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医療専門職の多職種連携に関する理論

こんにちは、cascade (@cascade1510 です!

これまで多職種連携について事例などを通じて紹介したり考察したりしました。

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私の周りを見てみても、やはり皆さん連携に苦労しているようです。

TwitterなどSNS上でも時おり他職種のツイートについての違和感を示すツイートや、職場での他職種への不満などが呟かれていますよね。

どうしてこのような現象が起こるのでしょうか⁈

現象には必ず原因があるはずです。

相互の理解不足や、思いやりの欠如、などなど…

いろいろ思うこともあるかもしれません。

ただ、おそらく原因は1つではなさそうです。

 

実は学問的に多職種連携に関する研究というものもあり、多くの文献が存在します。

今回は、東京大学の春田淳志先生らの総説

「医療専門職の多職種連携に関する理論について」

という論文を中心に実際の例など入れながらなるべく噛み砕いて説明していきます。

この論文のリンク先はこちらをご参照ください。

 

ここでは多職種連携について社会全体のシステムというマクロな面から、一人ひとりの個人的な心理面のようなミクロな面まで様々な切り口から論じており、その解決策の糸口を探すヒントを与えてくれています。

とりあえずは、この論文内にある図を見てみましょう!


画像引用元:文献1)

 

…おそらくこれだけ見てもよく分からないのではないでしょうか。

でも大丈夫です!

この記事を読むと、ある程度理解できるようになると思います。

それではさっそく解説していきます。

 

多職種連携に関する理論の図が意味すること

まずはこの図の表していることですよね。

この図の横の軸は社会全体のマクロの視点か個人のミクロの視点、つまり右に行けば行くほど社会全体に関するもので、左に行けば行くほどその人個人的なものに関するものになります。

縦の軸はIPE(多職種連携教育)かIPW(多職種連携の実践)の両極をとっています。

つまり上に行けば行くほど実際の現場に関するもので、下に行けば行くほどこれまでどう教わってきたかという教育に関するものになります。

 

このような縦軸と横軸としたときに、それぞれの理論がどの位置にあるかを示したものがこの図になります。

今回のこの記事ではこの論文の内容すべてを網羅できませんが、かいつまんで紹介できればと思います^ ^

それでは先ほどの図の横軸で考えて右側に位置すると考えられる社会全体からの視点における理論からみていきましょう。

 

社会構成主義

まず社会構成主義というものです。

学校の教育システムを中心とした社会の構造によって影響を受けている、といった考え方が述べられています。

本文では以下のように述べられています。

認知機能は社会的相互作用と個人間の相互作用による認知の構造を積み重ねる「学習」と現実世界での「経験」の往復で次第に発達していくと論じている.

 

…ちょっとイメージしにくいでしょうか。

例えば医学生は医師から教わることがほとんどであり、理学療法学生は理学療法士から教わることがほとんどだと思います。

そうなるとやはりそこの教育ではそれぞれの専門職から見た考え方が身に付くはずであり、他の職種の考え方などはなかなか教わることがないため理解もしないまま育っていく、と言う社会の構造にある点を説いています。

基本的に我々は、それぞれが学んだ分野の中での同じ集団で似たような考え方を教育されているために、その集団では当たり前の「常識」として認識しているものの、実はそれが別の分野の環境の中で育った人々からすると極めて異質なものであることが往々にしてあるようです。

そしてそれが社会に出てから他の分野の人々と協働する際に、それぞれが当たり前と思っているそれぞれの「常識」を振りかざすことで、ズレが生じるためにお互いを理解できないということになる。といった具合です。

そう考えると割と納得できますよね!

 

社会関係資本

次に社会関係資本というものです。

皆さんの周りには家族や友人、職場の同僚や上司、近所の付き合いやさらには最近ではSNS等で知り合った人たちなど、それぞれのつながりを持っているかと思いますが、そのつながりが大切な財産なんだよ、と言う考え方です。

多職種連携においても、それぞれの職種とのつながりをなるべく濃いものにしていくことでつながりが深くなり、結果的にこの社会関係資本が高まるということになります。

これはまさに多職種連携の重要性そのものを説明していますよね。

他職種とのつながりが多ければ多いほど、価値が高まっていくということですね。

さて次に個々の視点から見る理論からの多職種連携についてです。

 

成人学習理論 

学校教育など子供への教育に対して、成人つまり大人における学習の特徴をとらえています。

Mezirowは「成人には経験や社会的役割などに裏打ちされた頑固さゆえに大きく飛躍できない」ことを指摘し,それを打ち破ることを成人学習の中心に置くべきと述べています。

分かりやすく言うと、ヒトは大人になるにつれてそれまでに経験したことによってある種の信念のようなものができてしまい、それを簡単に曲げることが難しくなります。しかし、そんな成人が学ぶためには、自らの気づきや意識を変えること(意識変容)が必要だ、というものですね。

多職種連携においては以下のように述べています。

他者との関わりから自らの職種の役割について理解を深めることが求められるが、この他者との関わりから想定外の経験を振り返り,自分の中に新たな視点をもち,次の連携に生かすことを積み重ねていくことの重要性

