脳・神経

マッサージ機で脳卒中後の麻痺の治療できる!?痙縮を抑制する振動刺激療法!

こんにちは、CLINICIANSの代表のたけ(@RihaClinicians です!

脳卒中後の運動麻痺に付随する痙縮(筋肉のこわばり)は、円滑な随意運動の阻害となることから動作を阻害するだけではなく、時に麻痺の改善を阻害する要因となることもあります。

しかし、痙縮はこんなマッサージ機のようなものでも抑制できることがあるんです!

 

まさか、こんなもので・・と思う方もおられるかと思います。

僕も初めてこれをみたときは、市販のマッサージ機で本当に痙縮が落ちるの?と疑いましたが、実際に使用してみると劇的に痙縮が落ち、その後の運動が行いやすくなるといった効果がみられることも多々経験しましたので、今回はこのマッサージ機の効果と痙縮抑制のメカニズムについて先行研究をベースにご紹介したいと思います!

この機器を使用する治療法は、振動刺激療法と呼ばれています。

身体に対する振動の作用は周波数や刺激時間によって異なりますが、先ほども触れたように脳卒中患者の治療では痙縮抑制作用が報告されているため、この作用に着目して掲載します。

 

麻痺肢に対する振動刺激療法の効果

松元秀次,下堂薗恵,野間知一,川平和美:最近の脳卒中リハビリテーション技術痙縮に対する治療法.総合リハビリテーション2007;35:1441-1448.

[対象]脳卒中片麻痺患者 11 名

[方法]振動刺激装置(バイブレーター 大東電気工業社製MD-01:周波数 91 Hz、振幅1 mm)を用い、肘関節伸展位、手関節背屈位、手指伸展位に固定した状態で、上肢屈筋群すべてを5分間一度に刺激した。刺激直後より、5分毎に30分後までModifiedAshworth Scale(MAS)、F波の平均振幅とF/M 比の評価を行い、即時効果と効果の持続時間を検証した。

[結果]振動刺激後手関節屈筋群の MAS はほぼ 0 となり、痙縮は有意に改善した。視覚的にも明らかな改善を認めた。手関節屈筋群の MAS は振動刺激直後から 20分後まで有意に低下していたが、その後は効果が減弱した。F 波の平均振幅は振動刺激直後から 30 分後まで低下がみられ、F/M 比も同様な変化を認めた。

[結論]振動刺激により上位中枢の変化、または筋紡錘から脊髄前角細胞までの神経路での変化の影響を受け、二次的に脊髄前角細胞の興奮性が低下したと考えられた。

 

 

野間知一,衛藤誠二,鎌田克也,松元秀次,川平和美:脳卒中片麻痺上肢への痙縮筋直接振動刺激による痙縮抑制効果.作業療法 2008;27(2):119-127.

[対象]脳卒中患者20名

[方法]刺激方法は上記同様。MAS、手関節最大自動背屈角度、示指タップ数、簡易上肢昨日検査の点数(STEF)を振動刺激前後の変化と経時的変化を比較した。

[結果]即時的効果として、振動刺激直後にMASは有意に低下、手関節最大自動背屈角度と示指タップ回数・STEFは有意に増加を示した。持続的効果として、MASは振動刺激直後から30分後まで有意に低下、示指タップ数は30分後まで有意に増加、手関節最大自動背屈角度は25分後まで有意に増加を示した。

[結論]片麻痺上肢の痙縮筋への直接振動刺激は、施行後30分程度の間、上肢屈筋群の痙縮の抑制と上肢・手指の操作性を向上させることができる可能性を示唆した。

 

 

上記の2つの報告のように、痙縮筋に低振幅の直接振動刺激を与えると、刺激開始時には緊張性振動反射による強い握り込みが出現しますが、数分後には緊張性振動反射の抑制が生じ、刺激後は痙縮が減弱して筋緊張が落ちるような現象が起こります。

そして、過剰な筋緊張が緩和されることにより、随意運動が保たれている症例ではパフォーマンス自体も向上します。

 

