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10m歩行テストの臨床現場での具体的な評価方法と使い方

理学療法士&フットケアトレーナーのだいきです!

今回は10m歩行テストの評価方法と臨床での使い方について簡単にお話しします。

 

「対象の方に10mを歩いてもらってその時間を計測する」

 

というシンプルなテストなのですが、

詳しい計測方法、得た数値をどのように解釈するのかも解説しております。

確認がてら読んでみてください。

学生指導される方や学生の方は手順や準備するものも載せておりますので特におすすめですよ

では、さっそくいってみましょう♪

“たけ”
“たけ”
前回、根岸さんの記事でも10m歩行速度の評価についての解説がありましたが、今回は学生さんでもわかりやすく説明されているだけではなく、さらに臨床的な細かい評価の視点が解説されています。基本的なことは知ってるよっという方も要チェックです!

 

10m歩行テスト

10m歩行テストは10mを何秒で歩行できるかを計測する評価です。

 

定量評価となり信頼性・再現性が高く、歩行自立度やバランスの良し悪しを簡単に評価できます

学生さんでも計測したことがあるのではないのでしょうか?

 

個人的には患者さんのモチベーションのために計測、再計測することもあります。

「10m歩くのが早くなるのがうれしい」と言われる患者さんもおられます。

 

またPerryやBowdenらの報告では以下のように片麻痺患者さんでの歩行自立のカットオフ値は快適歩行速度で、つまり1秒間に何m進むのかで区分しているものもあります。

0.4m/s未満:10mを歩くのに25秒以上かかる

移動が屋内歩行にとどまることが多い。(室内歩行自立)

0.4〜0.8m/s:10mを12.5秒~25秒の間の時間で歩ける

一部で屋外歩行可能レベル

0.8 m/s以上:10mを12.5秒以内で歩ける

屋外歩行自立レベル

 

他にもサルコペニアの診断基準にも10m歩行速度が「1m/秒未満」(=10mを10秒以内に歩けるかどうか)という項目があります。

 

また、日本の横断歩道の青信号は歩行者の速度を1秒間に1mを基準として設定されています。

幅10メートルの道路であれば点滅を含まない歩行者用青の時間は最低10秒程度です。その後青信号は点滅して赤信号に切り替わります。

10mを10秒以内で歩行できない方は横断歩道を渡っている最中に赤信号になってしまいますね。

後半でもう少し解説していきますがまずは手順を確認していきましょう。

“たけ”
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なお、上記のPerryの報告は脳卒中患者のデータであることにご注意ください。こちらをどのように治療に生かすのか(考え方)は以前にこちらの記事でご紹介しています。併せてご覧ください。
ペリーの報告による脳卒中患者の歩行速度と生活範囲:歩行自立度の評価と治療プランの立案脳卒中患者の歩行速度を臨床で上手く利用できていますか?本記事では、ペリーの発表した論文データを元に、脳卒中患者の歩行速度と歩行コスト、自立度(生活範囲)の関係について解説しています。歩行自立度の評価と治療プランの立案に役立つ歩行速度の使い方が知りたい方必見です!...

 

10m歩行テストの実際 ~5W1H~

さて10m歩行テストを行う際に準備するものや手順を以下に説明していきます。

学生さんにも分かりやすくするために当たり前のことも5W1H形式で書いていきます。

 

WHY?(何故計測するのか)

・主に移動能力の指標となる

・歩行速度を計測して歩行補助具の選定に役立てたりする

・転倒のリスクを知ることが出来る

WHAT?(何を準備するの?)

・ストップウォッチ

・テープ(開始と終了の目印につけておきます)

・メジャー(10mを正確に測るために準備します)

WHERE?(どこでするの?)

10m以上ある直線の廊下で実施します。

その際に下記のように加速路と減速路を設定しておきます。

 

理由として、歩き始めは定常状態(一定のスピード)になるのに時間がかかるので助走距離をとり、10mで終わりにするとその手前から減速してしまうため、計測終了してからも3m程歩いてもらいます。

一般的に快適歩行速度を計測する際には加速路と減速路を1mずつ確保しておきます。

最大努力歩行を計測する際には加速・減速路それぞれ3m確保します。

実施する場所が人通りが多い場所や曲がり角の近くだと通行する人との接触や接触を避けるために直線歩行をやめてしまう場合もあり注意が必要です。

WHO?(誰が、誰とするの?)

患者さんに行っていただきセラピストが計測しますが、検査中の転倒がないように場合によっては近位での見守り等配慮が必要な場合もあります。

一人で難しい場合(転倒リスクがありそうで、例えば学生が評価で計測したりする場合)は二人で計測した方がより安全です。

検査中に査者がストップウォッチを見ながら歩行していて患者さんと接触して転倒につながるなどのリスクも考えられます。

WHEN?(いつするの?)

睡眠導入剤が効いている時等内服の都合やバイタル測定等して運動療法をすべきで無い時には実施しない方が良いと思います。

このような検査も運動になりますので、運動療法の実施基準などに基づいて行う必要があります。中止の基準について等は以前解説されていますのでこちらをご覧ください。

アンダーソンの基準(土肥変法):リハビリテーション・運動療法の際のリスク管理、バイタルサインの具体的数値 アンダーソンの基準(土肥変法)について知りたいですか?本記事ではリハビリテーション・運動療法の際のリスク管理、バイタルサインの具体的数値として役立つアンダーソンの基準(土肥変法)について評価上の注意点を踏まえて解説しています。リスク管理についてマスターしたい方は必見です!...

