今回はギラン・バレー症候群の理学療法評価や治療のポイントについてお話しします。
ギラン・バレー症候群の病態や医学的治療がよくわかっておられない方はまずはこちらをご覧ください。
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理学療法評価
ギラン・バレー症候群の理学療法を行う際には、最低限、以下の①~⑧の内容を評価しておきましょう。
ギラン・バレー症候群で最低限行っておきたい理学療法評価
①関節可動域
②感覚障害・疼痛
③疲労感
④筋力
⑤深部腱反射
⑥呼吸
⑦脳神経検査
⑧自律神経障害
①関節可動域
脱髄が生じた筋は、筋緊張が低下します。
over stretchingにならないように過度な伸張は避けて行いましょう。
また、筋力が回復するまでの間は拘縮が発生しやすくなります。
二関節筋の伸張性を評価しておくとよいでしょう。
拘縮を認めやすい筋は大腿筋膜張筋、ハムストリングス、下腿三頭筋、手指屈筋群です。
②感覚障害・疼痛
感覚障害は触覚、位置覚、運動覚、振動覚、温覚、冷覚、痛覚を評価しましょう。
しびれなどの異常感覚の評価も必要になります。
疼痛は、圧迫や伸張などで疼痛を誘発する刺激内容(どんな痛み?どこ?どのように?いつ?何の?)やVisual Anarog Scaleなどを利用して自覚的な評価が必要です。
さらに、不眠を伴いやすく、内服コントロールや心理的サポートが必要になる場合もあります。
③疲労感
疲労感はBorgスケールを使用して、運動後の自覚的疲労感を客観的に評価しましょう。
どこがどのように疲労したかがわからないと、変化を評価する際に比較対象が決められないため、疲労した部位を聞いておくことが重要です。
また、運動の負荷量をモニタリングするために血液検査のCPK値を参考にすることもあります。
CPKは筋肉に多量に存在する酵素であり、筋細胞のエネルギー代謝に重要な役割を担っています。
また、血液中CPK値の濃度は骨格筋が占める割合が高いとされており、CPK値は筋力増強運動などによって筋細胞の破壊があった場合に上昇します(peakは24時間程度)。
つまり、リハ実施後にCPKが高値となっていれば、投与したリハプログラムは過負荷になっているということがわかりますのでCPK値も評価しておくと良いでしょう。
ただし、CPK値は測定する機会が少なく、毎日見ることはできない施設が多いことと思いますので、疲労感の評価の第一選択は患者の訴えやBorgスケールが指標になるでしょう。
④筋力
筋力測定はそれ自体が過負荷になることがあり、内科的な治療が終了し、病態が安定してから測定するようにします。
評価方法はMMTもしくはダイナモメーターやμ-Tasなどの等尺性筋力測定器があります。
MMTによる測定は簡便に実施でき、指標にしやすいと思います。等尺性筋力測定器や動作から推測する筋力レベルは以前にお話ししたのでこちらをご参照ください。
筋力測定を行う際には患者の疲労感に十分配慮しましょう。
また、すべての筋を測定するのではなく、指標となる筋を決定し、その変化を追うようにしましょう。
⑤深部腱反射
ギラン・バレー症候群では深部腱反射が消失します。
打腱器を使用して深部腱反射をみましょう。
神経が改善してくると腱反射も改善してきますので、これも経時的に評価しておくと良いでしょう。
なお、以前にお話しした腱反射と筋緊張のように、二つの評価を組み合わせて経過をみても病態を把握しやすくなります。腱反射とMMTでも良いですね。
⑥呼吸
急性増悪のギラン・バレー症候群は、呼吸筋の筋力低下をきたしますので、呼吸筋の緊張や胸郭可動性の評価が必要になります。
呼吸様式を確認し、肺炎や無気肺を引き起こさないように治療が必要となります。そのため、肺の状態を評価するために聴診が必要となります。
臨床で簡便にできる肺の評価は以下をご参照ください。
また、呼吸筋を支配する末梢神経の脱髄が顕著であると、呼吸機能が顕著に低下し低換気状態になります。
このような場合は人工呼吸器管理が必要となり、挿管部位や機種、換気モードや換気条件設定の確認が必要です。人工呼吸器の設定やモニタリングついては解説するとかなりボリューミーになるので割愛します。
⑦脳神経検査
ギラン・バレー症候群は顔面神経麻痺や眼球運動麻痺を認めるため、顔面筋や眼球運動の評価が必要になります。
顔面神経麻痺により構音障害を呈したり、嚥下障害を認めることがあるので、そのような場合は言語聴覚士の評価・介入も必要になります。
⑧自律神経障害
自律神経症状は不整脈、高血圧、低血圧、血圧変動、心電図異常、薬剤に対する血行動態の異常反応、発汗異常、尿閉、便秘やイレウス、下痢などの消化管運動障害があります。
そのため、毎日のバイタルサインのチェック、発汗低下や皮膚の色や伸張性、萎縮などに注意しましょう。
また、離床時に特に注意が必要なのが起立性低血圧です。起立性低血圧の有無を確認しておきましょう。
起立性低血圧についてはめまいや立ちくらみ、気分不良の自覚的徴候や収縮期血圧の下降が臥位と比較して立位での収縮期血圧が20mmHg、または拡張期血圧が10mmHg以上低下する場合の他覚的徴候を参考にしましょう。
急性期の理学療法
急性期の主な理学療法は以下の5つとなります。
①循環動態の管理
②関節可動域運動
③ポジショニング
④呼吸理学療法
⑤筋力増強運動
①循環動態の管理
急性期の理学療法は人工呼吸器管理などで全身状態が不安定であるため、循環動態の管理が必要になります。
危険性があるものとして、呼吸筋麻痺や球麻痺、肺塞栓や肺感染症、自律神経障害に起因する心停止があります。
心電図モニターや持続的血圧モニターで日々のバイタルサインの確認を行っていきます。
②関節可動域運動
