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糖尿病と理学療法③ インスリンとリハビリテーション〜ホルモンによる血糖調整の仕組みと運動療法時のリスク管理~

こんにちは、認定糖尿病理学療法士のようぞうです。

糖尿病を説明する上で外せないキーワードには前回お話した血糖(血糖値)と、そして今回お話するインスリンがあります。

糖尿病と理学療法②~ブドウ糖ってそもそもなに?~糖尿病について知りたいですか?本記事では、糖尿病の理学療法に役立つブドウ糖の知識についてわかりやすく解説しています。糖尿病の運動療法指導に関わる若手セラピストの方は必見です!...

 

思い出してもらうと、学生の頃に解剖学や運動学は好きだけど、生理学や内科学は好きじゃなかった、という人は多いのではないでしょうか。

実は僕も好きではありませんでした。特にホルモン分泌のあたりを覚えるのに苦労したことを思い出します。

 

でも安心してください。

糖尿病に関するホルモンは大きく2種類しかありません。

血糖値を上げるもの下げるもので、その代表はグルカゴンインスリンです。今日はこの2つについて、そしてそこからみた糖尿病の類型、そしてインスリンと運動の注意点についてお話ししていきます。

 

血糖の出し入れ管理

前回お話したように血糖はエネルギーです。

したがって体を使う時には血液中にエネルギーを浮かべて、各器官に送り込まなければいけません。

ただし、余計な量のエネルギーを浮かべておくことはなく、保管庫にしまっておく必要があります。

その管理を行うのが、上に挙げたホルモンの役割なのです。

以下にホルモンの役割を簡単に説明していきます。

血糖値を上げるホルモン(血液中にエネルギーを送り込むもの)

コルチゾール

いわゆるステロイドホルモン。体内のいろんな器官を”元気”にするホルモン。体を”元気”な状態にするためにエネルギーを送り込む

カテコールアミン

交感神経を活性化させるホルモン。交感神経が活発になるため、エネルギーを送り込むことが必要。

成長ホルモン

体を成長させるホルモン。体を大きくするにはやっぱりエネルギーが必要。

グルカゴン

糖が必要な時に血液中に送り込むホルモン

 

血糖値を下げるホルモン(エネルギーを使うために取り込む、または保管庫にしまい込む)

インスリン

血液中のエネルギーを保管庫である肝臓や脂肪にしまい込む。また筋や脂肪はエネルギーとしても糖を取り込む

 

 

“たけ”
“たけ”
うわー、なんだかややこしいなぁ!糖尿病に関するホルモンは2つだってハードルを下げておいてからぶち込んできましたね。笑

 

そう!そういうと思ってわざと挙げてみました。笑笑

ただ、元気になるために糖が必要という機序が分かれば全部覚える必要はないです。

ここで一つだけ覚えてほしいのは、血糖を体にしまい込む、すなわち血糖を下げるホルモンはインスリンだけなのです。

 

ちなみにこれら2種類のホルモン達は、アクセルとブレーキのようにどちらか一方が働くのではなく、コーヒーとミルクを混ぜ合わせたカフェオレのような形で混在していると考えてください。

 

糖尿病の類型とインスリン

お聞きになったことはあると思いますが、糖尿病には1型と2型があります。

一般に僕たち理学療法士が関わる臨床で出会う糖尿病はほとんどが2型です。

この違いは様々ありますが、おおざっぱにいえばインスリンが体から出るか、出ないかの違いです。

▶︎1型糖尿病・・・インスリンが出ないもの(注

▶︎2型糖尿病・・・インスリンがちょっとでも出るもの

※注)1型糖尿病でも発症初期はインスリンが出ますが徐々に出せなくなります。

 

したがって1型糖尿病ではインスリンが必須となります。

このため子供の頃に発症することが多い1型糖尿病ではインスリンとの付き合い方が大事になってくるのです(この話は療養指導のことになるので詳細は省きます)。

 

一方で皆さんが日頃出会う患者さんはほとんどが2型糖尿病です。

インスリンを打つ人や打たない人が混在するのはインスリンの出る量がそれぞれで異なることからこのように混在するのです(インスリン強化療法という一時的にインスリンを集中的に使用することもあるので出る量だけに依存するわけではないですが・・・)。

