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ICF (国際生活機能分類):地域包括ケア・地域リハビリテーションにおける活用方法

こんにちは、cascade (@cascade1510 です!

今回は地域でのリハビリテーションにとって大事な考え方の一つであるICF (国際生活機能分類)の考え方についてです。

ICFについてはおそらく大半の方が名前をご存じだろうと思います。

特に大学や専門学校など養成校時代に、制度とかの話のときに聞いたことがある程度でしょうか。

「あれでしょ?、ICIDHがICFの流れになったっていうやつでしょ?」

そんな声が聞こえてきそうです。

なんとなくの理解はあるかもしれません。

 

しかし、今後も地域包括ケアシステムを目指した地域リハビリテーションに向け、医療保険や介護保険制度の改正の流れが進んでいくなかにおいてこのICFの理念はとても重要になってくるでしょう。

 

 

病院など医療機関で勤務しているセラピストの方たちもこのICFの理念を知っておくと、細部だけにとらわれない広い視点を持ったリハビリテーションができるのではないかと思います。

 

ただこのICF、学校などでは習ったけど、実際に臨床や介護の現場に出てからは、ICFを見たこともなければ使った事もない、そもそもICFをどう使ったらいいかわからない、などといった声も上がっています。

なので今回は、なるべく分かりやすくするよう、まず最初に実際の例に当てはめながら説明していき、さらに我々が実際に臨床などでどのように活かしていくかを考えていきたいと思います。

そしてその後にICFの歴史各項目についての詳しい内容について触れていきたいと思います。

 

ICF (国際生活機能分類)の概要

まずはこの図。おなじみですね。

 

一つ一つの項目の細かい用語の説明はこの後に詳しく説明していますが、まずはざっくりとした理解から説明します。

このICFでは以下の5項目がメインになります。

・心身機能

・活動

・参加

・個人因子

・環境因子

 

 

それぞれの項目をそれぞれ簡単に説明していきます。

 

心身機能

筋力や可動域や痛みなど、肉体や精神の状況を指します。

活動

食事や歩行などのADL(日常生活動作)や買い物や家計の管理等のIADL(手段的日常生活動作)も含めた生活での動作全般を指します。

参加

学校や会社等の組織に属していることや、趣味のサークル活動への参加、さらには家庭内での役割等も含みます。

個人因子

その人個人に関するもの、例えば性格・趣味・身長・職歴・生活リズムなどです。

環境因子

その人個人以外の周りの環境、例えば家の状況だったり町内や自治体、また家族環境だったりといったものです。

 

ICFではこの5項目を全体的に見ることで、その人の全体像をつかむことができます

 

リハビリテーションでのICFの活用

ではさっそく上記のICF図を実際の臨床の場面での図に置き換えてみましょう。

 

これは実在するあるデイサービス利用者Aさん(80歳台女性、要支援2)についてのICFの図の例です。

 

 

どうでしょう。

 

既往歴や画像データ、血液データなどもっと詳しい情報を知りたいかもしれません。

たしかに詳しい情報については細かく載せていませんが、この図だけでもなんとなく全体像が見えてきませんか?

 

そうです!

このICFの考え方の利点として、その人とそれを取り巻く環境など全体像が把握できるところがまず良いところですね。

 

色々な検査データや評価結果などの情報があればなおさら良いのかもしれませんが、在宅や地域でのリハではそのような情報が不足していることが多々あります。

そんな中、本人や家族に聴取したりその場での簡単な評価をしたりすればこのICFの表を大まかに作ることができ、一枚の紙に全体の項目を見渡せます。

そして各項目を見ていくと、それぞれの項目が他の項目とのつながりを持っていることもわかると思います。

 

例えば「参加」の項目では「コミュニティに参加できない」とあります。

ここでのコミュニティというのは、体操教室や趣味活動をおこなっている交流の場を指します。

ではこのコミュニティに参加できない理由はどこにあるのでしょうか?

