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等尺性筋力測定器を用いた筋力測定方法~ハンドヘルドダイナモメーター下肢筋力測定法まとめ(kgとニュートンの換算方法あり)~

“たけ”
“たけ”
こんにちは、CLINICIANSの代表のたけ(@RihaClinicians です!

臨床における筋力の評価は、患者さんの現状能力の評価や治療効果判定、治療選択、治療方針の決定など、非常に多彩であり重要です。

しかし、筋力測定はその測定方法が適切に実施できていなければ、上記で挙げたようなものに利用することはできません。つまり、適切に測定できなければ評価する意味はないということですね。

ここでいう「適切な測定」とは、再現性が高く(何回測定しても、誰が測定しても類似する結果となる測定方法)、測定した数値が他と比較できる測定方法のことを示しています。

今回は、この前者の再現性が高く測定できる方法をご紹介します。

後者の「測定示した数値が他と比較できる方法」は、比較したいデータを計測した方法と全く同じように測定を行えばよいですが、これに関してもちょっと知っておいて欲しい注意点があるので最後に触れておきます。

それでは、今回のテーマの通り、ハンドヘルドダイナモメーターによる下肢の主要関節の等尺性筋力測定の方法についてご紹介していきます。 

測定法の全般的な共通点

・筋力測定はセンサーパッドがベルトで固定できる機器アニマ株式会社 μ-tas F-1など)を使用する(ベルトなしだと検者の筋力が強い場合検査者の固定力が弱い場合再現性が低下しやすい。特に、MMT3以上の筋力を有する場合、女性の検者の場合は測定値がばらつきやすい。)

・測定中はセンサーパッドのずれを防止するため検者がパッドを固定する

・一回の測定では約3-5秒間の最大努力を行わせる

左右3回ずつ計測し、最大値を結果として採用する

・一回ごとの測定間隔は筋疲労の影響を考慮し30秒-1分以上の間隔をあけて行う

Vital signの変動に注意する。特に最大筋力発揮時にはValsalvaによる血圧急上昇が発生しやすいので注意。

骨折リスクに注意する。両手で座面端を引き上げようとしながら体幹屈曲位で測定を行った場合、腰椎に応力が集中し圧迫骨折が発生してしまったという事例が過去に報告されている。少なからず骨折リスクがある症例の場合には、脊柱を屈曲させないことと座面端を手で引っぱらせないように指示を行うことが重要である。

股関節屈曲

肢位

端座位にて体幹を垂直位とし、体幹を安定させるために体の両脇の下に手を置かせた状態になり、大腿部が座面と平行(股90度屈曲位)となるようにする。

固定方法

センサーパッドは大腿遠位部前面(上面)に当てる。そして、ベルトを床へ垂らしてベッドの脚などで踏みつけ、固定用ベルトが大腿と床と垂直になるよう緩まないように設定肢位に調節する。この際、被験者が力を入れたときに測定肢位となることを確認してから測定を行う。

股関節伸展

肢位

腹臥位、大腿遠位部をベッド端から出し、大腿部がベッドと平行(股屈曲伸展中間位)になるようにする。また、体側でベッドの縁を把持する。

固定方法

センサーパッドは大腿遠位部後面に当て、床に垂らしたベルトをベッドの足などで踏みつけて床と大腿と垂直に固定し、ベルトが緩まないように長さをように調節する。そして、被験者が力を入れたときに測定肢位となることを確認して測定する。

股関節外転

肢位

ベッド上背臥位、股関節内外転中間位。

固定方法

センサーパッドを膝関節直上の大腿遠位部外側に当て、ベルトを両下肢に巻きつけるように反対側下肢に連結する。そして、反対側の大腿遠位部外側とベルトの間に検者の足部を入れ、検者の体重によって外転力に拮抗できるようにベルトを大腿に対して垂直に固定する。ベルトは股関節が内外転中間位の状態で緩まないように長さを調節し、測定する。

股関節内転

肢位

背臥位、股関節内外転中間位、内外旋中間位。

固定方法

検者は骨盤を測定側の外側から片方の手で押さえる。センサーパッドの位置は大腿遠位部、内側部に当てる。固定用ベルトは測定下肢の外側で検者の足と連結させ、股関節内外転中間位になるように固定用ベルトの長さを調節し、大腿と垂直になるように設定して測定する。