 

どの類型にしてもインスリンは体内にエネルギーを取り込むために必要なものであり、非常に大切なものです。

特に1型糖尿病ではインスリンを作り出せないですから、インスリンによって栄養を摂取できないことは直接死につながります。

 

インスリンとリハビリテーション

上記ではインスリンの役割と効果をお話ししてきました。

繰り返しになりますが、インスリンはエネルギーとして筋などがとりこむことや保管庫にしまいこむことがその役割ですので、このホルモンが分泌されると結果として血管中の血糖値が下がります

 

前回の記事高血糖は知らず知らずのうちに血管壁を傷つけてしまうのでよくないことだと記載しました。

このため、インスリンが血糖値を下げてくれることはとてもよいことなのです。

 

しかし、体外からのインスリン投与量が多すぎる場合、またはインスリンが効きすぎる場合は逆に低血糖という大きな問題を引き起こします。

特に、私たち、リハビリテーションに関わる仕事は患者さんに運動をしてもらうことです。

つまりはエネルギーを使ってもらうことが仕事ですから、自然と血糖値は下がります。

インスリンを摂取している方の運動療法時には、インスリンの血糖降下作用に加え、運動による血糖降下作用も加わることから、低血糖という状態を引き起こしてしまいやすくなる点に注意が必要です。

 

この低血糖というのは、実は高血糖状態が続くことよりもたちが悪く、認知症発祥のリスクが向上すると言われています。

 

またエネルギーが体にまわっていない、すなわち足りない状態なので意識が消失したり、ひどいケースでは命に関わることもあります

 

以上のことから、インスリン投与中の患者さんにリハビリテーションを行う際には、以下の点にしっかりと注意を払って実施することが大切です。

インスリン投与中の患者さんにリハビリテーションを行う際のポイント

▶︎運動前の血糖測定をできるだけして下さい

血糖値100mg/dl以下であれば、1単位(80kcal)程度補食してから実施(「科学的根拠に基づく運動療法ガイドライン」より引用)

※注)70mg/dl以下はすでに低血糖ですので運動するべきではないです。

▶︎運動後にも筋へのブドウ糖取り込みは継続します。このため、長時間経ってから低血糖が起こることがあります(場合によっては夜間に)。このため、激しい運動後は低血糖出現に注意(病棟看護師に連絡しておくとよいです)。

▶︎少なくなってきたとは思いますが、インスリン注射を四肢にする人がいます。運動を行う際にはインスリン注射は四肢を避けて腹壁にするよう指導してください。

 

まとめ

少し長くなりましたが、今回のお話をまとめます。

まとめ

▶︎血糖値を上げるのは4種類のホルモンであり、下げるのはインスリンのみ。

▶︎1型糖尿病はインスリン投与が必須であり、2型糖尿病では必ずしも必須ではなく、その人の状態による。

▶︎インスリン投与中の患者への運動指示は低血糖に特に注意する必要がある。

 

最後までお読み頂きありがとうございました。

内科Drや看護師さんから

「この人、インスリン打ってるから気をつけてね」

なんて言われることがあると思います。

 

そんな時に今回の内容を少しでも思い出してもらえると、皆さんのお役にたてるのではないかな、なんて思います。

患者さんからの信頼はもちろんですが、同僚からの信頼も大事です。

リハビリ関係者が代謝の事を知ってることを分かっている内科Drや看護師はまだまだ少ないです。

少しでも理解できていると彼らの信頼も得られやすくなりますよ。

ABOUT ME
ようぞう
ようぞう
【理学療法士/日本糖尿病認定療養指導士】 ある時に思い立ち、町や村を直す設計技師から人の身体を治す理学療法士に転身しました。そうして憧れの理学療法士になり、理学療法士にできることを探していたら、糖尿病理学療法に行き当たりました。そこで思うことは糖尿病は誰にでもなりうる病気であること、そして誰にでも避けることのできる病気であることを知りました。僕が知ってることを紹介していくことで、少しでも糖尿病を知り、そして糖尿病理学療法という世界に興味をもって貰えたら嬉しいです。
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