脳・神経

脳卒中の目標設定はこれでできる!運動麻痺の改善とプラトーまでの期間

こんにちは、CLINICIANSの代表のtake(@RihaClinicians )です!

今回は運動麻痺の改善とプラトーまでの期間についてお話しします。

これを知っていれば、いつまでに患者さんの運動麻痺がどうなるかが明確になり、目標設定がかなり具体的にできるようになるのでぜひ覚えておいてください(o^^o)

 

下肢機能の予後

どの程度まで改善が望めるか

脳卒中片麻痺患者の運動麻痺の最終到達レベルを簡単に予測できる方法」で述べた通り、BRSⅣ以上であればBRSⅥ以上の改善が望めます。

BRSがわからない方はこちらの記事をご参照ください。

運動麻痺の評価法:ブルンストロームの正しい評価法を徹底解説!運動麻痺の評価法ブルンストロームの正しい評価法について知りたいですか?本記事では、どこよりも正確にブルンストロームの原著に基づく適切な評価方法を解説しています。評価は評価法考案者の規定通りに行わなければ全く意味がありません。ブルンストロームの運動麻痺の評価法をマスターしたい方は必見です!...

改善が望める期間(プラトーになるまでの期間)

Copenhagen Stroke Studyによる下肢機能の回復経過の報告が参考になります。

この論文では、Scandinavian Stroke Scale(以下SSS)の下肢機能スコアで入院時の下肢運動麻痺重症度を評価し、以下の5 グループに分け下肢機能の回復が (累積率)95%の症例でみられなくなるまでの期間を報告しています。

表にすると以下のようにまとめられます。

 

SSS 下肢機能スコアの採点基準↓


文献2より引用

 

また、この結果から下肢の麻痺が重度であるほど長期間にわたって改善が期待でき改善が期待できる期間はおおよそ3ヶ月程度であることもわかります。

さらに、この報告では、入院時の下肢運動麻痺重症度別に最終的な歩行能力の帰結をみた場合、独歩が可能になる症例の割合は麻痺なし78%、軽度麻痺66%、中等度麻痺28%、重症麻痺21%、完全麻痺群6%であったようです。

発症時の下肢の動きの具合がわかれば、麻痺が回復しなくなる状態までの期間はどのぐらいかが明確になるため、どの程度の期間リハを行なったら良いのか明確な期間設定ができることになります。

また、独歩になる可能性がどの程度あるかも曖昧ながらわかるということになります。

(※ADLの改善は機能の改善よりも一ヶ月遅れてプラトーになると言われているため、リハ期間は運動麻痺のプラトーまでの期間+1ヶ月で考えると良いです)

 

手指と上肢機能の予後

どの程度まで改善が望めるか

脳卒中片麻痺患者の運動麻痺の最終到達レベルを簡単に予測できる方法」で述べた通り、BRSⅣ以上であればBRSⅥ以上の改善が得られる可能性が高いです。

しかし、手指や上肢の回復は下肢の回復と比較して悪い傾向にあり、特に早期に改善が認められない症例では予後も不良です。

<発症1週間以内のBRSレベルからみた最終的な改善レベル>

・BRS1-2 →廃用手(ADL、上肢操作上で使用困難なレベル)
・BRS3-4 →早期予測は困難 1ヵ月経過観察
・BRS5-6 →実用手(ADL、上肢操作上で支障がないレベル)

<実用手までの回復が望める条件>

・発症時に完全麻痺ではない
・上肢各関節で随意的な筋収縮が確認できる(手指では特に手指伸展の有無)
・発症後早期に回復の兆候がみられる
・痙縮や連合反応が軽度
・手指の拘縮や変形、痛みが少ない
・重篤な感覚障害や運動失調がない
・高次脳機能障害や前頭葉障害がない
・体幹が安定していること
・発症後1ヵ月時点で全指の分離可(SIAS3)であれば5割、分離が軽度のぎこちなさで可(SIAS4)で8割が実用手(SIAS0であれば7割が廃用手)

改善が望める期間(プラトーになるまでの期間)

