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糖尿病と理学療法⑥ 糖尿病神経障害の原因から評価まで

こんにちは、ようぞうです。

今回は、前回に引き続き、末梢血管障害によって引き起こされる合併症についてお話しします。

糖尿病の理学療法⑤ 合併症の概要と網膜症の理学療法リスク管理糖尿病の合併症について知りたいですか?本記事では、糖尿病のリハビリの際に役立つ合併症の概要、網膜症のリハビリテーションのリスク管理についてわかりやすく丁寧に解説しています。...

この前お話しした糖尿病性網膜症よりは少し理解しやすく、また理学療法の出番が多いです。これを読むことで臨床でも役に立ててもらえたら幸いです(今回はお話の量が多いので、原因から評価までをお話しすることにします。リハビリテーションによる治療は次回にお話しします)。

糖尿病神経障害の原因

この発生機序は、神経に栄養を送る微細な血管が障害され虚血になることで神経が末梢部分から変性してしまうということが起こります。上肢・下肢といった長い神経(特に下肢)ほどその末梢に影響が出てしまいます。

また外せない理由としてポリオール代謝亢進によるものがあります。あまり詳しく述べませんが、細胞内に取り込まれたブドウ糖が多すぎる場合、ソルビトールという形で蓄積されます。このソルビトールが蓄積することで酸化ストレスや蛋白変性の原因となり、これもまた神経を障害するものとなります。
(詳しく知りたい方は以下のリンクを覗いて見てください。公益財団法人 東京都医学総合研究所のサイトです。こちらの中断にかなり詳しく書いてくれてます)

https://www.igakuken.or.jp/medical/medical03/03-2.html

難しいことは抜きにしても血糖コントロール不良が原因になることについては、ほかの合併症と大きく変わりません。

糖尿病神経障害の分類とリスク管理

糖尿病神経障害は大きく分類すると2種類あります。

多発神経障害(広汎性左右対称性神経障害)

感覚・運動神経障害、自律神経障害

単神経障害

脳神経障害(外眼筋麻痺や顔面神経麻痺など)、体幹・四肢の神経障害(尺骨・腓骨神経麻痺など)

多発性神経障害は学生の頃に「手袋・靴下型感覚障害」で習ったのを覚えているかもしれませんね。これは感覚障害のことを指していて、患者さんからはその訴えとしてはしびれ冷感感覚鈍麻などと聞くことが多いです。特にこの感覚鈍麻がやっかいで別の機会に紹介する壊疽のおおきな原因になります。

次に運動障害の症状はこむら返りなどの分かりやすい訴えのほかに筋萎縮筋力低下があります。実際の臨床の現場では糖尿病単独でリハをすることはほとんどなく、他の疾患を併せ持っている状況では細やかな鑑別が難しいのが実際のところです。しかし、

2型糖尿病の患者さんにおいて膝関節屈曲で14%、足関節背屈で14%、底屈で17%の筋力低下がみられた(Anderson、Diabetes53:1543〜1548,2004)

とあるように明らかに糖尿病による原因もあるようです。したがって糖尿病を併発疾患に持つ方のケースは「筋力落ちてるかもな?」と思ってもらって良いです。

また自律神経障害でみられる症状は多岐に渡ります。リハに関連しそうなものを列挙すると以下のとおりです。

・運動時心拍変動低下

・起立性低血圧

・無痛性心筋虚血

・無自覚性低血糖

上の3つについては自律神経そのものに障害が出てしまうことで高まるべき心拍数が上がらなかったり、起立時に血圧調整が効かなかったり、痛みが感知できなかったりする状態です。

いずれもリハ時に起こりうるため、最初から「このような状態が起こりうるかも?」と頭に入れてリハをしておく必要があります。

次に無自覚性低血糖についても同様です。これは以前に”低血糖のリスク管理”という形で書かせて頂きました。

通常であれば低血糖というのは交感神経症状(冷や汗や不安感など)という形でアラームとしての警告症状が出ます。

しかし、糖尿病の罹患期間が長く、神経障害が生じている患者さんではアラームなしでいきなり意識消失などの低血糖症状が出ます。運動をすることで生じるリスクがぐっと高まるため、糖尿病患者さんに運動をしてもらうときはしっかりとした観察が必要です。

