フットケア

足趾の筋力(足趾把持力)とバランスとの関係を研究論文を噛み砕いて解説

こんにちは、cascade (@cascade1510 です!

今回のテーマは足趾の筋力とバランスとの関係についてです。

これは私が現在おこなっている研究テーマのひとつでもあります。

 

足趾(そくし)とは足の指のことを指します。

 

この足趾の筋力とバランス能力との関係については、私の研究内容以外にも研究があり、私の論文にもまとめているのですが、今回は、その内容についてなるべくかみ砕いて説明できたらと思います。

 

足趾の筋力とバランスとの関係

まず、

バランス能力歩行能力

とは密接な関係があるということはみなさん何となくイメージがあるのではないかと思います。

 

実際にバランス能力が高いと歩行能力も高く、屋外や屋内での転倒も少ないという報告が多くみられています1-3)

これまでの研究では、大腿四頭筋など大腿部の筋や下腿三頭筋など下腿部の筋といったように大きな筋の筋力がバランス能力の要因となっている、といった研究例が多くみられます4,5)

 

ところが、足部や足趾把持力などの足趾機能との関係についてはまだ少なく不明な点が多いのが現状です。

その中でも現在のところ明らかとなっている足趾の機能に関するいくつかの研究結果について紹介します。

 

足趾機能に関する過去の研究

まずBenvenutiら6)によると、459人の高齢者の調査から、活動レベルの低い者ほど足部の変形や足趾把持力など足趾の運動機能の低下があることを報告しています。

 

木藤ら7)は、この足趾機能を客観的に評価し、姿勢制御や転倒との関連性を報告しています。

それによると、中枢神経疾患を有さない高齢者を対象として過去の転倒既往により転倒群と非転倒群に分け、足趾把持力の比較を行った結果、転倒群の足趾把持力のほうが非転倒群の足趾把持力より有意に小さいことが示されています。

 

またこの足趾把持力について、村田らは、平地歩行が自立している高齢者における研究において、足趾把持力と転倒の発生との間に有意な相関がみられたと報告しました8)

 

さらに村田らは、健常な女子学生において足趾把持力が強いほど片脚立位における重心動揺が安定していること9)を、そして、地域在住の移動能力の自立した60歳以上の女性高齢者において足趾把持力が強いほど片脚立位時間が長いこと10)も明らかにしています。

 

新井ら11)も同様に、自立歩行可能な高齢者において、足趾把持力と片脚立位時間との間に有意な相関がみられることを明らかにしています。

 

 

このように足趾把持力はバランス能力の指標としての片脚立位時間との関係性が大きく、立位バランスを保つ上で重要であることが示唆されています。

 

そして、小島ら(私のことですが)の研究12)では、

移動に介助もしくは見守りを要するレベルである訪問リハビリテーション利用者において、足趾把持力と片脚立位時間との関係を調べた結果、有意な強い相関を示しました(図1)。

この結果からは、これまでの健常な高齢者における結果と同様に、バランス能力には足趾把持力が関係していることを示唆しています。

 

そして、以上の結果をまとめると、

足趾の筋力とバランス能力とは少なからず関係性がある

というのが大方の考えです。

 

姿勢制御機構におけるシステム理論

それでは、バランスを保つ上で、足趾把持力がどの場面で影響をあたえているのか!?

ここで、「姿勢制御機構」について考えたいと思います。

Shumway-Cookら14)は姿勢制御機構についてのシステム理論(図2)について述べています。

図の中の言葉は一見むずかしそうですが、要するにこのシステム理論によると、

感覚の情報というものが感覚刺激を検出することだけでなく

身体の重心の位置や環境の影響を受けた中での身体の状態が把握できるものなんだよ

ということを示しています。

 

このようなシステム理論を踏まえたうえで、Shumway-Cookらは、バランスに関する運動戦略を

▶︎ankle strategy(足関節戦略)

▶︎hip strategy(股関節戦略)

▶︎stepping strategy(踏み出し戦略)

の3つに分類し、3次元空間での身体位置の調節を可能にしているとしています。

 

これはどういうことかを簡単に説明すると、例えば片足立ちを保つことを考えてみてください。

 

