こんにちは、骨折研究をしているまっつぁん(@fractureprevent)です!
「フレイル」という言葉が高齢者のリハビリテーションの分野で浸透してきたように思います。
フレイルを簡単に説明すると
“加齢に伴う運動機能や認知機能の低下に、慢性疾患などの影響も加わり、心身機能が弱っている状態“1)
です。
また、予備力を失った状態として、健康と要介護状態の中間に位置する概念です(図1)
フレイルの大きな特徴は
”適切な介入をすれば健康状態に戻れる“可逆性があるということです。
特にこの適切な介入の一つに“運動”が挙げられます。
ではどんな運動をどの程度、どのくらいすればフレイルを予防、改善できるのでしょう?
今回はフレイル予防のための運動方法を中心にレビューしてみたいと思います。
フレイルの概念
フレイルとは本来、虚弱を表す”Frailty”という言葉が語源となっています。
2001年Fried氏が提唱した2)
・体重減少(意図しない年間4.5kgまたは5%以上の体重減少)
・疲れやすい(何をするのも面倒だと週に3-4日以上感じる)
・歩行速度の低下
・握力の低下
・身体活動量の低下
といった表現型をもとに日本老年医学会が“フレイル”と日本語訳したものです。
フレイルの他に、ロコモティブシンドローム(ロコモ)やサルコペニアという言葉もよく耳にするようになりました。これらの概念の関係性を図2に示します。
*ロコモ:運動器の質的、量的低下から移動機能が低下し、転倒、骨折し要介護になりやすい状態
*サルコペニア:筋肉量の減少を基盤とし、筋力、運動機能低下を伴っている状態で、死亡などの不良予後に関わる状態
フレイルは身体的、社会的、精神的な脆弱性を示す大きな概念であり、
ロコモ、サルコペニアは“身体的フレイル”の原因の一つといえます。
さらに細かくいうとサルコペニアはロコモの原因といえますね。
運動不足はフレイル悪化の原因になるか?
そもそも慢性疾患や生活習慣病の改善、予防には有酸素運動や筋力トレーニングが有効であることは周知の事実ですね。
ではフレイル状態を運動は改善させるのでしょうか?
我々の研究チームでも、セルフケア能力(自分の健康管理をしようとする気持ち)や運動習慣が2年後のフレイル発生に影響があるかを調査しています3)。
結果、やはり普段運動をしている人は2年間でフレイル状態が悪化、もしくは新規に発生する確率が少ない(オッズ*0.137)ことがわかりました。
また、身体的フレイルの要因である筋肉量低下は、現在仕事をしている(自営業や農業)人ほど生じにくい(オッズ*0.449)可能性があることが横断調査で分かりました4)。
*オッズ:確率を示す値。ある現象が起きる要因を調べた時、オッズが1以下ということは、要因(この場合、運動習慣や仕事)を持っていない人と比べてその要因を持ってる人ではある現象(この場合フレイルや筋肉量減少)が起きる危険が少ないことになります。
つまり、普段から運動や身体活動、仕事やグループ活動(集いの場所なども含め)を通した社会活動をしている人はフレイルになりにくいということだと思います。
仮に慢性疾患を有していても、そのコントロール(病気とうまく付き合う)ができており、生き生きとした生活をしていればフレイルになりにくいのは当然の結果といえますね。
ところで、運動処方する僕たちとしては、“どんな運動をどれだけすれば、フレイルを防げるか?”というところが非常に知りたいのですが、これについても何か良い知見がありますでしょうか?
それでは、どんな運動プログラムがフレイルを予防するのか?を、現在の論文レビューからわかる範囲でご紹介していきますね。
どんな運動プログラムがフレイルを予防できる?
