存在するのでしょうか。
教育・研究者は研究を行い、論文を書くことが仕事ですので、論文数などが“業績”として評価され昇給に関わります。
中にはそのような“業績”がないため、お金を払ってでも欲しい方が存在する訳です。(研究発展途上の国の研究者に多いと聞くこともあります。)
しかし、そのようなハゲタカジャーナルへの掲載はかえって自身の業績評価を下げ、そのひとの価値を下げることになります。
我々の身近な日本の雑誌でも掲載料を多く取り、建前上の審査で“必ず掲載する雑誌”があります。
ですので、質の低い、もしくは誤ったデータの研究論文ですら雑誌には掲載されている可能性があるのです。
論文を読む立場の臨床家は、
▶︎どのような雑誌に掲載されている論文なのか?
▶︎その雑誌はどの程度社会的に影響があるのか?
▶︎誰が審査しているのか?
など、資料の質も判断しておかないと
誤った質の低い情報を使って臨床を行うことになります。
繰り返しますが
雑誌掲載されている論文の全てが立派なものでなく
玉石混交
です。
“論文内容の質“をチェックすること(また記事にしますが)の前に、
掲載されている雑誌がどのようなものか、よくよく理解した上で文献を読みたいものです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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