脳・神経

心原性脳梗塞患者の安全な早期離床は可能か?

こんにちは、CLINICIANSの代表のたけ(@RihaClinicians です!

今回は未だに明確な結論が出ていない、心原性脳梗塞患者の心内血栓の有無での早期離床についてという非常に難しい内容です。

具体的な臨床での注意点を掲載しましたので少しでも参考になる情報になれば幸いです。

 

心原性脳梗塞とは?その発生機序

脳梗塞とは、脳の血管が詰まりその詰まった血管の支配領域の脳細胞が機能しなくなる病気です。

脳梗塞には、様々な臨床上の病型(タイプ)があり、心原性脳梗塞はその一つです。

心原性脳梗塞とは、心臓にできた血栓が血管内に遊離し、その血栓が血流に乗って脳の血管を塞栓することにより脳梗塞を起こすタイプの脳梗塞ことを言います。

 

心原性脳梗塞発症後のリハの現状

心原性脳梗塞の発症後のリハビリは、心臓に残存血栓がないかどうかが早期離床を行う上で重要とされています。

なぜなら、上述の心原性脳梗塞の発生機序でも述べた通り、心臓に残存血栓があった場合は離床(運動)を行うことで循環動態の変化を誘発し、血栓が遊離することで新たな脳梗塞を招く可能性があると考えられるからです。

それゆえに、心原性脳梗塞の患者さんのリハ時に離床を行う際には、まずは心内血栓の有無を経食道心エコーで確認するのが一般的です。

そして、血栓が存在しないことが確認された後に離床が開始されます。

 

つまり、心原性脳梗塞の患者さんのリハは心内血栓の有無が確認されるまでの期間は離床が行わないのが一般的になっているものと思われます。
(血栓が存在する場合も血液凝固能の安定が確認できるまではヘッドアップ程度までの離床しか行われないのが一般的と思われます)

 

論文からみた心原性脳梗塞の早期離床可否

心原性脳梗塞のリハは、一般的に心内血栓の有無が離床開始を左右していると前述しました。

しかしながら、実際に早期離床を行うと心臓に残存している血栓の遊離による再発が起こりやすいのでしょうか?

今回は、これを検証した論文があるので、結果をみてどのように臨床に活かすかを考えてみましょう。

 

山田浩二,河波恭弘,他:心内血栓が残存した急性期心原性脳塞栓症患者の早期離床.総合リハビリテーション.2003;31(3):275-280.

対象は発症7日以内の脳梗塞患者連続540例のうち、心原性脳梗塞と診断された186例でした。

このうち、理学療法が処方されなかった53例、経食道心エコー検査が実施されなかった28例を除外した104例を分析対象としました。

分析方法は、これらの対象者の入院からの経過(神経学的脱落症候の変化、再発率、退院時身体状況の変化)を診療録から後方視的に調査し、心内血栓あり群となし群でその差を比較しました。

両群とも同様に早期から離床が行われていました。

結果は、両群で性別、年齢、責任血管、発症前身体状況、発症から入院までの期間、入院時NIHSSに有意差は認めませんでした。

また、神経学的脱落症候の変化(入院時NIHSS−入院後10日目NIHSS)で両群の悪化率に有意差を認めず、再発や退院時身体状況に関しても有意差は認めませんでした

 

この論文の結果より、心原性脳梗塞の早期離床は心内血栓を有する場合でも安全に実施できる可能性があると考えられます。

ただし、この研究では、血栓あり群は1例を除いて全て左心耳の血栓であったとのことです。

血栓の遊離は血栓の検出部位や性状でも異なることが報告されています。

・心内血栓の検出部位と脳塞栓症との関係では、発症率は左房内血栓約70%、左心耳入口部約30%、中部以下約10%となり、左房内血栓を有するものが発症しやすい(Abe2000)

血栓の形状に可動性があるものが高率に再塞栓を認めた(Leung1997,Abe2000)

 

つまり、上述の論文のように左心耳の症例ばかりが対象に含まれている研究では、左房内血栓で可動性がある場合は血栓遊離による再発の可能性の高さは否定しきれません。

したがって、結局のところはリハビリで離床を行う際には経食道心エコーを行って血栓の箇所と性状の評価が必要になりますね。

そして、経食道エコーの結果が出た際には、

左心耳に血栓があった場合は血栓があったとしても遊離性の血栓でなければ血栓がない場合と同様に安全な離床はできる可能性があると判断して離床を進める

左房内に可動性の血栓がある場合には、離床を行う際の血栓の遊離がある可能性が高いので、十分に注意を払っておく必要がある

ということになります。

 

ここで注意が必要と述べましたが、具体的に注意する点は以下になります。

離床時の注意点①:血液凝固能のコントロール

リハを行う前に血液検査でPT-INRが至適値にあるかどうか確認しておきましょう。

離床時の注意点②:心機能の確認

心原性脳塞栓症の患者さんは、元々不整脈があったり心臓の機能が落ちていることが多いです。離床時は心臓に負荷をかけることになりますので、事前に心臓の機能が不良な初見はないかどうかを心エコーで確認しておく必要があります。

離床時の注意点③:Vital管理

血栓の遊離は血流速度の変化により生じる可能性が高いと考えられているため、離床時には血圧や心拍数などの循環動態に顕著な変化がないか随時チェックします。

また、心房細動(Af)などのように心臓からの駆出が適切にできていない状態から急に洞調律に戻って駆出がされるようになった際などにも血栓の遊離が発生しやすい可能性が考えられているため、血圧を上昇させたり過度なストレスを加えたりしてAfを誘発しないように注意しましょう。

 

 

本日は以上で終わりです。

なぜこのような議論がなされるかというと、脳卒中患者の機能回復は早期に著しく、できるだけ早い段階で早期離床が行われることが望ましいと言われているからです。

発症24時間以内の介入に関してはAVARTの報告で微妙な見解ですが、それ以降の早期の介入は現在では間違いなく早期に積極的なリハを行うことが望ましいという見解で一致しているでしょう。

そんなわけで、心原性脳梗塞患者の心内血栓の有無は早期離床に影響するのかという疑問は急性期リハを必死に行われている臨床家の尽きない悩みの一つとなっているかと思います。

今回ご紹介した論文では、結局のところはっきりとした結論は出ませんが、最後に掲載した離床を行う際の注意点や、早期に心内血栓の有無を確認する対応が重要だということはおわかりいただけると思います。

 

患者さんの状態が落ち着いて入れば可及的早期に心内血栓の有無の確認が行われ、その後の治療方針を早い段階でタイムリーに主治医に確認して連携をとることで、離床が円滑に行われる環境を作りたいものですね。

少しでもお役に立てれば幸いです。

 

最後までお読みいただきありがとうございました!

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