Copenhagen Stroke Studyによる上肢機能の回復経過の報告が参考になります。

この論文では、Scandinavian Stroke Scale(以下SSS)の上肢および手指機能スコアで入院時の上肢および手指機能の重症度を評価し、以下の3 グループに分け、これらのBarthel Indexの整容と食事動作の項目でみた上肢機能の回復が (累積率)95%の症例でみられなくなるまでの期間を報告しており、それぞれのプラトーに達するまでの期間は以下の通りです。

 

SSS 上肢と手指機能スコアの採点基準↓

 

下肢と同様、この結果からは麻痺が重度であるほど長期間にわたって改善が期待でき改善が期待できる期間はおおよそ3ヶ月程度であるといえます。

 

その他に予後を正確に予測するためのポイント

脳内に機能分布がある以上、脳の損傷部位によって予後が異なることはいうまでもありません。

よって、上記のような臨床所見に加えて、脳画像所見も加味すると予測精度は向上します。

実際、予後予測を脳画像所見を加えるが予測精度を高めることは、統計的にも多数の論文で立証されています。

<病巣部位と予後>

小さな病巣でも運動予後の不良な部位
放線冠(中大脳動脈領域)の梗塞
内包後脚
脳幹(中脳、橋、延髄前方病巣)
視床(後外側病変で深部感覚脱失のもの)

病巣の大きさと比例して運動予後がおおよそ決まるもの
被殻出血
視床出血
前頭葉皮質下出血
中大脳動脈前方枝を含む梗塞
前大脳動脈領域の脳梗塞

大きな病巣でも運動予後が良好なもの
前頭葉前方の梗塞・皮質下出血
中大脳動脈後方の脳梗塞
後大脳動脈領域の脳梗塞
頭頂葉後方~後頭葉、側頭葉の皮質下出血
小脳半球に限局した片側性の梗塞・出血

特に、運動線維が通る皮質脊髄路(錐体路)が密集して通る部分や皮質および中継核の損傷を呈すると予後不良となりやすいですが、連絡線維が疎である部分や連絡線維の損傷による障害は、代償経路などが残存することなどもあり比較的予後は良好です。

運動麻痺の経路である皮質脊髄路を脳画像で確認する方法に関しては、以下の二つを読めば理解できると思いますのでご参照ください。

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臨床における運動麻痺の予後予測の使用方法

上記に脳卒中の運動麻痺に関する知見をまとめました。では、最後に実際の臨床での使用方法を挙げてみます。

①まずは運動麻痺の評価を行い、最終的にどの程度の麻痺になるのかをBRSで予測する

例)BRSがⅣ以上かどうか?→BRSⅣ以上だった→最終的にはBRSⅥ以上の改善が望める!

 

②SSS機能スコアのどれに値するのか評価を行い、到達期間を予測する。

例)下肢BRSⅣ以上だった→最終的には下肢BRSⅥ以上になる可能性がある→SSS下肢機能スコア4点だった→プラトーに達する期間は6週間程度→6週間以下に下肢BRSⅥ以上になる可能性がある!

 

③脳画像で運動野や皮質脊髄路の直接的な損傷がないかどうかを見て、臨床所見の経過と照らし合わせる。

例)中心前回の内側部(大脳縦裂付近)や皮質脊髄路の下肢が損傷していない、もしくは損傷が軽度→臨床経過も早期に麻痺の改善あり→予測は当たりそう!

 

 

このような感じでしょうか。BRSⅣの場合は簡単でいいですね。

ただ・・既にお気づきかもしれませんが、これまでの記事でご紹介した論文の予測方法のみでは、BRSⅣ以下の場合はどの程度まで改善するかは明確にわかりません

以下の記事で述べた論文の結果より、BRSⅣ未満の多くの場合はBRSⅥまでの改善は厳しいことが多いです。

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また、BRSⅣ未満の症例では、この論文の表のデータからも分かるとおり、最終帰結には若干ばらつきが見られます。BRSⅣ以上の改善は難しいと言っているものの、何%かはBRSⅣ以上に改善することもあるようですね。

このようにBRSⅣ未満の場合、改善しない症例もしくは改善するかもしれないけどどの程度まで改善するのかわからない症例に対し、みなさんはどのように目標を立ててリハをしていますでしょうか?