膝関節伸展

肢位

端座位で下腿を垂直に下垂、両上肢は体幹前方で組ませ体幹は垂直位を保つ

固定方法

センサーパッドは下腿遠位部前面に当てる。そして、ベルトは被検者の下腿後方の支柱に連結し、ベルトと下腿が垂直でベルトが緩まないように長さを調節して測定する。なお、測定の際には力を入れた際に膝窩部が圧迫されて疼痛が出ることがあるため、膝窩部の圧迫を回避するために大腿部の下に折り畳んだバスタオルを敷く。なお、最大値を得るためには非測定側下肢を接地させた条件で行うことが望ましい。

等尺性膝関節伸展筋力は、プラットホーム端座位、車椅子座位、介護用ベッド端座位、背もたれ付きパイプ椅子座位の4つの異なる座位で再現性が検討された報告があります。この結果より、パイプ椅子座位での測定は避けるべき結果でしたが、介護用ベッドや車椅子での測定では高い再現性であったため、これらの測定方法を利用すれば臨床での使用場面も増えるものと思われます。

膝関節屈曲

肢位

端座位で下腿を垂直に下垂、両上肢は体幹前方で組ませ体幹は垂直位を保つ

固定方法

センサーパッドは下腿遠位部後面に当てる。そして、ベルトは前方に位置する検者下腿に連結し、ベルトと下腿が垂直になるようにベルトの長さを調節して測定する。また、筋力測定時には、被検者の測定肢の膝が前方に移動するのを防ぐため、一方の手で膝を固定する。

足関節背屈

肢位

椅子に腰掛けた状態で、前方に位置したベッド上に測定側の下腿を乗せ、さらに遠位側に取り付けたベッド柵に接した状態に置いた訓練用の10cm木製台の側面に足関節底屈20度位で踵をつけた状態になる。この際には、折りたたんだバスタオルを踵の下に敷き踵の高さを調節する。

固定方法

センサーパッドは中足骨遠位部、足背側に当てる。そして、ベルトをベッド柵と連結し、足関節20度底屈位になるようにベルトの長さを調節して測定する。

“たけ”
“たけ”
再現性が高いと言ってもちょっと測り方がめんどくさいですよね。

そんな場合は、以下のような簡便な測定方法でも高い再現性が報告されていますので、こちらを使うのも良いかもしれません。実施方法は仰臥位で上記と同様の足関節角度で実施します。

足関節底屈

肢位

ベッド上腹臥位、股関節内外転中間位、膝屈曲115度、足背屈15度位

固定方法

センサーパッドは中足骨遠位部、足底側に当てる。さらにベルトを大腿遠位部前面にかけ、足底屈15度となるようにベルトの長さを調節する。この際、被験者の大腿遠位部とベルト、および足底部がほぼ90度となるようにベルトの位置を調節して測定を行う。

筋力測定値を利用する際の注意点

測定した筋力値(kgやNなど)はそのままの値を比較に用いることができません

なぜなら、被験者は体重や足の長さが異なるなどの問題があるからです。

この具体的な例としては、体重が重たい人は、体重が軽い人に比べて筋力が弱いのが当たり前みたいな感じ。体重が軽い人は、体重が重たい人よりも軽い力で日常生活が送れますが、重たい人ではその人と同じ筋力では日常生活が送れないことがありますね。

比較をする際には、このような個体による違いを標準化して比較条件を平等にしてあげる必要があります。

今述べたように、まずは体重の条件を標準化してあげます。

こちら記事で掲載したハンドヘルドダイナモメーターの測定値の報告もこれと同様に標準化された値で報告されていますので、使用する際は同じように標準化しましょう。

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筋力値の標準化

標準化する方法は、測定した値を体重で割ってあげるだけです。

測定値kg(またはkgf)÷体重kg=◯◯kg/kg

※kgとkgで単位が同じなので、論文の報告ではこのkg/kgは◯◯%と掲載されていますね。

また、今回ご紹介した測定方法でハンドヘルドで測定をした値であれば、この処理を行えばある程度、臨床的で十分な比較ができるのですが・・・本当はもっと厳密に標準化しなくてはなりません。

それはどういうことかというと、人は個体によってそれぞれの足の長さが異なりますので、足の長さ分も標準化してあげないと厳密に比較はできないんです。

一応、これだけでわかりにくい方のために解説しておきましょう。

今回ご紹介した方法は、膝関節伸展筋力の測定を例に挙げると「センサーパッドは下腿遠位部前面に当てる」ということですが、下腿遠位部といっても毎回の測定で膝関節軸からセンサーパッドの距離は少なからず変化します。

