スポーツ

やりすぎを誰が止めるのか〜投球障害について〜

CLINICIANSのしーご(@Hs041300)です。

現在世間ではイベント、スポーツ開催が延期となり
野球界ではプロ野球の開幕延期、選抜高校野球の中止が発表されています。

この中断期間を活用して少しでもスポーツ障害に対する知識を増やしてもらえたらなと思っています。

今回は普段臨床でよくみていた投球障害についてお話ししていきます。

また医師より日米との投球障害の違い、成長期の投球障害(特に野球肘)について疑問が残るとの相談もあったので理学療法士の目線で皆さんにもお伝えしていきます。

投球障害とは?

一般的には投げ過ぎによるものとみられることが多い。

しかし実際は
・肩・肘を含む身体全体の問題(体の硬さ・力が弱いなど)
・投球フォーム

が原因である場合がほとんどでこれら3つの原因が重なって投球障害を生じる。
また野球選手の肩・肘の障害は,成長期において多く発生する。

投球制限について

日本では以下のような提言をされている。

小学生では1日50球、週200球以内までの投球
中学生では1日70球、週300球以内までの投球
高校生では1日100球、週500球以内までの投球

が障害を引き起こさない基準としている。

これは野球(軟式・硬式)実態調査報告等からアンケート形式でまとめられたものである。

さらにアメリカでの規定は異なる。MLB Pich Smartより以下のような規定を設けている。以下参照↓↓

上記の表よりアメリカでは何日間、肩を休ませたかで投球数が異なっている。

日本では週4日以上規定の投球を毎日行うと障害が生じると報告している。

近年では日本のプロ野球からアメリカのMLBへ移籍して怪我した際に、日本で投球過多だったために故障が起こった!と報道されているのをよく目にする。

甲子園では毎年投球数について問題となっている

特に最近では2018年夏の金足農業の吉田投手(現日本ハムファイターズ)の投球過多について議論となった。

決勝までの全6試合に登板。決勝以外は1人で投げ切り、総投球数は881球に及んだ。

吉田投手が2回戦から1週間で投じたのは、592球。
2―1で競り勝った準決勝の途中で500球に届いてしまう。
もし1週間500球までとの規定があれば準決勝で降板せざるをえない。

その一方で2019年の夏、岩手県大会決勝で投げずに敗退した大船渡高校の佐々木郎希投手(現千葉ロッテマリーンズ)。

大船渡高校の國保監督はアメリカの独立リーグで選手経験があり、野球を精神論や根性論ではなく科学として捉えることができる指導者であるそうだ。

”次の試合で投げると潰れる可能性がある”

これを決断した監督、そして理解ある選手たち、それが揃ってやっとこのような決断になるのだから現場は早々に科学をもっと深めていく必要性がある。

まだ投球数に対するエビデンスがなく、実際のところは不透明な部分が多数ある。そして科学的な部分はまだ証明されていない。

しかし

2019年11月より1人の投手の投球数が1週間で500球達した場合、それ以上投げることを認めないことを高野連が決定した。

これに関しては賛否両論である。

今後どのようになっていくか、これが正解だったのか注目したい。

そうなると球数制限だけでなく、投球後の機能障害について着目するのはどうだろうか。

投球数が肩関節機能に及ぼす影響 一中学生野球選手において一
(岩佐ら:理学療法科学 26:23-26,2011より引用)

中学生野球選手が
青少年の野球障害に対する提言である上限70球投げることで
肩関節機能が変化するかについて以下を検証している↓↓

投球前後に投球側の肩関節内旋可動域および肩関節内外旋筋力,疲労度(VAS),球速の測定を行った。
・肩関節内旋可動域は投球後に可動域が有意に減少
・肩関節内外旋筋力は投球前後において筋力に差が認められなかった
・肩関節の疲労度は,投球前後において有意に増加
・球速については差が認められなかった

 

さらに…

Longitudinal study of elbow and shoulder pain in youthbaseball pitchers, 成長期野球投手における肘と肩の痛みの縦断的研究
(Lyman S et al:Med Sci Sports Exerc,33:1803-1810,2001引用)

9~12歳の投 手の肩・肘の障害調査を行なった結果
肘の痛みの危険因子として
・高学年
・低身長
・重い体重
・試合中の75球以上の球数
・ゲーム中の腕の疲労感
・チーム練習以外での投球 をあげた。

また9~14歳の野球選手に対し10年間における前向き調査を行ない、
投球回数が年間100イニング以上にのぼる野球選手は
重篤な肩、肘の障害の発生率は通常の3.5倍になると報告している。