 

運動麻痺の予測ができない症例の場合の介入方法

どの程度まで改善するのか分からないのに、期間(目標)も設定せずにやってもキリがないですよね。

目標を設定していないと、やる気がある療法士ならリハ上限になるまでいつまで経ってもリハをやってしまいます。

患者さんの方から先に「もうリハはいいよ。回復しないから。。。」といわれることもあるかもしれません。

ただ、BRSⅣ未満で予測が見えにくい場合でも、今回の記事で挙げたSSS機能スコアを使えば運動麻痺の回復が期待できる期間はある程度は設定できるので期間は提示できます

SSS機能スコアの点数が該当する期間が、概ね運動麻痺回復の目標期間と考え、麻痺改善のための治療を行えば良いのではないでしょうか。

例)BRSⅢ→最終的な状態不明→下肢機能スコア4点→11週間程度が下肢の運動麻痺の回復期間

 

また、麻痺の状態予測が正確にできなくとも、上田12段階片麻痺機能検査などの運動麻痺の評価スケールを1週間ごとにでも定期的に計測してグラフ化していれば、患者さんの状態が現在プラトーに達しているのかどうか(今後も伸びるか伸びないか)を把握することはできますので、それが予測になります。

上田12段階片麻痺機能検査については以下の記事で詳しく説明していますのでぜひ上手く使ってみてください。

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ただし、上田12段階片麻痺機能検査についてもBRSと同様に天井効果があり、ある一定レベルに到達すると細かい変化は拾えなくなることも多いです。

このような場合は、獲得したい動作や作業に直結する主要関節の角度などを定期的に計測して変化を追うというような形で他の評価を併用して補いましょう

例)Active 肩屈曲角度を1週間ごとに計測するなど

 

予後予測で最も大切なこと

予後予測や評価には限界があります。

しかし、その限界は療法士の工夫で補完することができ、正確なアセスメントに繋がります。

なんとなくダラダラとリハを行うのではなく、常にしっかりと患者さんの変化をモニタリングするように心がければ予測精度は非常に高くなりますので、その点を肝に命じて評価・治療を行うことをおすすめします。

 

また、論文などで紹介されている予後予測はそれまでの患者さんのデータによって得られたデータであるため、絶対に当たるという保証はありません。

くれぐれも論文のデータにだけとらわれないようにしましょう。

患者さん自身のもつ目標(どうなりたいかという想い)は、予後を変えることが多々ありますよ。

 

参考資料

1)Nakayama F, Jørgensen HS, Raashou HO, et al:Recovery of upper extremity function in stroke patients:The Copenhagen Stroke Study. Arch Phys Med Rehabil 75:394-398, 1994.
2)Multicenter trial of hemodilution in ischemic stroke–background and study protocol. Scandinavian Stroke Study Group. Stroke 1985 Sep-Oct;16(5):885-90.
3)Jørgensen HS, Nakayama H, Raashou HO, et al:Recovery of walking function in stroke patients:The Copenhagen Stroke Study. Arch Phys Med Rehabil 76:27-32, 1995.
4)三好正堂:臨床に役立つ脳卒中の予後予測 どこまで回復を望めるか 経験則を見直そう-臨床に役立つ予後予測の基礎知識.JOURNAL OF CLINICAL REHABIRITATION.2001;10(4):295-300.
5)前田真治,頼住孝二,他:脳卒中患者の屋外歩行能力獲得に関する要因の分析.脳卒中.1989;11(2):111-118.

 

運動麻痺を治療するためのおすすめ書籍

 

 

 

 

本日は以上で終わりです。

最後までお読みいただきありがとうございました!

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たけ
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理学療法士&ピラティスインストラクターとして姿勢・パフォーマンス改善の専門家として活動中!発信情報や経歴の詳細は以下のリンクよりご覧いただけます。
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