その他

ロコモティブシンドロームについて

はじめに

こんにちは、cascade (@cascade1510)です。

 

今回のテーマは「ロコモティブシンドローム」についてです。

 

よく「ロコモ」とも省略されたりします。

 

国内で活躍されている皆さんは一度は聞いたことのある名前だと思います。

 

そしてある程度のイメージもあることと思います。

 

このロコモティブシンドロームとよく混同されがちな「フレイル」「サルコペニア」との区別については以前にまっつぁんさんの記事で、フレイルを中心に分かりやすく解説されているので、そちらをご参照ください。

フレイルを予防するのにどんな運動療法が有効か?―効果的な種類・頻度・時間は?―フレイルについて知りたいですか?本記事では、フレイルやロコモ、サルコペニアの関連性、フレイルを予防するのにどんな運動療法が有効か?効果的な種類、頻度、時間について研究論文のレビューを元に丁寧に解説しています。フレイルのリハビリテーションをどのように展開したら良いのかお悩みの方は必見です!...

 

それでは、このロコモティブシンドロームについてどんなものか、詳しくみていきましょう。

 

ロコモティブシンドロームとは

 

ロコモティブシンドロームは日本語では「運動器症候群」といい1)、2007年10月に日本整形外科学会が提唱したもので、定義は次のようになります。

「運動器の障害によって、移動機能が低下した状態」2)

このロコモティブシンドロームが進行すると人の生活動作の自立を妨げ要介護になるリスクの高い状態となるとしています3)

 

実際に平成25年度の厚生労働省の国民生活基礎調査の概況4)をみてみると、要介護・要支援の状態になる原因の第4位が「骨折・転倒」で全体の11.8%であり、第5位が「関節疾患」で全体の10.9%となっています。

この4位と5位の運動器疾患の割合を合わせれば1位の「脳血管障害」の割合18.5%を上回る値となっており、やはり運動器の障害が高齢者のQOLを下げることにもつながっていると考えられます5)

 

ロコモの評価について

 

それでは、このロコモティブシンドロームの評価について紹介します。

緒方6,7)は、ロコモティブシンドロームを対策するために必要となる評価法として、以下の2つの客観的移動機能評価法

  • 2ステップテスト
  • 立ち上がりテスト

と、高齢者を対象とした痛みと動作、不安、移動、活動・参加の概念で構成される自覚的運動機能評価尺度であるロコモ25を取り上げています8)

ロコモ25

25の質問項目からなる評価尺度です。

このロコモ25を用いて運動器に関連する明らかな疾患を持たない男女777名での横断的調査を実施し、いずれも明らかな運動器疾患がなくても加齢とともに機能低下の傾向があることを示しています。

立ち上がりテスト

立ち上がりテストは、10 cm、20 cm、30 cm、40 cmの台を用意し、まずは40 cmの台に両腕を組んで座ります

そこから反動をつけずに両脚で立ち上がります

これができたら、次に片脚でテストします。

片方の脚を上げ、反動をつけずに立ち上がり、そのまま3秒間保持します。

左右ともに片脚で立ち上がることができれば成功で、次に30 cmの台で同様に、さらに20 cmの台、10 cmの台とテストを繰り返します。

 

2ステップテスト

2ステップテストはスタートラインに両足のつま先をそろえ、転ばないようにできるだけ大股で2歩歩き、両足をそろえます

ここでバランスをくずした場合は失敗とします。

2歩分の歩幅を測って良いほうの記録を採用します。

この2歩分の歩幅(cm)をその人の身長(cm)で割った値「2ステップ値」として算出します

この2ステップテストでは下肢の筋力・バランス能力・柔軟性などを含めた歩行能力を総合的に評価でき9)、広い測定空間を必要としない簡便な歩行能力推定法とされており、これまでに10 m歩行速度6分間歩行距離日常生活自立度との関係性が示されてきています10)

 

2ステップテスト私自身の研究でも、デイサービス利用者さんにおいて、この2ステップテストと他のバランス評価との相関があることが示唆されました11)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpts/29/6/29_jpts-2017-036/_article/-char/ja/

英語論文を読むのが苦手な方は、次の私の博士論文の第3章に日本語で記載していますので、ご参照ください。

https://kwmw.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=14397&item_no=1&page_id=13&block_id=17

 

この2ステップテストについては、ロコモの評価だけでなく、歩行能力にも通じるバランス評価法として、今後ますます利用されていくことが予想されます。

 

みなさんもぜひ評価法として使ってみてください。

 

カットオフ値(基準値)について

 

これまで挙げたロコモティブシンドロームの評価法について、日本整形外科学会では、図のようにそれぞれ基準値が設けられています。

ロコモ度1(移動機能の低下が始まっていると判断)

  • 立ち上がりテスト:片脚で40 cmの高さから立てない
  • 2ステップテスト:1.3に達しない
  • ロコモ25:7点以上

 

ロコモ度2(移動機能の低下が進行していると判断)

  • 立ち上がりテスト:両脚で20 cmの高さから立てない
  • 2ステップテスト:1.1に達しない
  • ロコモ25:16点以上

 

 

どれかひとつでも当てはまればロコモ度1あるいはロコモ度2と判定されます。

 

ロコモーショントレーニング(ロコトレ)とは

 

これまでロコモの基準について紹介しましたが、では運動器機能不全状態に陥らないように予防あるいは改善するためにはどうすればよいのでしょう?

