今回は、一過性脳虚血発作(TIA:Transient ischemic attack)とTIA発症時の状態から脳梗塞のリスクを評価するABCD2スコアの評価方法についてです。
TIAのが発生しやすい時期、担当する際の注意点についても掲載しております。
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一過性脳虚血発作(TIA:Transient ischemic attack)とは
TIAとは、一時的に脳動脈の血流が不足することで脳が虚血状態になり、脳梗塞と同様の症状が出現するけど・・・再び症状が改善する病態のことです。
もう少しきちんとした言葉で表記すると、米国心臓学会/米国脳卒中学会の定義の「急性梗塞を伴わない、脳や網膜の局所虚血によって起きる神経学的障害の一時的発作」になります。
以前は症状の持続時間が1時間以内とされていましたが、現在ではこの時間の区切りはなくなっています。
TIAの発症率と頻発病型
本邦におけるTIAの発症率は、最近の報告された峰松らが行っているTIAのみを対象とした多施設共同前向き登録研究の中間解析(2011年6月~2013年12月の対象症例)の結果が参考になります。
941例のTIA発症患者の内、発症後90日以内の脳梗塞発症は58例(6.2%)でした。
さらに、脳梗塞を病型別にみるとラクナ梗塞が最多で、次いで頭蓋内動脈病変に起因するアテローム血栓性脳梗塞が多かったです。
この発症率の結果は低いようですが、90日以内に限定されているところが低いとみていいのか、高いとみていいのかなんとも言えませんせんね。
また、ラクナ梗塞が最多であることに関しても、「TIAはたかがラクナ・・」とは軽視できない病態であることを意味しています。
TIAの頻発時期
TIAの発症率はなんともいえませんでしたが、TIA後に脳梗塞を発症した症例(90日以内の脳梗塞症例)をみると脳梗塞症例の約半数はTIA発症後48時間以内に脳梗塞を呈したと報告されています。
つまり、TIAは発症直後2日以内に脳梗塞を呈する可能性が高いため、発症早期に脳梗塞を予防するための治療をきちんと行っておくことが重要だということになります。
脳卒中ガイドライン2015でも以下のように示されています。
脳卒中ガイドライン2015
TIAと診断すれば、可及的速やかに発症機序を評価し、脳梗塞発症予防のための治療を直ちに開始するよう強く勧められる(グレードA)
TIA後の脳梗塞発症の危険度予測と治療方針の決定には、ABCD2スコアをはじめとした予測スコアの使用が勧められる(グレードB)
TIA症例をリハで担当する際の注意点
TIA急性期の再発予防の治療は抗血小板療法などが行われ、リハとしては直接的な治療介入はありません。
しかし、この時期にはリハでも考えて行わなければならないことがあります。
それは、TIAで脳梗塞を呈する可能性が高い症例を見極め適切にリスク管理を行うことや、長期的に効果が期待できる運動療法指導を十分に行い、間接的にリスクを下げる介入を行うことが重要です。
脳卒中ガイドライン2015では、発症48時間以内でABCD2スコア4点以上、くり返すTIA、MRI拡散強調画像病変、有意な責任血管病変または心房細動合併症例はリスクが高く、速やかな病態評価と治療が必要であると言われています(ただし、グレードC1:行うことを考慮してもよいが、十分な科学的根拠はない)。
このような症例は要チェックですね。
TIAで速やかに評価・治療が必要な場合
・発症48時間以内でABCD2スコア4点以上
・くり返すTIA
・MRI拡散強調画像病変
・有意な責任血管病変
・心房細動合併症例
ABCD2スコアは医師が必ずとっているので自分で評価する必要はないかもしれませんが、評価結果をみて治療に活かせるように覚えておきましょう!
TIA後の脳梗塞リスクの評価方法(ABCD2スコア)
ABCD2スコアはTIA後の脳梗塞発症リスクを点数で簡便に評価するバッテリーです。
以下のABCDDをそれぞれ評価し合計点を算出します。
スコアは0~7点となり、点数が高いほどリスクが高いです。
A(Age):年齢>60歳(1点)
B(Blood pressure):収縮期血圧≧140mmHgまたは拡張期血圧≧90mmHg(1点)
C(Clinical feature):臨床症状とし片麻痺あり(2点)、麻痺のない言語障害あり(1点)
D(Diabetes):糖尿病あり(1点)
D(Duration of symptoms):症状持続時間が10-59分(1点)、60分以上(2点)
ABCD2スコアの結果から、48時間以内の脳梗塞発症リスクが推定できます。
ABCD2スコア判定:TIA発症48時間以内の脳梗塞リスク
・0-3点:1.0%
・4-5点:4.1%
・6-7点:8.1%
本日は以上で終わります。
TIAの発生率は年々増加傾向であり、今後もTIA発症患者をリハを行う機会は増えることが予想されます。上記の情報を踏まえて十分に注意を払った上でリハや退院後の運動指導を行う際にことが重要になります。
また、TIA発症直後にリハを行う機会は急性期病院のセラピストに限られるものの、在宅や回リハでもTIAを発症して予防治療を行なっておられる方を担当することが増えてくることが予想されます。
適切に予防するための運動が実施できているのか、また、関わる中で疑わしいような症状が日常生活で起こっていないのか、服薬はできているかなどを適宜確認が取れるように心がけましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました!
参考資料
・上原敏志, 他:わが国におけるTIAレジストリーの現況.脳卒中.2015;37(3):197-201.
・脳卒中ガイドライン2015
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