Yamadaらの5)地域高齢者に対する大規模調査では、フレイル予防のための自主グループ活動によって60分間の有酸素運動やストレッチ、バランス訓練などを行なっていると運動をしないグループと比較し、介護保険認定率が低かったと報告されています。
また、最近だと高齢者(平均年齢78歳)に対して有酸素運動やバランストレーニング、ストレッチなど種々の運動介入を行い1年間のフレイルの発生率を調査したランダム化比較試験があります6)。結果、未介入群でのフレイルの発生率が15.3%であったのに対し、運動介入群では4.9%と有意に少なく、種々の運動を取り入れたプログラムの有効性が示されています。
質の高いランダム化比較試験を21件集めて合計5275名の高齢者を系統的にまとめた報告では“集団で行う運動療法”はフレイル改善効果を示した一方で、個別での運動は十分なエビデンスがないと報告されています7)。
これらから推測するに、
フレイル予防の運動の種類として大事なことは
“様々な運動を集団で行う”
ということではないかということが見えてきます。
フレイル予防のための運動負荷量は?
では、それらの運動をどの程度の頻度、時間すればフレイルを防げるのでしょうか?
一般的に
・週2回―3回
・1日20分
・1年以上
は“運動習慣“の定義で8)健康維持に必要な負荷量と言われていますね。
前述のフレイル予防のための多くの研究をまとめた論文を見てみますと、
各研究での運動頻度は全く異なり、
・週に1回~5回
・一回あたり20~60分
・介入期間も2ヶ月~1年
とばらつきがあり、一定の見解はありません。
また、これらの研究は実験条件出ることが問題です。つまり参加者を募って運動介入行なっていますので、
もともとやる気のある方、
運動に対してモチベーションのある方が多く参加していることが
大きく研究結果に影響を及ぼしている研究者もいます9)。
最後に
現時点で言えることは以下のような結論でまとめることができます。
身体的フレイルを改善するのに“運動“は有効で
集団で行う運動に効果がある可能性があること
一方で、どのようなプログラム内容や期間が最も効果的であるかは検討の余地がある。
フレイルは2025年団塊の世代が75歳を迎えた以降急速に増加することが予測されます。
地域包括ケアシステムが提唱された今日、フレイル予防に理学療法士の活躍が期待され大きなチャンスとなるでしょう。
フレイルに対する運動介入方法については
やはり対象者の個別性を重視しながら、評価に基づいた処方とグループで行うなど楽しく継続できる工夫が必要と感じます。
また、その人がなぜフレイルになっているのか?問題は
身体機能か?
精神機能か?
社会的問題か?
を丁寧にアセスメントし、
適切な介入に導けるジェネラルな視点が必要となると思います。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
参考資料
1) 厚生労働科学研究費補助金(長寿科学総合研究事業) 総括研究報告書 後期高齢者の保健事業のあり方に関する研究.
2) Fried LP, Tangen CM,et al.: Frailty in older adults: evidence for a phenotype. J Gerontol A Biol Sci Med Sci.2001; 56: M146-156.
3) Tanimura C, Matsumoto H,et al.: Self-care agency, lifestyle, and physical condition predict future frailty in community-dwelling older people. Nurs Health Sci.2017
4) 松本 浩実, 萩野 浩:地域在住高齢者におけるサルコペニアと住生活状況、運動習慣の関連性についての横断的調査.日本骨粗鬆症学会雑誌 3(4) 395-404 2017年11月
5) Yamada M, Arai H: Self-Management Group Exercise Extends Healthy Life Expectancy in Frail Community-Dwelling Older Adults. Int J Environ Res Public Health.2017; 14: 531.
6) Serra-Prat M, Sist X,et al.: Effectiveness of an intervention to prevent frailty in pre-frail community-dwelling older people consulting in primary care: a randomised controlled trial. Age Ageing.2017; 46: 401-407.
7) de Labra C, Guimaraes-Pinheiro C,et al.: Effects of physical exercise interventions in frail older adults: a systematic review of randomized controlled trials. BMC Geriatr.2015; 15: 154.
8) 厚生労働省ホームページ 健康日本21(身体活動・運動 ). (令和元年6月24日引用)
9) Freiberger E, Kemmler W,et al.: Frailty and exercise interventions : Evidence and barriers for exercise programs. Z Gerontol Geriatr.2016; 49: 606-611.
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