脳・神経

ペリーの報告による脳卒中患者の歩行速度と生活範囲:歩行自立度の評価と治療プランの立案

“たけ”
“たけ”
こんにちは、CLINICIANSの代表のたけ(@RihaClinicians です!

僕たち理学療法士は脳卒中患者さんの歩行能力を評価することを本職としていますが、皆さんはこれをどのように評価しているでしょうか?

歩容をみたり、歩行速度や距離、歩行コストを測定してみたり・・色々と評価されておられると思います。

今回は、この中でも歩行速度に限定した内容です。

なぜ歩行速度に著目したかというと、Perryらが1995年のStokeで以下のようなものを報告し、これのデータを元に臨床で歩行能力の評価が頻繁に使用されており、これは治療の考え方にも非常に役立つからです。

かなり古い報告なのでみんな当たり前に知っているかと思いますが、知らない方にとっては良い情報だと思いますのでぜひ読んでみてください。

Perry J et al. : Classification of walking handicap in the stroke population. Stroke.1995; 26(6) :982-989.

この報告は、題名の通り脳卒中患者の自宅や地域内における歩行能力を予測する指標を検討したものです。

そして、歩行能力に最も影響する因子は(快速)歩行速度であったと報告されています。

さらに、(快速)歩行速度と生活範囲の関係は以下の通りの関係がありました。

歩行速度と生活範囲

※Perryの報告を10m歩行速度に換算した数値で表記

◉0.8m/s(12.5秒)未満
Community Ambulator:制限なく地域に外出可能

◉0.4-0.8(12.5-25秒)min/s
Limited Community Ambulator:長距離歩行が困難などの限られた範囲の外出が可能

◉0.4m/s (25秒)より遅い
House Hold Ambulator:生活範囲が屋内にとどまる

この指標は、臨床で患者さんの歩行能力を評価するとき、たとえば、自立範囲を拡大するときや、在宅に帰られる際にどの程度までの範囲の生活ができるのかを評価するときなどに役立ちます。

実際に患者さんに歩いてもらい、歩行速度を測定すればどの程度の能力に値するのかがおおよそわかりますね。

歩行速度・歩容・エネルギーコスト・生活の関係

脳卒中によって麻痺などが生じると、障害によって歩容に変化が生じます。

この歩容の変化は、健常者のような円滑な位置エネルギーと運動エネルギーの変換による倒立振り子の推進力を減退させます(Perryら2010:Gait Analysis)。

そうなると、歩行コストが増加してしまい、歩行速度の低下を招き、これが生活レベルや生活範囲を狭めていきます

私たち理学療法士が介入することの意味は、専門的な技術の提供により、“患者さんの歩容を改善し→歩行コストを低下させることで歩行速度の向上を図り→生活レベルを可能な限り引き上げていくこと”であると考えることができます。

たまに臨床で歩容を直してどうするの?歩行速度の改善を目指してどうするの?っというセラピストがいますが、上記のような観点からこの意見はおかしいと僕は考えています。

歩行速度から治療プランが明確になっていく

以前に予後予測法をご紹介しましたが、これらの予後予測からわかるのは大まかな未来の能力のみです。また、治療プランでもありません。

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しかし、先ほどのPerryらの報告を参考にすると、歩行速度を指標により目標が細分化され、治療プランも明確になってきます。

仮に、二木の予測で屋外歩行自立レベルを目指せる状態の患者さんがいたとしましょう。

その場合、まずは快適歩行速度は最低でも25秒よりも早い状態まで引き上げるように治療をおこなっていかないといけないというようなことが明確になります。

ただ、12.5-25秒は屋外で長距離を歩けないレベルなので、日常的にこのような制約なく屋外を歩行できるレベルまでもっていきたければ12.5秒よりも速く歩けるようにしなければいけません。

このあたりは患者さんの病前ADLやご本人さんの目標レベル、ご家族のサポートや利用できる環境設定を加味しながら設定しますが、とにかく快適歩行速度25秒未満の範囲まで向上していかなければ自立レベルにはもっていけないという設定ができるということをここでしっかり覚えておいてください。

快適歩行速度を規定する因子は、股関節屈曲筋力(Nadeauら1999)で69%程度の説明がつく結果が報告されています。

よって、この機能をいかに早期から引き上げる治療を行うことが重要になります。

具体的には、発症直後より座位、Vitalの安定が保てれば、座位が安定していなくともKAFOなどの装具や介助などを利用して歩行練習を進めることで網様体脊髄路やCPG(Central patten generator:脊髄内の屈筋と伸筋の活動パターンを形成する反射回路)を利用してより効果的にこの機能を高めることができます。

そして、快適歩行速度と最大歩行速度の相関はかなり高いことが報告されていますので、最大歩行速度に関わる要因の改善を図ることも歩行自立を促進します。

Nadeauらの報告では、最大歩行速度の規定因子は快適歩行と同じく股関節屈曲筋力、さらに、これに加えて足関節底屈筋力と下肢感覚で最大歩行速度は85%程度の説明がつくと報告しています。

つまり、最大歩行速度には股関節屈曲筋力、足関節底屈筋力、下肢感覚が重要です。

これらの要素は歩行の停止や方向転換、スピード調整、ステッピング、その他の応用的動作を行う際に協調して上手く働くことが非常に重要な機能であり、屋外歩行を確実に獲得する上でも有用になることはいうまでもありませんね。

股関節屈曲筋力をメインに強化しながら、いかにこれらを引き上げていくかが治療のポイントであることがわかります。

このように、歩行速度が生活範囲と関連していること、歩行速度を規定する因子が分かっていれば、自ずと治療プランが決まってきます。

上手く臨床で利用していきましょう。

なお、機能改善が見込めない場合、例えば足関節機能が上がってこない場合などもありますが、股関節と足関節は互いにトレードオフの関係にあるので、足関節が厳しい分は股関節の機能を高めたりするような工夫をしましょう。

足関節自体の機能を上げる手段としては機能的電気刺激を使ったり、装具で補っても良いですね。

なによりこれらが協調して働くことが最も重要です。

患者さんの生活の範囲を可能な限り拡大するためにも、上手く調整しながらそれぞれの機能のバランスを考えた治療やトレーニングを考えてみると良いのではないでしょうか。

PubMedで論文を読む

本日は以上で終わります。

簡単にお話しするつもりがかなり長くなってしまいましたが、今回のPerryらの快適歩行速度の報告だけでもこんなに治療についての話が膨らむんですね。

最後までお読みいただきありがとうございました( ´∀`)

おまけ:歩行速度を改善してもQOLは上がらないという議論について

歩行速度を向上させても実際は生活の質は上がらないのでは?っと思う方がおられるかもしれません。

その件に関しても、Perryらの報告の後にかなり議論になったようです。

結果は、Schmidら(2007)がPerryらの歩行の分類を元に歩行速度の改善と外出状況QOLの変化との関係を検討したことによって明らかになりました。

歩行速度の改善に伴ってQOLが改善することを示唆したと報告していました。

歩行速度の改善はQOLに直結してくるということになるんですねー

PubMedで論文を読む

参考資料

・Perry J et al. : Classification of walking handicap in the stroke population. Stroke.1995; 26(6) :982-989.
・Schmid A, et al.: Improvements in speed-based gait classifications are meaningful. Stroke. 2007 :38(7): 2096-2100.

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