記事をご覧の皆さん、はじめまして。
東京都で理学療法士をしている根岸(ねぎし: @pt0729)と申します。
今回は臨床家が知っておくべき「シーティングの基礎」について記事を書かせて頂きます。
シーティングは「当事者の状況に合わせて快適な座位姿勢を設定するための活動・手段」とされ、臨床上も主に車椅子を使用されている方に対して重要なチェックポイントとなります。
シーティングは二次的な障害な予防や座位姿勢の改善、ADLの向上などを目的に実施します。
臨床家は、姿勢評価を中心に評価を行い、本人にとって機能的、目的的に適した座位姿勢の設定を行うことが重要です。
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シーティングとは
まずシーティングの定義を確認しておきましょう。
シーティングとは、ヒトの座位姿勢と、それを重力空間上で保持するための用具で構成される概念である。
ヒトが椅子や車椅子などに座った状態を身体的・社会的に最適化することによって、車椅子使用者の生活の質を向上させることを目的に、医療や保健・福祉・工学などさまざまな立場から提供される技術や活動の総体である。
1)光野有次氏 吉川和徳氏『シーティング入門 座位姿勢評価から車いす適合調整まで』中央法規出版より
主に障害者や高齢者を対象とし、食事や休息など人が必要とする日々の動作や、就学や就労やスポーツなどの社会活動を実現するために、おのおのの座位姿勢を最適化するアプローチを、私たちは「シーティング」と呼びます。(車椅子シーティング協会)
これらの定義を踏まえると、シーティングとは
「当事者の状況に合わせて快適な座位姿勢を設定するための活動・手段」
だと捉えることができます。
病院や施設で働くセラピストの方は実感すると思いますが、車椅子を使用している患者様の多くは介入以外の時間は座位で過ごされる場面が非常に多いです。
つまり、快適な座位を設定することは、その人のADLの改善にも直結します。
シーティングの目的
シーティングの目的は対象者により様々ですが、主に以下のようなものが挙げられます。
・変形、褥瘡、拘縮など二次的な障害の予防
・摂食、嚥下、心肺機能の改善
・寝たきりの防止
・車椅子の走行性、移動能力の向上
・介助量の軽減 etc…
適切なシーティングを行えていないと、座位姿勢の崩れが生じます。
これにより拘縮や褥瘡が発生すれば、
移動や食事など活動面にも悪影響を及ぼし、
ADL能力の低下
につながります。
不良姿勢としてよく挙げられる「仙骨座り」を例に考えてみましょう。
仙骨座りは、脊柱の過度な屈曲や骨盤後傾などが原因で、坐骨ではなく仙骨部で体重支持を行う状態を指します。
これにより腹部、胸郭の短縮が生じることで上肢体幹の協調動作、呼吸機能の低下など生じます。
更に仙骨部は褥瘡の好発部位であり、ここに褥瘡が生じれば、そもそも座位をとる事が困難になり、疼痛や感染リスクの上昇にも繋がります。
シーティングの流れ
シーティングでは以下の3つの評価が必要になります。
1 臥位での姿勢評価
2 現状の座位姿勢の評価
3 シーティング後の座位姿勢の評価
これらについて順にご説明していきます。
臥位での評価
まず臥位での評価は、主に姿勢・下肢関節可動域・筋緊張・呼吸状態を中心に「座位を取る為に必要な能力があるかどうか」を確認します。
例えば、膝関節、股関節の屈曲可動域が90°以下であれば標準型車椅子の使用は難しく、リクライニング機能を持ったものを選定したり、フットサポートの位置を調整したりする必要があります。
また、臥位・座位での筋緊張や呼吸状態の変化を評価し、臥位でのポジショニング、座位でのシーティングの共通点と相違点をピックアップすることで、より細かな姿勢の設定を行うことができます。
現状の座位姿勢の評価
現状の座位姿勢の評価は、シーティングとして車椅子や姿勢の設定を行う前にどんな座位姿勢となっているのかに着目します。
この時、臥位での評価で明らかな問題点がなくとも、左右前後方向への姿勢の崩れが生じていたり、座位そのものの安定性がなければ、アームレストや背もたれの調整が必要となります。
また、その姿勢を自ら調整、修正することができるのかを評価することも重要です。
シーティング後の座位姿勢の評価
シーティング後には、設定した座位姿勢を保持する能力があるかどうか、姿勢の再現性があるかどうかなどに着目し、シーティング前後での比較を行うことが大切です。
また、機能的に良いとされる姿勢であっても、利用者にとって快適さが無ければ、適切なシーティングとは言えないため、本人にとって座りやすいと感じる状態であるかどうかを確認することが大切です。
座位能力の評価
シーティングを行うにあたって座位能力の評価は重要な項目です。
座位能力の評価方法は多々ありますが、今回はHofferの座位能力分類(JSSC改訂版)をご紹介致します。
Hofferの座位能力分類(JSSC改訂版)の使用方法
足が床に着く高さで、しっかりした座面上(理学療法や作業療法で使用するプラットホームなど)に端座位で座った状態を評価する.。
座位能力1(手の支持なしで座位可能)
端座位にて手の支持なしで30秒間座位保持可能な状態
座位能力2(手の支持で座位可能)
身体を支えるために、両手または片手で座面を支持して、30秒間座位保持可能な状態
座位能力3(座位不能)
両手または片手で座面を支持しても、座位姿勢を保持できず、 倒れていく状態
Hofferの座位能力分類(図解)
まとめ
今回はセラピストが知っておくべき「シーティングの基礎」について記事を書かせて頂きました。
冒頭でも記載したように、適切なシーティングの実践はADLの向上に繋がります。
セラピストは介入している時のみの状態に着目しがちですが、車椅子利用者の一日のスケジュールを踏まえると、それ以外の時間の方が長くなることが多いと思います。
臨床業務に取り組むセラピストの方々は、一度はシーティングの重要性について目を向けてみてください。
次回は「適切な車椅子の設定方法」について書かせて頂きたいと思います。
記事をご覧下さりありがとうございました。
参考文献
1) 光野有次,吉川和徳氏:シーティング入門 座位姿勢評価から車いす適合調整まで
中央法規出版,2007
2)福祉用具プランナーが使う- 高齢者のための 車椅子フィッティング マニュアル
3)廣瀬秀行,木之瀬隆:高齢者のシーティング,第1版,三輪書店,2006
4)Hoffer MM:Basic considerations and classifications of cerebral palsy.In American Academy of Orthopaedic Surgeons:Instructional course lectures.Vol.25,St Louis, The C.V.Mosby Company,1976,pp97-98.
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