被験者が違えば下腿の長さが違うのでもっと変化しますね。

ハンドヘルドで測定している値は、筋のトルクを測定していますので、同一の被験者(同じ最大筋力を発揮する人)でも、膝関節軸からセンサーパッドの距離が変われば測定値は異なった値がでます。

わからない人にはかなりわかりにくい説明ですが、この原理をイメージしてもらったらわかりやすいです。

同一の被験者なら力点(筋が付着しているところ)と支点(膝関節軸)の位置は変わらないので、作用点(重りを持ち上げる位置=センサーパッドの位置)が支点から遠いほど強い力が必要になります。

つまり、同じ力を発揮した時でも、膝関節軸からセンサーパッドの位置が近いほど測定値は高くなり、遠いほど測定値は低く出ます

結局説明がわかりにくくて申し訳ありませんw

とにかく、厳密に筋力測定値を標準化して比較したければ「関節軸からセンサーパッドまでの距離」も調整しなければならないというところはわかりましたでしょうか?

今のところ、学会・論文などの研究で使用できるような良い標準化方法は以下になります。

測定値(kg)×関節軸からセンサーパッドまでの距離(m)÷体重=◯◯kgf・m/kg

論文や学会では、よくkgのところがNで記載されているものを見ると思います。

これはNが世界標準として使われているから。測定機器によってkgとNの表示は違うかと思いますが、両者はともに変換が可能です(※ちなみにkgもkgfもkgwも同じです)。

1kg=9.8N

なので、Nで表記したい場合は以下のような換算になります。円とドルの換算みたいなもんですね。

測定値(kgf)×9.8×関節軸からセンサーパッドまでの距離(m)÷体重=Nm/kg

過去に報告されている質の高い研究の多くは、このNm/kgで掲載されているので、値を参考にして比較する際には測定値を上記のように変換して使用しましょう。

・・結構難しいですね。

最後は頭がパンクしそうなお話ですみませんでした。

ただ、これができないとせっかく測定する値も利用できないので、是非とも覚えておきましょう!

僕らが何年も前に受けた国家試験も一問は出るでしょうw

なお、以前に似たような記事で重心線とモーメントの話をアップしています。気になる方はこちらもどうぞ(・ω・)ノ

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本日は以上で終わります。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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参考資料

・山崎 裕司,他:固定用ベルトを使用した等尺性膝伸展筋力測定方法の検討 試行回数と非測定側下肢支持の影響.高知リハビリテーション学院紀要 .2010;11:31-34.
・中畑 晶博,他:等尺性膝伸展筋力測定中に発生した腰椎圧迫骨折の1例.日本臨床スポーツ医学会誌 .2014;22(4):S161.
・山崎 裕司,他:ハンドヘルドダイナモメーターによる等尺性股関節外転筋力の測定 固定用ベルトの使用が再現性に与える影響.高知リハビリテーション学院紀要.2009;10:61-66.
・加藤 宗規,他:ハンドヘルドダイナモメーターによる等尺性足底屈、背屈筋力の測定 固定用ベルトの使用が再現性に与える影響.理学療法: 進歩と展望.2006;20:56-60.
・加藤 宗規,他:ハンドヘルドダイナモメーターによる等尺性股内転,内旋,外旋筋力の測定 固定用ベルトの使用が再現性に与える影響.高知リハビリテーション学院紀要.2006;7:11-17.
・加藤 宗規,他:ハンドヘルドダイナモメーターによる等尺性股屈曲,伸展筋力の測定 固定用ベルトの使用が再現性に与える影響.高知リハビリテーション学院紀要.2005;6:7-13.
・柏 智之,他:固定用ベルトを装着したハンドヘルドダイナモメーターによる等尺性膝屈曲・伸展筋力測定方法の再現性 健常成人,高齢患者における検討.高知県理学療法.2004;11:20-24.
・山崎 裕司,他:固定用ベルトを装着したハンドヘルドダイナモメーターによって測定した膝伸展筋力値の妥当性.高知県理学療法.2003;10:7-11.
・坂上 昇,他:ハンドヘルドダイナモメーターによる等尺性足背屈筋力の測定 検者間及び検者内再現性の検討.高知リハビリテーション学院紀要.2003;4:13-17.
・栗山 裕司,他:固定用ベルトを装着したハンドヘルドダイナモメーターによる等尺性膝伸展筋力の測定 異なる座位姿勢間における再現性の検討.高知リハビリテーション学院紀要.2003;4:1-6.

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