片足で保つようにバランスをとっていくわけですが、そのバランスのとり方として、

細かい重心の調節は足関節がおこない、大きく重心を動かしながらバランスをとるのは股関節による調節、最後に耐えきれずに支持基底面を外れた場合はステッピング(踏み出し)によって転倒を防ぐ

といった身体の使い方をしている、というものです。

 

とりわけ、高齢者になると足関節戦略よりも股関節戦略を多く用いる、ということもわかっています。

 

おそらく、筋出力の低下や神経系の機能低下により足関節による細かい重心の調節がしにくくなっているためだと思われます。

 

そしてこの最初の「細かい重心の調節」については足関節とともに足趾の筋も調節に加わっていると考えています。

 

このような理論は、静的バランスに限らず動的なバランス能力にもあてはまるはずです。

そこで、実際に足趾の筋力の増加が歩行能力にどう影響しどの程度影響するのか、という研究を今現在進行形でおこなっています。

 

なかなか成果が見えにくいかもしれませんが、ぜひ形にして皆さんにお伝えできればと思っています。

今回は以上です。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

“たけ”
“たけ”
今回も先行研究やご自分の論文から内容を丁寧に解説してくれて非常にわかりやすく有益でしたね!足趾把持力って、昔からずっと言われていることだけど意外にもまだわかっていないことって色々あるんですね。。。

僕も普段治療をしていて、足指のアプローチを行うとそれだけで劇的に歩行やバランス制御、姿勢までもが変わる症例をこれまで沢山みています。

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参考文献

1) 吉本好延,大山幸綱,浜岡克伺・他:在宅における脳卒中患者の転倒予測に関する臨床研究-入院中の身体機能の点から-.理学療法科学,2009, 24(2): 245-251.
2) Vellas BJ, Wayne SJ, Romero L, et al.: One-leg balance is an important predictor of injurious falls in older persons. J Am Geriatr Soc, 1997, 45: 735-738.
3) Kita K, Hujino K, Nasu T, et al.: A simple protocol for preventing falls and fractures in elderly individuals with musculoskeletal disease. Osteoporos Int, 2007, 18: 611-619.
4) 布川雄二郎,藤本福美,沢村恵美・他:脳卒中片麻痺患者の健側下肢筋力に関して-片脚起立時間・年齢・運動麻痺・歩行能力との関係-.理学療法学,1992, 19(学会特別号): 213.
5) Buchner DM: Evidence for a non-linear relationship between leg strength and gait speed. Age Aging, 1996, 25 : 386-391.
6) Shumway-Cook A, Woolacott MH: Motor Control. Theory and Practical Applications, 2nd ed, Lippicott Williams & Wilkins, Baltimore, 2004.
7) 木藤伸宏,井原秀俊,三輪 恵・他:高齢者の転倒予防としての足指トレーニングの効果.理学療法学,2001; 28(7): 313-319.
8) 村田 伸,津田 彰:在宅障害高齢者の身体機能・認知機能と転倒発生要因に関する前向き研究.理学療法学,2006; 33(3):97-104.
9) 村田 伸:開眼片足立ち位での重心動揺と足部機能との関連-健常女性を対象とした検討-.理学療法科学,2004; 19(3): 245-249.
10) 村田 伸,大山美智江,大田尾浩・他:地域在住女性高齢者の開眼片足立ち保持時間と身体機能との関連.理学療法科学,2008; 23(1): 79-83.
11) 新井智之,藤田博曉,細井俊希・他:地域在住高齢者における足趾把持力の年齢,性別および運動機能との関連.理学療法学,2011; 38(7): 489-496.
12) 小島一範,山本亜希江,鎌井大輔,他:訪問リハビリテーション利用者における足趾把持力と片脚立位時間との関係について. 理学療法科学 31,2:315-319,2016.

 

ABOUT ME
cascade
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2020年4月より大学教員/Physical Therapist /Ph.D in rehabilitation/ 大阪大学理学部高分子科学→修士(M.S.)→Teijin Limited研究職→大学リハ学科→博士/介護予防/訪問リハ/研究や国試の勉強などを発信 理学療法士として何ができるか、理学療法士の枠にこだわらずに何ができるか、ワクワクするような新たな可能性を追い求めていきましょう!
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