上記論文より身体の成長段階や身体特性、球数、イニング数について述べられている。

まとめると…

①成長期(小中学生)では1日投げても50〜75球程度

70球の投球で肩関節の内旋可動域制限が生じる

③年間100イニング以上の投球は投球障害発生率が通常の3.5倍

このような報告から投球数の増大は肩の機能障害を招くことがわかる。

投球数よりも投球後どれだけ肩の機能障害を防ぐ事ができるかが大事な要素かもしれない。

機能障害と投球フォーム

それでは機能障害と投球フォームについてはどうだろうか。

成長期で生じやすい野球肘には大きく分けて2つに分類される。

・肘の内側が痛くなる肘内側障害
・肘の外側が痛くなる上腕骨離断性骨軟骨炎

上記障害の知見を述べていく。

肘内側障害とは?

内側側副靭帯(以下MCL)近位付着部である内側上穎から遠位付着部である鉤状結節部までのいずれかの部位での構造的破綻によって生じる。
その破綻部位は年齢層によって異なり、内側支持機構の最脆弱部位が異なることによるものだ。

・12歳頃まではMCL付着部である内側上顆下端の裂離または分節
・13~14歳では内側上顆骨端離開
・15~16歳では鉤状結節の裂離
・17歳以上ではMCL損傷を主に生じる。

 

少年野球選手に発症する肘内側障害の危険因子について

少年野球選手における肘内側障害の危険因子に関する前向き研究
(坂田ら:整スポ会誌 VOL.36 NO.1, 2016 引用)

2012 年度メディカルチェックに参加した少年野球選手のうち、小学 5 年生以下の 264 名を対象とした。
身体機能(肘屈曲・伸展可動域、前腕回外可動域、肩 2nd内・外旋可動域、肩 3rd内旋可動域、股内・外 旋可動域(90 ° 屈曲位)、体幹回旋可動域、肩後方タイト ネステスト、 肘伸展筋力,肩内旋・外旋筋力(肩 90 ° 外転位)、前鋸筋 筋力・僧帽筋下部筋力 、胸椎後弯角、star excursion balance test)と 2 方向から投球動作を評価した。
251 名(95.1 %)が追跡調査可能であり、肘内側障害の初発率は 27.5 %であった。

ロジスティック回帰分析の結果、危険因子として、
・肘下がりのフォーム
・胸椎後弯角増大(30 ° 以上)
・踏み込み足股関節内旋制限(5 ° 以上)
・肩後方タイト ネス(0 ° 以上)、
・肩回旋トータル可動域の低下(165 ° 以下)
が挙げられた。

肘内側障害の投球フォームの特徴に関して

内側型野球肘患者の疼痛出現相における投球フォームの違いと理学所見について(坂田ら:整スポ会誌VOL32N0. 3,2012 引用)

内型野球肘患者110例(平均11.8歳)を対象

投球時の疼痛出現相を聴取し,全身の理学所見と高速度カメラを用いた投球フォームの評価を行ない,疼痛出現相による特徴の違いを検討した。
Arm Cocking相で疼痛を有す選手においては
‘‘肘下がり’’
Arm Acceleration相~ArmDeceleration相で疼痛を有す選手においては
肩甲平面からの逸脱と骨盤回旋の早期終了
が各相で疼痛を引き起こすフォームの特徴としてあげられた。

 

さらに近年バイオメカニカルな研究により、投球動作の不良と肘外反トルクとの関連が明らかにされている。

まとめると以下の通りである。

体幹回旋の開始時期が非投球側足部接地前(平均59N)であると、
接地後(平均42N)よりも肘外反トルクは有意に大きいとしている。

肩関節内旋位での肩外転減少“身体の開き”が生じる不良なフォームが 外反トルクを増大させると報告している。

肘に症状を訴える選手の73 %に肩の外転角が減少
いわゆる“肘下がり”肘屈曲位でリリースしている者がみられた。

肘屈曲角の増加により回内屈筋群による外反制動の効が減少することが報告されている。

肩甲平面から逸脱した肘屈曲位でのリリースは肘関節の内側支持機撫におけるMCLに対し、とくにストレスがかかる可能性がある。

障害は防ぐためには上記の投球フォームの修正や肩-肩甲胸郭機能を含めた

”肩甲骨面”を意識した介入が必要となる。

上腕骨離断性骨軟骨炎とは?