 

ひとつ隣の「活動」の項目ではADLが自立となっています。当然、歩行も自立しています。

しかし、その横の「心身機能」の項目では「筋力低下」や「頚部の痛み」などあり、これが間接的な原因なのかもしれません。が、ただそれだけではなさそうです。

そこで図の右下の「環境因子」を見てみると、本人は独居であり「近所に親しい友人が少ない」とあり、さらに「個人因子」の項目では「不安感が強い」とあります。

 

つまり、ここから推測してAさんがコミュニティに参加できない主な理由は、

「筋力が衰えていて上手く体操できないかもしれない」

「交流の場に独りで行っても何もできず寂しい思いをするんじゃないか」

といった不安感が強いためであることが推測されます。

実際にAさんに詳しく話を聞いてみると、やはり上記のようなことが心配であるために、コミュニティに行くことをためらっているのだそうです。

 

さて、このように評価ができたら、次は実際にどのように介入していくかを考えます。

 

Aさんの場合にまず1番に考えられることは、コミュニティに参加するための制限因子として本人の不安感があり、この不安感を取り除いていくようなアプローチができるかどうかを考えられないか、ということではないでしょうか。

例えば、

「独りでは行きづらいので、最初はケアマネやリハスタッフと一緒に行ってみる」

もしくは

「少し離れた場所に住む友人を迎えに行って一緒に参加してみる」

また

「筋力強化をおこなうことで体操ができるという自信をつけさせる」

などなど、色々と検討できるかと思います。

 

…とまあ、こんな感じで一つの例ではありますが、このようにリハビリテーションを進めていく上でICFの図を活用することができます。

 

こうして見ていくと、ICFの図においてそれぞれの項目同士はつながっていて、そして複雑に絡み合っていることも理解できると思います。

そしてその項目同士のつながりは、決して一方通行ではなく、相互に影響しあっていると言うこともわかるのではないかと思います。

後にも出てきますが、これがICFの前身であるICIDHとの大きな違いです。

このように全体を見た多面的な評価がICFではできるので、そこからの介入についても全体を見た上で多面的にアプローチすることができます

 

ICFの項目分類

このICF、実は国際的基準として決められた細かい項目が規定として設けられています。

例えば「身体構造」の中には「神経系の構造」、…などなど。

また「活動と参加」の中には「学習と知識の応用」「一般的な課題と要求」、…などなど。

 

本当は、この項目に沿って細かく当てはめながら評価していくのが本来のやり方なのかもしれません。

しかし、我々の臨床ベースで行っていく際はまずはその人の全体像を把握することが先決だと思います。

一つ一つの細かい項目について吟味していくのではなく、この患者さんもしくは利用者さんの特徴としてどんなことがあるかを挙げていく。

そして、全体を見ながら、この問題の原因として見落としている事柄がないか、と考えた際に改めて各項目を見ていき、当てはまりそうな項目はどれだろう、と言う見方で探していくのが良いのではないかと思っています。

なので、このすべての項目について覚える必要もないと思います。

ただし、それぞれの項目の中にどのような内容が含まれるか、ということはある程度把握しておく必要はあります。

 

ICFでは大分類中分類小分類と3段階に分類がされています。

もう一度例を挙げると、まず大分類として例えば身体構造の中には

「神経系の構造」

「目・耳および関連部位の構造」

「音声と発話に関わる構造」

など8項目に分類されています(図参照)。

 

また活動と参加は一括りにされており、大分類として

「学習と知識の応用」

「一般的な課題と要求」

「コミュニケーション」

「運動・移動」

「セルフケア」

など9項目があります。

その大分類それぞれに対してさらに細かく分かれており、例えば大分類の「神経系の構造」の項目の中に中分類として「脳の構造」「脊髄と関連部位の構造」…などがある。さらにその中分類の各項目に対してそれぞれ小分類として〇〇がある、といった感じです。

詳しくは、下記参考文献でのサイトや下記書籍などをご覧ください。

 

しかし繰り返しますが、我々セラピストとしては、この項目全てを覚える事が重要なわけではありません。

重要なのは、このICFを実際のリハ介入場面でどのように使っていくかというところだと思っています。

 