ギラン・バレー症候群は四肢の筋力低下をきたし、ベッドから動けなくなります。
自動運動が行えなくなり、不動による拘縮がすすむため、関節可動域運動が必要です。
関節可動域運動を行う部位は筋力低下をきたしているまたは、自己で動かせない部位を行います。
先ほども述べた通り、関節可動域運動を行う注意するポイントはover stretchingを引き起こさないことです。
弛緩性麻痺や感覚障害を認めていることが多いため、関節可動域運動は愛護的に行います。
ギラン・バレー症候群は意識障害を認めないので、本人に痛みの確認を取りながら行うといいでしょう。
③ポジショニング
ギラン・バレー症候群発症後は、血栓浄化療法や免疫グロブリン静注療法のによりベッド臥床になります。
また、筋力低下のためにベッドから起きられないことが多くなり、ポジショニングは良肢位保持が必要です。
褥瘡予防、深部静脈血栓症予防、呼吸器のウイーニングをすすめるためにもポジショニングや体位変換は必要です。
④呼吸理学療法
呼吸理学療法は無気肺や感染を予防することを目的に、腹式呼吸や体位排痰、胸郭可動性運動を行います。
人工呼吸器のウイーニングを促進するために、呼吸介助や呼吸筋のリラクゼーション、体位変換を行います。
⑤筋力増強運動
ギラン・バレー症候群は運動による積極的な筋力増強運動は原則行うべきではありません。
理由は、末梢神経周囲の浮腫が生じており、運動による代謝亢進や血流増加とは相反して虚血性変化によって神経線維がより障害されたり、再生機能に悪影響を与える可能性があるからです。
状態が落ち着いている場合は過負荷にならないように行うのは良いと思います。
ここでの過負荷とは上述したBorgスケールや疲労感を指標にします。個別性があるため、必ず筋力増強運動○回/○セットとったような、決まったものはありません。
回復期の理学療法
ギラン・バレー症候群の回復期の理学療法についてです。
神経症状進行停止後は2~4週程度で回復が始まります。
回復期の主な理学療法は以下の4つとなります。
①関節可動域運動、筋力増強運動
②呼吸理学療法
③自律神経症状確認(バイタルサイン)
④離床(起立、歩行)
①関節可動域運動、筋力増強運動
回復期では他動運動から自動介助運動、自動運動、抵抗運動を開始していきます。
筋力増強運動は回復期でも過負荷は原則禁止となっています。Borgスケールや疲労感に注意して筋力増強運動を行いましょう。
筋力評価は最大筋力を発揮しますので、推奨されません。どうしても筋力評価を行いたい場合は主治医に確認してから行うといいと思います。
②呼吸理学療法
呼吸気管理患者は肺機能回復とともにウイーニングをすすめるように急性期と同様に呼吸理学療法を行っていきます。
③自律神経症状確認
回復期では離床が積極的に行えるようになります。
しかし、離床するときは、先ほども上記でお話ししたように起立性低血圧などの自律神経症状が見らえることが多いので注意が必要です。
また、回復期になるまで長期臥床による廃用症候群を引き起こしている可能性があり、循環動態、呼吸状態などバイタルサインの確認が必要となります。
④離床(起立、歩行)
人工呼吸器管理中であっても、病態が安定していれば、起立や歩行を行います。
抜管していれば積極的に離床させます。
忘れていはいけないのが過負荷ですので、運動負荷を調節していきます。
歩行ができるようになったら、予後を踏まえて装具の必要性を検討し、自立度向上、活動量向上に努めるようにしてきます。
生活期の理学療法
ギラン・バレー症候群はADLが自立になっても、復職や余暇活動が制限されることがあります。
さらに、退院後は環境の変化や運動量の変化により入院時と比較して、ADL能力が低下していることもあります。
その場合は訪問リハビリテーションを活用し、自宅生活環境で動作の安定や活動量拡大を目指していきましょう。
ギラン・バレー症候群は数年単位で改善することもあり、身体機能の改善に伴い環境調整や補助具の再検討が必要となります。
長期的に改善する可能性がある患者は回復の阻害因子となる筋萎縮や拘縮予防を目的としたホームエクササイズの指導が重要になります。
本日は以上で終わります。
今回の内容を読んでよくわからないという方は、恐らくギラン・バレー症候群の病態や医学的な治療の理解が少し浅い可能性がありますので、再度こちらをご確認ください。
最後までお読みいただきありがとうございました!
参考資料
1)江藤,梅野,他:ギランバレー症候群に対する治療と理学療法,PTジャーナル,47(12);2013:1053-1059
2)国分,桑原:Guillain-Barre症候群の電気診断,臨床神経生理学,41(2);2013.4:103-111
3)大野,三村,他:Fisher症候群19例の臨床解析,日眼会誌,119(2);2015.2:63-67
4)野村:免疫グロブリン大量静注療法の基本とpitfall,神経治療,31(2);2014:183-187
5)海田:Guillain-Barre症候群の予後因子,臨床神経学,53(11);2013.11:1315-1318
6)大野:Fisher症候群,神経眼科,31(1);2014:28-35
7)東原:Guillain-Barre症候群の自律神経障害への治療,神経治療,30(1);2013:16-21
8)楠:ギラン・バレー症候群,検査と技術,40(1);2012:6-10
9)森:ギラン・バレー症候群,耳喉頭頸,85(6);2013:438-442
10)尾花:43.ギランバレー症候群のリハビリテーション,総合リハ,40(5);2012:680-683
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