上腕骨離断性骨軟骨炎(以下OCD)は成長期に生じることが多く進行すると骨軟骨片は遊離し、放置すると変形性肘関節症に移行する。その治療にあたっては正確な病期診断が必要で、それに応じた治療法を選択すべきである。
分離期後期や遊離期の進行期では投球禁止による自然修復は期待できず手術治療を選択する。
まず病巣の部位を評価する。肘関節X線tan- gential viewを撮影し、上腕骨小頭中央部に限局した「中央型」、小頭外側壁が破壊された「外側型」 に分類する。

これらが生じる原因としては
肘関節への外反トルクは肩最大外旋直前に最大となり、腕橈関節圧を増大させ、OCD 発症の要因となるといわれている。

上腕骨小頭離断性骨軟骨炎の
危険因子となる身体機能について 

肩甲胸郭機能からみた 上腕骨小頭離断性骨軟骨炎の危険因子の検討
(坂田ら:整スポ会誌 VOL.35 NO.1, 2015 引用)

2012 年度メディカルチェックに参加した少年野球選手のうち、
上腕骨小頭に異常所見がみられ、測定時疼痛を有していなかった18 例(上腕骨小頭異常群)と測定時あるいは既往として肩・肘痛がなかった上腕骨小頭に異常がみられなかった 80 例(健常群)を対象

身体機能は
・肩・肘の可動域(肩 90°外転 位での肩内旋・外旋)
・肘屈曲・伸展,前腕回外
肩・ 肩甲骨・肘筋力(肩内旋・外旋、肩甲骨内転・外転 肘伸展)
・肩後方タイトネステスト、胸椎後弯角(検者内信頼性:0.94)
を測定した 。

上腕骨小頭異常の身体機能の特徴として
・胸椎後弯角増大(オッズ比:1.075)
・肩甲骨外転筋力低下(オッズ比:0.516)
があげられた。
上腕骨小頭の異常には肩甲胸郭機能の低下がその問題として考えられる。

投球時の肩関節外旋は肩甲上腕関節での外旋に加え,胸椎伸展・肩甲骨後傾の貢献によるところが大きいといわれている。

以上より、肘関節に対するストレスを緩衝させるためにも、胸椎伸展・肩甲骨後傾・肩関節外旋は重要な役割を果たす。

前鋸筋はそのモーメントアームから肩甲骨上方回旋・後傾 の主動作筋であるといわれている。

肩甲骨は肩最大外旋に先行して後傾する。
投球時の前鋸筋の活動はarm cocking 相で最大となると報告されており、
前鋸筋は arm cocking 相における肩甲骨後傾に作用していると考えられる。

これらの見解から

胸椎後弯角増大(いわゆる猫背の姿勢)
肩甲骨外転筋力低下(前鋸筋の筋力低下)
が挙げられている。

 

まとめると…

日米に差があり、アメリカでは投球制限を厳密に守っている。
日本も徐々に導入し検証予定

またアメリカではプレシーズンでの過ごし方や機能改善にも着目されており、
肩は消耗品で大事に使うものという考え方である。

以下をご参照

↓↓↓

高校野球投手での肩,肘障害の危険因子について–シーズン前の筋力と可動域−

Risk Factors for Shoulder and Elbow Injuries in High School Baseball Pitchers: The Role of Preseason Strength and Range of Motion
高校野球投手における肩と肘の負傷の危険因子:
プレシーズンの強さと可動域の役割

American Journal of Sports Medicine; June 3, 2014 引用)
シーズン前の筋力とROMの測定を高校生合計166投手を対象に実施。
・肩関節内旋(IR)
・肩関節外旋(ER)
・肩関節後方ROM、
IR、ER、棘上筋筋力をハンドヘルドダイナモメーターで測定した。
結果としては棘上筋筋力低下が怪我のリスク増加と関連する傾向があった。
IRのROMが非投球側に比べて20%以上低下している投手は怪我のリスクが高かった。
他のROMおよび筋力測定は怪我のリスクとは無関係だった。
シーズン前のIR ROMの過剰な低下 、棘上筋筋力低下は大けがのリスク増加と関連しており予防的視点で有益である可能性がある。

このような論文からもシーズンに入る前から機能改善することの重要性を訴えており

機能障害が投球障害の原因となっている。
野球をしていない期間での準備がどれだけ大事かを示している。

 

今回様々な知見を調べた結果
日本では障害像を多く捉える傾向にあり
アメリカでは障害を防ぐための予防像を考えているように感じた。

今後才能を潰さないように現場に出ている人たちは発信すべきである。

今後の野球界に注目!

長々とお付き合いいただきありがとうございました。

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しーご
しーご
◆理学療法士/Gyrotonic®︎⇔【スポーツ/健康増進/介護分野/中国で働きます】◆臨床『肩が得意』/身体作り Gyrotonicを広めていてSNSでは臨床に役立つ!ボディワーク系の発信を行っています!
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