ICFの歴史

今回はICFについてまとめていますが、本来ならばまず最初に、ICFがどのような経緯で作られたか、という歴史から説明すべきなのかもしれません。

ただ、どうしても堅苦しい話となってしまうので、読んでいる皆さんのヤル気を削がないためにも(笑)後回しにさせてもらいました。

 

さて、ICFの歴史についてですが、皆さんも学校で習った事をまず思い出してみてください。

ICIDHがまず提唱されて、その後修正されて何年に登場したものがICFだという話はご存知のことと思います。

このICIDHはWHO(世界保健機関)により障害分類を定めたものですが、実はこのICIDHは元々ICD(国際疾病分類)をもとに作られたものです。

ICDはWHOが設立される遥か昔の1900年に国際統計協会が制定したものですが、WHOはこのICDを改定していき、現在は第10版(ICD-10)となっています。

そしてこのICDの姉妹関係としてICIDH(国際障害分類)を1980年に制定した、という流れです。

…ちょっと小難しい話になってきたので、先に流れの図を示しておきます。

要はこんな感じの流れになってるよ、ということの説明です(笑)

…さて、説明はICIDHの話でしたね。話に戻ります。

ICIDHは障害を分類するということで、広く知れ渡り、医学モデルとして使用されるようになっています。

 

下図がICIDHの概念を表すものです。

 

今回、ICIDHの話は細かくは触れませんが、障害には3つの分類があることを明示しています。

 

つまり、

機能・形態障害(impairment)

能力障害(disability)

社会的不利(handicap)

の3種類です。

 

そして、基本的にはそれぞれの障害を個別にみながら解決していきましょう、というスタンスです。

これにより問題の解決策を探しやすくなった、と考えられることもでき、リハビリテーションを行う上でも整理がしやすくなっています。

 

しかし、ICIDHは「環境」というものを考慮していないということで批判もされてきたのも事実のようです。

個々の問題は明らかになったが、その奥にある環境的な問題もあるのではないかと。

 

さらに、「障害があるものだけを特別視しているのではないか」という指摘もあったようです。

そこでWHOは2001年にICIDHを改良してICF(国際生活機能分類)を制定しました。

ICFでは否定的な言葉は使わず(impairmentのin-やim-、disabilityのdis-などは「~でない」という否定的な接頭語)、そのかわりに機能活動参加と言う中立的な言葉を使っています。

そして個人因子環境因子といった背景的な因子も項目にあげ、それらすべての因子を全体でつながりで見ることによって、生活機能を評価し解決策を図ることができるというものです。

 

以上、ICFの経緯、歴史についてでした。

…と最後は堅苦しくなってしまいましたが、ICFについて少しでもお分かりいただけたら幸いです。

 

まとめ

・ICF(国際生活機能分類)では「心身機能」、「活動」、「参加」、「個人因子」、「環境因子」という5項目がメインになる。この5項目を全体的に見ることで、その人の全体像をつかむことができる。

全体を見た多面的な評価ができるので、そこからの介入についても全体を見た上で多面的にアプローチすることができる

WHOはICIDH(国際障害分類)を改良して2001年にICF(国際生活機能分類)を制定した。

 

参考資料

1)「国際生活機能分類-国際障害分類改訂版-」(日本語版)の厚生労働省ホームページ掲載について
2)杉原素子 編: 作業療法概論(作業療法学全書) [改訂第3版]第1巻 作業療法概論, 協同医書出版社, 2016.
3)澤田雄二 編:考える作業療法―活動能力障害に対して文光堂,2008.
4)高齢者リハビリテーション研究会報告書:高齢者リハビリテーションのあるべき方向―高齢者リハビリテーション研究会報告書平成16年1月,社会保険研究所,2004.
5)小川恵子 編:標準作業療法学 地域作業療法学 (標準作業療法学 専門分野)医学書院,2012.

 

 

今回、ICFについてまとめてみました。

医療保険・介護保険領域に関わらず「活動」や「参加」に焦点が当てられてきている現在の、そして今後のリハビリテーション業界において、普段の業務で使えるツールの一つだと思いますので、ぜひ利用してみてください。

 

 

本日は以上で終わりです。

最後までお読みいただきありがとうございました!

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