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セラピストが知っておくべき歩行の定量的評価の方法とカットオフ値まとめ(10m歩行速度/6分間歩行試験/TUG/FAC/DGI)

こんにちは根岸です。

今回はセラピストが知っておくべき歩行の定量的評価ということで、確実に覚えておいた方が良い評価方法とそのカットオフ値などについてまとめました。

タイトルに知らない評価があった方はぜひご覧ください!

 

はじめに

突然ですが歩行の評価をして下さい」と言われた時にどのような評価を行いますか?

恐らく多くの方が「歩行観察」または「歩行分析」と答えるのではないかと思います。

確かに歩行観察や分析は対象者の個別性に合わせて評価していくべき大切なポイントですし、異常歩行や不良動作を把握する上でとても大切です。

しかし臨床においては、観察や分析をする上で、定性的な要素ばかりでなく定量的な評価も行っていく必要があります。

今回は評価バッテリーの紹介を中心に歩行の定量的評価について説明していきます。

 

10m歩行テスト

こちらは歩行評価の定番ですね。

測定の方法

テストの名前の通り、10mの歩行速度と歩数を測定します。

テープや印などを用い10mの距離を測ります。そしてその前後に3mずつ距離を加え、合計で16mの直線コースを作ります。

前後の3mは、歩き始めと終了時の速度の変化による影響をなくす為にとってあり、実際に測定を行う距離は10mとなります。

 

 

 

10m歩行テストでは歩幅と歩行率(ケイデンス)も測定できます。

計算式: m/歩数=歩幅 歩数/歩行時間=ケイデンス

 

また、10m歩行では快適歩行および最大努力歩行を測定します。

目的とする動作に応じてそれぞれを評価することが大切です。

カットオフ値

10mを歩くのに

・25秒以上かかる(0.4m/s未満)

移動は主に屋内歩行

・12.5秒~25秒の間の時間で歩ける(0.4〜0.8m/s)

一部で屋外歩行可能

・12.5秒以内で歩ける(0.8 m/s以上)

屋外歩行自立

“たけ”
“たけ”
この歩行速度から考える治療について、以前にもこちらの記事で解説していますのでご参照までに。
ペリーの報告による脳卒中患者の歩行速度と生活範囲:歩行自立度の評価と治療プランの立案脳卒中患者の歩行速度を臨床で上手く利用できていますか?本記事では、ペリーの発表した論文データを元に、脳卒中患者の歩行速度と歩行コスト、自立度(生活範囲)の関係について解説しています。歩行自立度の評価と治療プランの立案に役立つ歩行速度の使い方が知りたい方必見です!...

 

6分間歩行試験

測定方法

耐久性や持久力の評価を目的に6分間かけて歩行を実施します。

高齢者から整形・脳血管疾患、心疾患を有する患者さんに対して用いられることが多いです。

※声掛けの内容は以下の通りです。

1分後 「上手く歩けていますよ。 残りは5分間です。」
2分後 「今の良い調子を維持してください。 残り4分です。」
3分後 「よく歩けています。残り半分です。」
4分後 「今の良い調子を維持してください。 残りは、あと2分です。」
5分後 「よく歩けていますよ。残りはあと1分です。」
15秒前 「もう少しで止まってくださいと言います。そうしたらすぐに立ち止まって私が
来るのを待ってください。」
6分経過時 「止まってください。」

カットオフ値

※文献によって差があり一定の見解はありませんが以下のような報告もあります。

高齢者の平均は500~550m、400mを下回ると屋外移動に制限が生じるとされています。

 

TUG

TUGは下肢筋力やバランス能力、転倒リスクとの関連性が高いとされています。

測定方法

(1) 開始肢位は背もたれに軽くもたれかけ、肘かけがある椅子では肘かけに手を置き、肘
かけが無い椅子では手を膝上においた状態とします。
(2) 椅子から立ち上がり、3m先の目印を回って、再び椅子に座るまでの時間を測定します

(3) 身体の一部が動き出すときからお尻が接地するまでの時間を計測します。
(4) 日常生活において歩行補助具(杖)を使用している場合は、そのまま使用する。

カットオフ

・運動機能に異常のない高齢者→10秒以内
・脳卒中患者(院内実用歩行レベル)→20秒
・脳卒中患者(屋外実用歩行レベル)→17秒
・転倒リスクが予測される→13.5秒
・屋外外出可能→20秒
・日常生活動作に介助を要する→30秒以上

日本整形外科学会は運動器不安定症を判断する基準として、TUGテストのカットオフ値を
11秒以上としています。

 