さらに、この効果は30分程度持続することから、刺激直後の痙縮が抑制されている間に目的の神経路に繰り返し興奮を伝えるようなリハ(促通反復療法)の併用がより有効になると考えられ、併用した場合には長期的な痙縮の軽減と麻痺の改善が得られることも報告されています(野間ら2009)。

下肢に対する効果関しては症例報告程度のものしかありませんが、足底部(前足部)への振動刺激で同様の反応(緊張性足底反射の消失)が得られ、足自動背屈角度の増大、その後の促通反復療法の継続にて立位・歩行時の足指の握り込み消失や歩行速度の改善を認めたなどの報告もあります(野間ら2007)。

 

 

痙縮抑制のメカニズム

残念ながら上記のような痙縮抑制のメカニズムは未解明ですが、以下のような可能性が考えられているようです。

・振動刺激が痙縮抑制に脊髄レベルでの効果が関与

・振動刺激が大脳皮質運動野の興奮水準を高め上位中枢への一時的な変化が下位中枢に影響を与えている

・脊髄レベルでの単シナプス反射抑制による可能性は低いと考えられるが、麻痺や痙縮が軽度である場合はこのメカニズムが働いている可能性は否定できない

・振動刺激により神経伝達物質が枯渇することで閾値の高い運動単位が選択的に抑制され、最大筋収縮が発揮できなくなる

 

振動刺激療法のメリット

振動刺激はBotox等の侵襲的な治療とは異なり、非侵襲的かつ短時間で実施ができるメリットがあるため、個人的にはその臨床上の有用性は非常に高いと感じます。

使用するバイブレーターは小型であるため、在宅での使用も容易ですし、十分な指導を行えば運動療法実施前などに患者さん本人でも適切に実施できる可能性は高いと思われます。

実際、僕も現場で使用する機会が多いですが、上下肢のどちらとも、振動刺激開始直後の本当に短時間でも効果が実感できることが多いです。

特に、BRS Stage3-4で痙縮が強く随意運動がみられる症例の場合に効果が高く、その後の運動療法が実施しやすくなるといった印象があります。

 

 

痙縮で困ってどうしようかと悩まれた際には、痙縮抑制治療の選択肢の一つとして使用を考えてみてはいかがでしょうか。

 

ただ、当然のことですが、患者さんになにかしらの介入を検討する場合には、メリットだけにとらわれず、デメリットも考慮しなくてはなりません。

振動刺激のデメリットは十分な報告がありません。考えられるリスクに配慮し、同意を得た上で十分な注意をはらって実施しましょう。

 

振動刺激に使えるマッサージ機は限られている

なお、上記の論文で使用している周波数と同様の機器はこちらになります。

Lowモードは1分間に5500回の振動なので、計算すると約91Hzとなり上述した論文と同様の周波数のものになります。

振動刺激は周波数(振動回数)によって筋緊張の抑制と亢進のどちらも促す作用があることが報告されています。

・高周波数(高振動)だと筋緊張を上げる

・上記に報告された低周波数(低振動)だと筋緊張を抑制

 

まだ報告は少ないですが、周波数が異なると効果が異なってくるので、効果が報告されている周波数と同じものを使うのが一番いいですね。

間違えないように注意したいものです。

 

参考資料

1)松元秀次,下堂薗恵,野間知一,他:最近の脳卒中リハビリテーション技術痙縮に対する治療法.総合リハビリテーション2007;35:1441-1448.
2)野間知一,衛藤誠二,鎌田克也,他:脳卒中片麻痺上肢への痙縮筋直接振動刺激による痙縮抑制効果.作業療法 2008;27(2):119-127.
3)野間知一,鎌田克也,海唯子,他:脳卒中片麻痺上肢の痙縮筋への振動刺激痙縮抑制療法と促通反復療法との併用による麻痺と痙縮の改善効果.総合リハビリテーション2009;37(2):137-143.
4)野間知一,鎌田克也,海唯子,伊東加奈子,他:振動刺激が強制把握と緊張性足底反射へ効果を示した脳卒中の 2 症例.総合リハビリテーション2007;35(6):605-609.

 

本日は以上で終わりです。

最後までお読みいただきありがとうございました!

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