整形外科

頸椎症性脊髄症 ~評価法~

こんにちは!理学療法士のこじろう(@reha_spine)です!!

CLINICIANSの中で主に腰痛や脊椎に関する内容をアップしております。

前回は、「頸椎症性脊髄症」について、基本的な知識についてまとめました。

 

頸椎症性脊髄症の基礎今回は頸椎症の中でも「頸椎症性脊髄症」について基本的な概要についてまとめています。脊髄の圧迫部位によって症状が異なり、皆さんも病態の整理がつきづらいのではないでしょうか?そのような疑問を解決できるように解剖学的な内容を中心にまとめています。頸椎疾患の患者さんをリハビリする上では必見の内容です。...

 

今回は引き続き、「頸椎症性脊髄症」についての評価を中心にまとめていきたいと思います。

 

症状の複雑な頸髄症だからこそ、しっかりと基本的な内容から理解していきましょう!!

 

評価に関する基本的知識

神経学的検査である筋力、反射、感覚検査は三種の神器と言われるほど重要な検査です。これらの検査によりある程度の高位診断が可能であると言われています。

 

特に上肢の知覚障害が腱反射や筋力低下よりも高位診断のための精度が高いことが報告されています。しかし、頸髄症は他椎間での圧迫が起こりやすいため、責任高位を確定することが困難な場合も多くあります。

 

注意すべきは、頸椎と頸髄のレベルには約1,5髄節のずれがあるため、椎間高位で判断しないよう注意しましょう

 

C3/4椎間はC5髄節、C4/5はC6髄節、C5/6はC7髄節、C6/7はC8髄節の各髄節にそれぞれ対応した筋力低下や感覚障害が認められます。

 

筋力評価

MMTや握力、ピンチ力などで評価します。
筋力低下は限局性の場合と多椎間の障害による広範囲の場合があります。

責任椎間高位としてはC3/4の障害にて三角筋、C4/5では上腕二頭筋、C5/6では上腕三頭筋などに筋力低下を来します。

握力は10kg以下、ピンチ力は3kg以下になると著明な巧緻性動作障害を来しやすくなります。

 

深部腱反射・病的反射検査

障害レベルの深部腱反射は低下し、障害レベルよりも下の反射が亢進します。

 

しかし、頸髄症で合併しやすい腰部脊柱管狭窄症が存在する場合には下肢の腱反射が低下することもあります。

 

病的反射としては「Hoffmann徴候」や「Babinski徴候」を確認します。これは錐体路障害が存在すると陽性となります。

 

Hoffmann徴候は圧迫性頸髄病変が存在すると出現することが多く、感度が58%,特異度が78%と非常に高い陽性率を示しています。

 

<ホフマン反射>

<バビンスキー反射>

 

感覚検査

表在感覚についてはデルマトームに沿った触覚と温痛覚の検査を実施します。

 

深部感覚においては、四肢の随意運動が行えない場合を考慮して運動覚や振動覚の検査を行います。

 

脊髄後索障害が存在すると、脊髄性の運動失調を検出するためのRomberg試験やMann試験が陽性となります。

✓Romberg試験:

開眼させて両足を揃え、つま先を閉じて立たせることで体が安定しているかをみます。次に閉眼させて体の動揺を確認したときに大きく揺れて倒れてしまう場合に「Romberg sigh陽性」となります。この症状は深部位置覚の障害で出現するので、脊髄の後根・後索を侵す疾患で陽性になります。

✓Mann試験:

両足を前後に縦一直線に置き、起立させます。前足の踵と後ろ足のつま先をつけて両足を一直線上に起立させます。安定して立っているようであれば閉眼させて体の動揺が大きくなれば陽性となります。ロンベルグ試験より敏感に脊髄性運動失調を検出できます。しかし、老年者では明らかな深部感覚障害がなくても体が大きく揺れてしまうことがあるため、注意を要します。

※小脳性の運動失調では両試験において開眼していても動揺がみられます。

 

手指巧緻性テスト

「myelopathy hand」が代表的臨床徴候であり、90,3%にみられるとの報告もあります。

 

この特徴は尺側手指の内転・伸展動作困難、手指の伸展・屈曲動作の遅延化です。

 

客観的評価として「finger escape sigh」と「10秒テスト」があります。

finger escape sigh (指離れ徴候)

両手を回内位で前方に突出し、全指を揃えて伸展位を保持します。

[判定基準]
0:全指内転・伸展完全に可
1:小指の内転保持ができず30秒以内に外転する
2:小指・環指の内転不可
3:小指・環指の内転および中手指節(MP)関節伸展不可
4:小指・環指・中指の内転不可およびMP関節伸展不可

