こんにちは、CLINICIANSの代表のたけ(@RihaClinicians )です!
脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血(以下、くも膜下出血)の重症例における急性期治療にあたっては、破裂動脈瘤そのもののや脳出血、脳室内出血、脳虚血、急性水頭症、脳腫脹といった頭蓋内病変の問題と同時に、重篤な呼吸循環器系の障害を主体とした全身的な合併症への適切な対応による症状悪化を防ぐことが重要となります。
私たちが行う離床やリハプログラムも十分に配慮しなければなりません。
今回は、これを評価する一助となるStress indexを紹介します。
くも膜下出血の病態とStress Indexの関係
脳組織が損傷したり頭蓋内圧が過剰に亢進すると、その直後は交感神経活動が亢進し、血液中には副腎髄質からアドレナリンやノルアドレナリン(カテコラミン)が放出されます。
くも膜下出血の重症例では、primary brain damege(動脈瘤破裂自体による脳の一次損傷)と頭蓋内圧の急激な上昇に伴い、発症直後からsympathetic stormとよばれる交感神経の過剰緊張状態が生じ、交感神経活性により血液中のカテコラミンは過剰に上昇します。
実際、くも膜下出血を発症した症例の来院時のカテコラミン濃度を測定した場合、カテコラミン値は発症直後より高値となり、12時間~24時間以内に正常化していきます。
くも膜下出血の重症度別にみた場合には、grade(重症度)が悪いほどカテコラミン値は高値となり、特にgradeⅣやⅤの重症例では高値が持続する傾向があり、神経原性肺水腫、重症不整脈、心筋虚血などの生命に危険を及ぼすような呼吸循環危険の合併症を引き起こす可能性が高いです。
これを私たちの臨床応用に置き換えるならば、発症直後12時間以内の交感神経の過剰緊張状態時にはイベント(前述の肺うっ血や心筋虚血だけではなく、尿細管機能障害などの臓器の機能不全、局所の血管攣縮、一過性の過度の血圧上昇など)を認める可能性が高いことから、この期間は極力全身管理を優先させた呼吸理学療法やROMex、(ドレーン管理下での頭部挙上を含む)体位変換などでの治療を行う必要があるといえます。
特に、重症例ではカテコラミン濃度の減衰が遅延する可能性があるため、発症後12時間以降も十分な配慮を行う必要があります。
症例毎にカテコラミン濃度やその減衰のモニタリングができれば、実際にその場でこれらに気をつけなければならない時期であるかどうかの判断ができますし、カテコラミンがpeak outしたところを狙えばより安全に積極的な離床を図ることができると考えることができます。
しかし、血中のカテコラミン濃度の測定は短時間に行うことが難しく、私たちが介入する際に測定されていることは一般的に少ない現状にあるかと思います。
そこで有用になるのがStress indexです。
Stress Indexの使用方法
Stress indexは、血液検査で得られる血清K+と血糖値で求めることができます。
「Stress index = K+ ÷ 血糖値」
くも膜下出血の急性期には、しばしばK+が低下し、血糖値が上昇することがよく知られており、これらの値の急激な変動がB受容体を介して交感神経系の活性につながることが報告されています。
実際、Stress indexとカテコラミン値を発症後数時間の超急性期で経時的に測定すると、両者は同様の(並行するような)変化を示し、発症後3時間時の値でみると、ノルアドレナリンとStress indexは有意な相関(r=0.664 p<0.01)を示します。
また、重篤な呼吸循環器系の合併症(神経原性肺水腫や心室性不整脈、心筋虚血など)は、非合併症例と比較して合併症例で有意にStress indexが高値になったと報告されています。
(※「相関」とは、関係が深いかどうかということを示しています)
カテコラミンとStress Indexの相関が高いということは、両者の関係が強い。
つまり、Stress Indexの変化と同じようにカテコラミンも変化しているということであるため、Stress Indexをみればカテコラミンの評価が概ねできるということになります。。
Stress Indexの正常値は報告しているものが見当たりませんでしたが、血糖値とK+値の正常値を参考に、血糖値の上限を109、K+の下限を3.4とすると、Stress Indexは32以下程度が正常の参考値となるでしょうか。
Stress Indexが32以上であると、交感神経活性が生じている可能性があると考えることができます。(※勿論、その他に血糖値やK+が変動する病態もあるので注意)
Stress Indexを実際に確認してみたデータ