また無自覚性低血糖を起こす患者さんは日ごろの血糖変動も大きく、もしかすると日常でも低血糖を頻回に起こしている可能性が大きいです。このため、入院中であれば血糖変動の確認を、外来であれば本人からの聞き取りなど事前にできる限りの確認をしておくことがリハ中のリスクを避けるためにとても大事なこととなります。ちょっとの確認で大きな事件を避けることができるなら、しておくことに越したことはないですもんね。

糖尿病神経障害の評価

糖尿病神経障害には簡易診断基準というのがあります。
以下の通りの基準ですが,特殊な道具は必要ないのが特徴です。これならPTでも出来そうな気がしませんか。

必須項目

・糖尿病が存在する
・糖尿病性多発神経障害以外の末梢神経障害を否定できる

条件項目

・糖尿病性多発神経障害に基づくと思われる自覚障害(両側性,足趾、足底のしびれ、疼痛、異常感覚)
・両側アキレス腱反射の低下あるいは消失
・両側内果の振動覚低下(128Hz音叉で10秒以下)

判断

必須項目を満たしかつ条件項目の2項目以上を満たす場合、神経障害と診断

一つだけ注意点がありました。
アキレス腱反射の検査は壁に手をついた膝立位で行うこと、そしてバビンスキー型打腱器で行う必要があります。バビンスキー型打腱器というのはこういうものです(うちの病院で使っている音叉も併せて写してます)。

 

 

さらにリハビリテーション職種として可能な検査・評価は他にもあります。

・筋力測定
・バランス評価

筋力測定はもちろんMMTでも良いには良いですが、ご存知の通りあまりに不正確です。このためハンドヘルドダイナモメータがあれば正確な筋力測定が行えます。普及が進みつつある道具ですが、僕が所属する施設は持ってません(苦笑)。このため、不正確ではありますが、MMTの計測と次に説明するバランス評価と合わせてADLにどの程度支障が生じているかを勘案することにしています。

文字数が多くなるので、またの機会に説明しようと考えていますが、糖尿病は足病変を起こします

この原因には足・足趾の可動域制限や足部形状そのものの変形があります。そして神経障害による下腿の筋力低下と相まってバランス障害が生じると考えています。このため現状のバランス能力がどの程度生じているのかを知っておく必要があります。この評価方法は、通常の評価方法で十分です。片脚立位保持時間マン肢位立位時間ファンクショナルリーチなどです。

まとめ

本日は以上で終わります。

それでは今回のまとめです。

まとめ

血糖コントロール不良が続くと末梢神経が影響を受けて変性が始まることが原因

・神経障害には多発神経麻痺と単一の神経に症状が現れる単神経麻痺がある

・多発神経麻痺には自律神経も障害されることがあり、リハにとって重大なリスクとなることがあるため、十分に留意しておく必要がある。

・簡易な診断のための判断基準があり、リハ職でも可能

・評価は筋力測定やバランス評価など理学療法士にとっての得意分野を十分に発揮できる

今回は糖尿病神経障害についての原因〜評価までを説明しました。
腎症、網膜症、神経障害と3大合併症とある中でも一番理学療法士にとって積極的に関われるのは神経障害ではないかと考えます。またこの神経障害は糖尿病足病変につながる部分が非常に大きく、そこはまた理学療法が大きく関われる部分です。このため、いつもの記事よりペースを落として詳しめに紹介してみました。

次回は今回の不足部分と併せて理学療法でできる治療について紹介していきます。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

ABOUT ME
ようぞう
ようぞう
【理学療法士/日本糖尿病認定療養指導士】 ある時に思い立ち、町や村を直す設計技師から人の身体を治す理学療法士に転身しました。そうして憧れの理学療法士になり、理学療法士にできることを探していたら、糖尿病理学療法に行き当たりました。そこで思うことは糖尿病は誰にでもなりうる病気であること、そして誰にでも避けることのできる病気であることを知りました。僕が知ってることを紹介していくことで、少しでも糖尿病を知り、そして糖尿病理学療法という世界に興味をもって貰えたら嬉しいです。
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