Grade1以上がmyelopathy hand陽性となります。

 

grip and release test(10秒テスト)

できるだけ速く全手指の屈曲(グー)・伸展(パー)を繰り返し、10秒間でできる回数を測定します。

正常は20回以上であり、19回以下でmyelopathy hand陽性となります。

手術を検討するレベルでは10回未満となります。

 

歩行能力評価

歩行障害として、痙性歩行や、時に失調性歩行が認められます。円滑な歩行の可否を確認します。

simple walking test(30m歩行テスト)

快適な速度で15mの直線上を歩行し、方向転換後に開始地点に戻るまでの時間と歩数を計測します。手術前後での改善度を定量的に評価できます。歩行不能者には評価できません。

 

foot tapping test(FTT)

歩行困難例に対しては端坐位にて10秒間でどれだけ足関節を底背屈できるかを計測します。股関節・膝関節がそれぞれ90°屈曲位となる高さの椅子に座ります。
10秒間のうちに座った状態で踵をつけたままできるだけ早く地面をタップする回数を計測します。また、左右の平均値も求めて評価します。

Ten second step test

10秒間のうちに座った状態で両大腿を地面に平行になるまで上げる回数を計測します。

 

Triangle step test

10秒間のうちに座った状態で三角形のボードの角を足で順に触れていく回数を計測します。

 

画像所見

脊髄の圧迫がある程度、あるいはある時間以上になると脊髄内に白い高輝度域(T2強調画像)が出現します。髄内高輝度領域は脊髄症の存在を示唆し、高輝度を示す部位は責任病巣に一致する可能性が高いです。この高輝度域は以前は予後不良を示す要因として考えられていましたがその正確な病理学的意義や臨床的意義については評価が定まっていません。MRI上の輝度変化が必ずしも重症度の指標にはなり得ません。
また、骨棘や軟部組織などの圧迫因子の鑑別には限界があり、X線やCTの併用が望ましいと言われています。

 

代表的スコアリングシステム

2013年の報告では、最も使用されているものは「Nurickスケール」であり、次いで頸髄症JOAスコアがあります。

頸髄症JOAスコアは17点満点中10点以下が手術適応を判断する基準の1つとなり、信頼性も高いです。

 

また、最近では健康状態、生活の質、患者の満足度を含めた評価法でありJOACMEQも多く使用されています。

 

術後成績不良因子

過去の報告を参考に頸髄症に対する後方除圧術の治療成績予測因子についてまとめています。

・高齢

・糖尿病、喫煙

・長期罹患期間

・頸椎後弯

・前方圧迫因子(椎間板膨隆)

・MRI所見(脊髄横断面積)

後縦靭帯骨化症に伴う頸髄症では、頸椎後弯に加えて骨化巣の大きさや形態、頸椎動的要素も成績不良因子に加わります。

 

予後が期待できる条件

では、逆に以下のような場合に、より手術成績が期待できるとされています。

1.年齢が若い
2.罹病期間が短い(急性発症の麻痺を除く)
3.先天性の著しい脊柱管狭窄がない
4.筋力低下よりも痙性が主体
5.筋委縮がない
6.両側性よりも片側性
7.膀胱直腸障害がない
8.頸椎装具の装着により症状が軽減する
9.糖尿病、心疾患、肺疾患、認知症などの合併症がない

 

以上、簡単ではありますが、頸椎症性脊髄症に対する評価方法についてまとめましたので少しでも臨床に活かして頂ける幸いです。

 

最後までご覧頂きありがとうございました!

 

参考文献

✓細野昇:臨床に活かす脊椎・脊髄のCT・MRIのみかた.PTジャーナル.第41巻第4号.2007.325-334

✓川崎洋二:頸椎症性脊髄症の機能解剖学的特性.理学療法.27巻6号.2010.749-756

✓大谷隼一:頸椎疾患手術治療介入のタイミング.Orthopaedics.Vol.29.No.10.47-51

✓中図健:上肢運動器疾患の診かた、考えかた

✓佐藤紀:頸部圧迫性脊髄症のリハビリテーションに必須の評価法と活用法.Jpn Rehabil med 2017:54:829-834

 

 

 

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整形外科病院勤務の理学療法士 腰痛/骨盤痛/ピラティス/運動器認定理学療法士/転倒予防指導士 運動器分野、特に腰痛・骨盤周囲の疼痛について発信、吸収していきたいと思います。
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