 

いずれにせよ体調がすぐれない時には実施しないほうが良いです。

HOW?(どうやってするの)

患者さんには走らずに歩くことを指示します。

検者は10mの計測開始ラインを患者さんが超えてからストップウォッチで計測を開始し、10mの終了位置で計測を終了します。

検者は患者さんと共に歩行しますが、患者さんに影響しない位置で歩くようにします。

例えば斜め前に検者が歩いていると、ペースが乱れたり、急かされて自分の歩行速度でなくなることが考えられますので注意が必要です。

 

評価する中で声掛けの中で最大歩行速度なのか、快適歩行速度なのか迷うことがあると思います。

 

検査の再現性を考えると、最大歩行速度の方が良いことが報告されています。

落ち込んでるときや疲れているときであったり、認知機能ていが低下している症例などでは快適歩行速度は遅くなります。

 

また、いきなり最大歩行速度を計測しようとして高齢者対象に検査した結果転倒させてしてしまったという話も聞きます。

 

ではどっちで測定すれば良いのか!?

 

高齢者でも最大歩行速度で歩いてもつまづかず転倒の危険性がないのであれば、最大歩行速度を測定し、そうでなければ快適歩行速度を測定する、または両方を測定するとすればいいと思います。

 

また検査前に介助下でもいいので最大努力歩行で転倒の危険性が無いか確認しておく方が良いです。特に学生が計測する際に指導者は上記のようなことまで配慮できると安全に患者さんが計測できると思います。

 

もう一つ注意したいのは、しばらく期間を空けて再計測する場合は前回の計測と同じ歩行条件でなくてはなりません。前回の計測が最大歩行速度で測定したのなら、今回も最大歩行速度で測定が原則です。

そうでないと検査結果の比較はできません

“たけ”
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補足ですが、快適歩行速度と最大歩行速度の使い分けは【目的】で選ぶと良いです。また、両者とも測定して関連する要因を差し引いて問題点を考えるという使い方も面白いですね。

説明があった通り、転倒リスクが回避できて再現性や運動機能を重視したいなら最大歩行速度。快適歩行速度の場合は精神・認知機能の影響なども説明されていましたね・・ということは、最大歩行速度は速いのに快適歩行速度が遅いという現象が起きた場合、精神・認知機能が低下している可能性はありますよ(これは滅多にないですけど、たまにありますw)。こんな使い方もできます。

さらに、10m歩行速度はTUG同様に2〜3回計測して平均値を採用することが一般的ですが、どちらの歩行速度で測定した際も数回測定の数値の大きな変化にも注目する必要があります。これはどういうことかというと、例えば、“計測1回目はスピードが速いのにだんだん遅くなっていく”という現象が起きた場合、耐久性がないことがわかったり、逆に“だんだん早くなっていく”場合、運動学習能力が低いもしくは最初の指示を適切に理解できていなかった、動き始めは能力が低いなどの評価にもなります。

このようなムラは、特に易疲労性のある全身消耗性の疾患や神経難病患者、認知機能低下症例、精神疾患症例などで見られることが多いです。

シンプルな評価方法ですが、このような慣れている方はこのような点にも気を配って評価できると良いかと思います。

HOW2(計測した結果をどう解釈するの?) カットオフ値

10m歩行で出た数値を歩行速度として算出します。

10mを8秒で歩行したとすれば

10÷8=1.25

この方の歩行速度は1.25m/秒となります。

 

 

快適歩行速度としては

65歳以上の高齢者で1m/秒 未満になるとサルコペニアの診断基準の一つに該当します。

 

Cesari らは平均年齢74.2歳の高齢者3047名を対象に歩行速度とライフイベントを調査し、快適歩行速度が1m/秒 以下になると下肢障害や入院,死亡の危険性が上昇すると報告しています。

 

またCwikelらは快適歩行速度0.5m/秒 以下が転倒のカットオフ値と報告しています。

 

 

最大努力歩行速度では

鈴木らは転倒リスクを予測する目安は屋内歩行1.0 m /秒未満であることを報告しています。

 

また加嶋らは高齢者入院患者の病棟独歩自立のカットオフ値として最大努力歩行で1.038 m/秒と報告しています。

 

参考程度にですがBohannonの報告より女性の歩行速度(快適・最大努力)年代別の基準値のまとめです。

  快適歩行速度(m/秒) 最大努力歩行速度(m/秒)
50代 1.40±0.15 2.01±0.26
60代 1.30±0.21 1.77±0.25
70代 1.27±0.21 1.75±0.28

 

おわりに

本日は以上で終わります。

今回の記事を読んでいただいて患者さんの安全に配慮しつつ正確に計測出来る参考になればと思います。

Cliniciansの記事はスマートフォンからも確認できるのでどこにいても確認できるのがいいところです。

「教科書や資料忘れた!やばい!」なんてことにならないためにも是非このブログのブックマーク登録をしておいてください!笑

最後まで読んでいただきありがとうございました!

 

参考資料

転倒予防白書2019 [ 日本転倒予防学会 ]
・理学療法診療ガイドライン(身体的虚弱・高齢者)
・公益社団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット(2019)
・Perry J et al:Classification of walking handicap in stroke populatipn.Stroke26(6):982-989,1995
・Cesari, M et al:Prognostic value of usual gait speed in well functioning older people-results from the Health, Aging and Body Composition Study, Journal of the American Geriatrics Society, 53, 1675-1680, 2005
・Bowden et al :Neurorehabilitation and neural repair ,2008
・鈴木隆雄:転倒予防の重要性と対策.Med Prac, 2000, 17:443-447
・加嶋健作ら:高齢入院患者における最大歩行速度と独歩自立の関係, 理学療法科学 32(5): 635–638, 2017
・Bhannon RW:Comfotable and maximam walking speed of adults aged 20-79years:reference values and determinants.Age Aging26(1):15-19,1997

 

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