 

つまりは、他職種と積極的に関わっていくことで、自分自身の経験から得られたものとは違った視点を学び、理解することができるというものだと思われます。

このことは他職種だけでなく同職種内でのコミニュケーションにおいても言えることかもしれませんね。

 

タックマンモデル(Tuckman’s team de- velopment model)

タックマンモデルは心理学者である Tuckmanによって提唱され た理論で、あるグループ形成が次の図のように4 段階で進んでいくことを説明しています。

①形成期(集団が共に働き始めようとしている時期)

②混乱期(メンバーが自分の役割を選び始め、メンバー間に摩擦が起こる時期)

③統一期(チームの中の分業についての合意に取り組む時期)

④機能期(お互いを理解し合い、十分に調整されたやり方で共に働く時期)

このことは裏を返すと、より良い連携のためには混乱や摩擦などが起きる事は当然のことであり、それを踏まえて前に進んでいかなければいけないということだと思います。

そして多職種連携においてそれぞれの時期に必要な事も記されていますので、みていきましょう!

①形成期

最初に,チームの目標を達成するための「課題」を明らかにする必要がある。

課題認識があいまいなまま,なんとなくプロジェクトを進行させるケースがよくみられるが,それでは次の混乱期においてメンバー間で意見の活発なやりとりが起きない可能性がある。

その結果,課題解決アプローチが十分に 練られないため,最終的に高い成果を得ることは 難しい。

②混乱期

ときに喧嘩をし,衝突する可能性もあるが,むしろ,それぞれの考え方や価値観を理解し合うチャンスとなるこ とも多い。

相手の人格を否定するような言動は慎重に避けなければならないが,お互いに言いたいことも言えないようなチームでは,難易度の高い課題を解決することは難しい。

③統一期

混乱期の行方をみながら,メンバー間で共有された考えや価値観の違いを踏まえて,新たな行動ルールや役割分担をタイミングよく定めていく。

各メンバーが意見をぶつけ合っているだけの状態が,短すぎても各メンバーは消化不良をおこすし,長引きすぎてもお互いの信頼関係が回復不可能な状態に陥ることもある。

このとき,トップダウンによる押し付けはせず,メンバー全員と共同で課題解決アプローチをみつけることにより,チームとしての目標達成意欲を喚起する。

④機能期

これまでのプロセスを経て,チームが一丸となって,目標達成に邁進するのが理想ではあるが,それでも,刻一刻と変化する状況に合わせて,メンバーは柔軟に役割を変化・適応しなくてはならない。

そのためファシリテーターは,メンバーにチームの目標を無理やり押し付けるのではなく,メンバー自身の価値観と チーム全体の価値観が同心円状に重なり合うよう対話を続ける必要がある。

こうした取組みは,機能期に限らず,チーム結成当初から行われていくべきものである。

 

社会的アイデンティティ理論(social identity theory)

社会的アイデンティティ理論は以下のように述べれられています。

社会的アイデンティティとは,自己が所属する 社会集団ないし社会的カテゴリーの成員性に基づいた自己概念で,感情や評価を伴うものと定義される。

 

つまりこの社会的アイデンティティ理論は、自分たちの集団と他の集団とを区別し、自分たちの集団を贔屓(ひいき)しようとすると意識が働く状態を説明しています。

要するに、自分たちの属する集団は「味方」、それ以外はある意味「敵」とみなして、自分たちの集団に有利になるように物事を進めようと考えてしまうこと、というふうに解釈できます。

これはどこの世界でも多かれ少なかれありますよね。

 

自分の家族、自分の地域、自分の自治体、自分の国、などはそれ以外と比べて味方になりたいと思うし、贔屓したくなりませんか。

しかし、これがある意味「壁」を作り出していることになっているわけで、多職種連携のためには、その壁を取っ払う必要があるのではないでしょうか。

 

まとめ

今回多職種連携について学問的な観点からみてきました。

いろいろな理論がありますが、このようなことがある、と認識しておくだけでも連携する中で一歩前に進めるのかもしれません。

様々な理論が存在し、それぞれが複雑に絡まり合っているために、連携するには一筋縄ではいかないことが容易に想像できます。

しかしやはり根底にあるのは、連携をするためには相手のことをよく知って理解する必要がある。そして相手を思いやる気持ちが大事である、ということだと思います。

 

私は現在「思いやり」に関する研究も行っていますが、結局は人と人との関わり合い、コミュニケーションが大事なのではないでしょうか。

 

参考資料

1)春田 淳志, 錦織  宏:医療専門職の多職種連携に関する理論について.医 学 教 育 2 0 1 4 ,4 5( 3 ): 1 2 1 ~ 1 3 4.
2)Jack Mezirow. Transformative Dimention of Adult learning. Jossey–Bass Inc. 1991.
3)Henri Tajfel, John C T. The social identity theory of inter–group behavior. In S. Worchel & W. G. Austin(Eds.), Psychology of intergroup relations. Chicago: Nelson–Hall. 1985. p.7–24.
4)Tuckman BW. Developmental sequence in small groups. Psychological Bulletin; 63, 1965. p.384–399.

 

 

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