 

ここでロコモ予防のために推奨されている運動のことを

「ロコモーショントレーニング(ロコトレ)」といいます。

どちらも高齢の方が自宅でもおこなうことができるトレーニングです。

 

ロコトレその1:開眼片脚立ち運動

バランス能力を強化し、転倒予防効果があります。

片脚を5~10 cm上げて、もう一方の足で立ちます。

転倒しないように必ずつかまるものがある場所でおこないます。

左右各1分間1日3回おこないます。

 

 

ロコトレその2:ハーフスクワット運動

両脚を肩幅より広げて、つま先を30度ほど外側に向けて立ちます。

腰を後ろに引くように膝を曲げます

このとき、膝がつま先よりも前に出ないように注意します。

手を前に出してバランスをとってもいいです。

1回あたり10~12秒かけて、5~15回を1日2~3セットおこないます。

 

このようなロコトレによる介入で様々な運動機能の改善が報告されています。

要するに筋肉を鍛えることで改善がみられるはずなので、足腰を鍛える運動であればある程度どのような運動でも効果は期待できるはずです。

 

今回の記事をぜひ参考にしていただいて臨床や研究に活かしていただければ幸いです。

 

また、このロコモティブシンドロームに関連する研究は、当メンバーのまっつぁんさんにより数多くの論文が出されていますので、そちらもご参照ください12-15)

 

最後までお読みいただきありがとうございます。

 

参考文献

1)武藤芳照、鈴木みずえ、原田敦:転倒予防白書2019第一版.日本医事新報社.2019

2)中村耕三,戸山芳昭:「ロコモティブシンドロームの臨床像-概念と操作的定義に基づく治療戦略-」序文.日整会誌,2014; 88: 729-730.

3) 西村明展,松峯昭彦,長谷川正裕,若林弘樹,宮本憲,明田浩司,淺沼邦洋,辻井雅也,宮崎晋一,中村知樹,須藤啓広:四頭筋筋力とロコモティブシンドロームとの関連について-旧宮川村検診より-.日整会誌 2015; 89(3): 3-11-12.

4) 厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa13/

5) 吉村典子:ロコモティブシンドロームの臨床診断値と有病率.日老医誌 2015; 52: 350-353.

6) 緒方徹:ロコモティブシンドロームに対するポピュレーションアプローチ.日整会誌 2014; 88: 739-742.

7) Ogata T, Muranaga S, Ishibashi H, Ohe T, Izumida R, Yoshimura N, Iwaya T, Nakamura K: Development of a screening program to assess motor function in the adult population: a cross-sectional observational study. J Orthop Sci, 2015; 20(5): 888-895.

8)Seichi A, Hoshino Y, Doi T, et al: Development of a screening tool for risk of locomotive syndrome in the elderly: the 25-question Geriatric Locomotive Function Scale. J Orthop Sci, 2012; 17(2): 163-172.

9) 村永信吾:ロコモティブシンドロームのすべて:みてわかるロコモティブシンドローム2ステップテスト.日本医師会雑誌,2015, 144(特別1): S11.

10) 村永信吾,平野清孝:2ステップテストを用いた簡便な歩行能力推定法の開発.昭和医会誌,2003; 63(3): 301-308.

11)小島一範,鎌井大輔,石谷彰吾,渡邉進:Availability of the Two-step Test to evaluate balance in frail people in a day care service.(通所介護サービス利用者における2ステップテストとバランス評価との関係),Journal of Physical Therapy Science, 29(6): 1025–1028.

12) 松本浩実, 萩野浩: 3軸加速度計歩行分析によるロコモティブシンドロームスクリーニングの妥当性について.運動器リハビリテーション.2013.24(4).383-389

13) 松本浩実, 中祖直之, 松浦晃宏, 秋田朋子, 萩野浩: ロコモティブシンドロームの重症度と転倒頻度、低骨密度及びサルコぺニアの関連性について.理学療法学.2016.43(1).38-46

14) Hiromi Matsumoto, Hiroshi Hagino, Takashi Wada, Eri Kobayashi: Locomotive syndrome presents a risk for falls and fractures in the elderly Japanese population.Osteoporosis and Sarcopenia.2016.2(3).156-163

15) Hiromi Matsumoto, Hiroshi Hagino, Mari Osaki, Shinji Tanishima, Chika Tanimura, Akihiro Matsuura, Tomoyuki Makabe: Gait variability analyzed using an accelerometer is associated with locomotive syndrome among the general elderly population.: the GAINA study. Journal of Orthopaedic Science.2016.21.354-360

 

ABOUT ME
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2020年4月より大学教員/Physical Therapist /Ph.D in rehabilitation/ 大阪大学理学部高分子科学→修士(M.S.)→Teijin Limited研究職→大学リハ学科→博士/介護予防/訪問リハ/研究や国試の勉強などを発信 理学療法士として何ができるか、理学療法士の枠にこだわらずに何ができるか、ワクワクするような新たな可能性を追い求めていきましょう!
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