“たけ”
“たけ”
TUGのカットオフ値については様々な報告があり、どの数字を用いて良いのか分からないという方がおられることが多いですが、ご自分の患者さんがその原著の対象者と同じ属性の方なのかをみるとそのような問題は解決すると思います。

なお、TUGや転倒、バランスなどについては以前にこちらの記事でも紹介されていますので併せてご覧ください。

https://connect-clinicians.com/others/tug-test-method/

SIDE(Standing Test for Imbalance and Disequilibrium)バランス検査 の有用性と臨床応用方法~代表的なバランス評価BBS、TUG、FRT、FSSTのカットオフ値まとめ~バランス評価を上手く臨床で用いる方法について知りたいですか?本記事では、SIDE(Standing Test for Imbalance and Disequilibrium)バランス検査 の有用性と臨床応用方法、代表的なバランス評価BBS、TUG、FRT、FSSTのカットオフ値をまとめて解説しています。バランス評価を客観的データに用いて適切に行いたい方は必見です!...

 

Functional Ambulation Categories(FAC)

FACは脳卒中患者や中枢神経系患者に対して用いられる場面が多いです。

測定方法

現状の機能をスケールに照らし合わせて評価します。

こちらはADLの設定にも応用できるほか、検者間での評価に差が生じにくいとの報告もあ
れています。

評価自体には時間がかからないので、入院している患者さんなどに対しては経時的に評価を行えるとよいですね。

“たけ”
“たけ”
FACは評価が簡便なだけでなく、信頼性と妥当性が報告されていため世界的に用いられている評価なので、脳卒中患者さんを担当するときには必ず僕も使っていますね。ただし、FACは尺度間の幅が大きいことが問題なので、細かい変化をとらえたいのであればこれ加えて上記に紹介があったような尺度の評価を用いると良いです。

 

Dynamic Gait Index(DGI)

こちらは動的歩行指数と呼ばれるものです。

測定方法

環境の変化に対応して安定して歩行が可能かを評価します。

歩行速度を変化させたり、歩行中に運動課題を行わせます。DGIはバランス能力や転倒リスクを評価するために開発されました。

高齢者から脳卒中患者、前庭機能障害の患者さんなどを対象に用いることが出来ます。

以下の8つの課題を0~3の四段階で評価します。

【8つの課題】
1 平地歩行(6.1mの平地歩行)
2 歩行速度を変える(通常(1.5m)→速く(1.5m)→ゆっくり(1.5m)
3 頭部を横に向けて歩く(右を見る→左を見る→正面)
4 頭部を上下させて歩く(上を見る→下を見る→正面)
5 歩行と軸足回転(歩行中に逆を向いて止まる)
6 障害物を越える(歩行中に靴箱を越える)
7 円錐の周りを回る(一つ目右に一回り→二つめ左に一回り)
8 階段(階段昇降:必要に応じて手すり使用)
※補助具を使用することも可能です。

【分類】
0 = 重度の障害(Severe impairment )
1 = 中等度の障害(Moderate impairment)
2 = 最小限の障害(Minimal impairment)
3 = 歩行能力障害なし(No gait dysfunction)

 

まとめ

いかがでしょうか?

最初に掲載したように、歩行評価は定性的な観察や分析のみでなく評価バッテリーを用いた定量的な評価を行うことも非常に重要です。

今回紹介した以外にも歩行評価の方法は多々ありますが、大切なのは対象者にとって本当に必要な評価を実施し、介入につなげていくことだと思います。

臨床に取り組む中で一つの参考になっていただければ幸いです。

“たけ”
“たけ”
歩行能力の定量評価は結果の客観的な提示ができる材料になるため、患者さんやご家族への能力や治療効果の提示、他職種や同職種のセラピストとの共通言語、結果の研究活動への利用などでご紹介されていたカットオフ値を算出して応用するなど、様々な利用ができます。セラピストには必須の評価なのでぜひ活用しましょう!

 

参考文献

1)伊藤優也,佐々木誠,佐川貢一:脳卒中片麻痺患者における歩行周期変動の歩行・バランス能力及び下肢筋力との関連
2)宮崎貴朗 他:慢性期片麻痺者における理学療 法.理学療法学18(supple):16,1991
3)Hoffer MM, Feiwell E, Perry R, et al: Functional ambulation in patients with
myelomeningocele. The Journal of Bone and Joint Surgery 55(1):137-148, 1973
4)島田裕之, 古名丈人,他: 高齢者を対象とした地域保健活動における Timed Up & Go Testの 有用性. 理学療法学 2006; 33: 105-111.

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ねぎし
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