前述にカテコラミンは12~24時間に正常化に向かうと記載しましたが、実際にStress Indexを当院のデータでみた経過としても多くの症例で24時間以内の血液データ測定時には正常化しています(以下図)。
図をよくみてみると、やはりWFNS重症例では24時間経過してもStress indexが32以下に低下していないものがありますね。
くも膜下出血の術後管理では、脳室ドレーンや脊髄脳室ドレーンなどによって頭蓋内圧が管理されていることが一般的かと思いますが、3~4日(~10日程度)は脳浮腫がpeakとなる時期で全身管理が難しいかと思われます。
頭蓋内圧がpeakの時期には再度Stress Indexが変化する可能性が高いため、このように持続したり再度上昇する症例もあったりすのかな?なんて個人的には思います。
異論はあるかと思いますが、あくまで安全に離床を行うための参考程度になればと思います。
交感神経活性状態であるかどうかは、看護師さんが記載してくださっている熱型表やモニターを眺める、実際に患者さんを見る、触れてみる、ヘッドアップしながらこれらをまめに確認するなどからも情報を得ることが可能です。
Stress Indexに限らず色々な所見から判断しましょう。
くも膜下出血の予後予測にも応用できる
なお、今回紹介したStress Indexは、まだ確立されていないくも膜出血の予後予測にも使用できます。
これに関しては僕が既に論文化しているものがメディカルオンラインで見れると思いますのでそちらでご覧ください。
参考資料
1)佐藤章:重症くも膜下出血急性期の病態と治療.The Japanese Congress of Neurological Surgeons.1998;7:24-31.
2)佐藤章,中村弘,他:重症くも膜下出血急性期治療における頭蓋内及び全身的複合病態の意義.脳卒中の外科.2004;32:97-102.
本日は以上で終わります。
最後までお読みいただきありがとうございました!
充実の“note”で飛躍的に臨床技術をアップ
CLINICIANSの公式noteでは、ブログの何倍もさらに有用な情報を提供しています。“今すぐ臨床で活用できる知識と技術”はこちらでご覧ください!
実践!ゼロから学べる腰痛治療マガジン
腰痛治療が苦手なセラピストは非常に多く、以前のTwitterアンケート(回答数約350名)では8割以上の方が困っている、35%はその場しのぎの治療を行っているということでしたが、本コンテンツはそんな問題を解決すべく、CLINICIANSの中でも腰痛治療が得意なセラピスト(理学療法士)4名が腰痛に特化した機能解剖・評価・治療・EBMなどを実践に生きる知識・技術を提供してくれる月額マガジンです。病院で遭遇する整形疾患は勿論、女性特有の腰痛からアスリートまで、様々な腰痛治療に対応できる内容!臨床を噛み砕いてゼロから教えてくれるちょーおすすめコンテンツであり、腰痛治療が苦手なセラピストもそうでない方も必見です!
実践!ゼロから学べる足マガジン
本コンテンツでは、ベテランの足の専門セラピスト(理学療法士)6名が足に特化した機能解剖・評価・治療などを実践に生きる知識・技術を提供してくれる月額マガジンです。病院で遭遇する足の疾患は勿論、小児からアスリートまで幅広い足の臨床、エコー知見などから足を噛み砕いてゼロから教えてくれるちょーおすすめコンテンツであり、足が苦手なセラピストもそうでない方も必見です!
実践!ゼロから学べる肩肘マガジン
本noteマガジンはCLINICIANSメンバーもみんな認めるベテランの肩肘治療のスペシャリスト(理学療法士)5名が肩肘の治療特化した機能解剖・評価・治療などを実践に生きる知識・技術として提供してくれます。普段エコーなどを使って見えないところを見ながら治療を展開している凄腕セラピストが噛み砕いてゼロから深いところまで教えてくれるので肩肘の治療が苦手なセラピストも必見のマガジンです!
YouTube動画で“楽しく学ぶ”
実技、講義形式、音声形式などのセラピストの日々の臨床にダイレクトに役立つコンテンツが無料で学べるCLINICIANS公式Youtubeチャンネルです。EBMが重要視される中、それに遅れを取らず臨床家が飛躍的に加速していくためにはEBMの実践が不可欠。そんな問題を少しでも解決するためにこのチャンネルが作られました。将来的に大学や講習会のような講義が受けられるようになります。チャンネル登録でぜひご活用ください♪登録しておくと新規動画をアップした時の見逃しがなくなりますよ!
※登録しておくと新規動画をアップした時に通知が表示されます。
なお、一般の方向けのチャンネルも作りました!こちらでは専門家も勉強になる体のケアやパフォーマンスアップに関する動画を無料で公開していますので合わせてチャンネル登録を!