脳・神経

ALS(筋萎縮性側索硬化症)~診断と生命予後、予後不良因子について~

こんにちは、CLINICIANSの代表のたけ(@RihaClinicians です!

今回は筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)の診断基準と生命予後、予後不良因子についてです。

ALSの概要をご存知ない方は、以下に解説しておりますのでこちらをご覧ください。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)の概要:病態・症状・進行速度(予後)について~筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic lateral sclerosis:以下ALS)について知りたいですか?本記事では、ALSの病態・症状・進行速度(予後)についての概要をまとめて解説します。ALSについてサクッと知りたい方は必見です!...

※今回は予後のお話もありますが、「症状の進行速度」については上記の記事でご説明しているのでこちらをご参照ください。

 

ALS診断における必須事項

ALSの診断を行うときは必須となる症状があります。

それは前回の記事でも挙げた下位運動ニューロン障害(以下LMN徴候)や上位運動ニューロン障害(UMN徴候)です。

さらに、もう一つ大事なことがALSは進行性の疾患であるということ。

つまり、診断には病状の進行が必須となります。

UMN徴候やLMN徴候はALSではない疾患でも認めることがあります。

例えば、脳血管障害によるUMN徴候(片麻痺など)や、脊柱管狭窄症・腰椎ヘルニアによるLMN徴候(下肢麻痺など)などです。

すなわち、ALSの除外診断として他のUMN徴候やLMN徴候を説明できる疾患は除外しなければなりません。

このような疾患を証明できるような所見があれば場合はALSは除外されます。

 

まとめると以下の通りです。

ALS診断における必須事項

A.下記が存在する
1.下位運動ニューロン障害を示す臨床的あるいは電気生理学的所見
2.上位運動ニューロン障害を示す臨床的所見
3.症状の進行と初発部位から他部位への進展

B.下記が存在しない:除外診断
1.臨床症状(上位・下位運動ニューロン障害)を説明できる他疾患を示す電気生理学的あるいは病理学的所見
2.臨床所見、電気生理学的異常を説明できる神経画像所見

 

Awaji基準

ALSの診断基準として一般的によく使われるものがAwaji基準(Awajo提言を取り入れた改訂El Escorial 診断基準)です。

こちらの基準は改訂を繰り返しており、検査結果や臨床症状によって診断を段階付けしています。

段階はDefinite、Probable、Possibleの3段階となります。

 

Definite(確定したもの)

◉脳幹と脊髄2領域における上位・下位運動ニューロン障害の臨床徴候あるいは電気生理学的異常
◉または、脊髄3領域における上位・下位運動ニューロン障害の臨床徴候あるいは電気生理学的異常

Probable(おそらく、起こりそうな 有望な、ほとんど確実な)

◉2領域における上位・下位運動ニューロン障害の臨床徴候あるいは電気生理学的異常。かつ下位運動ニューロン徴候より頭側の領域に上位運動ニューロン徴候

Possible(考えうるもの、可能性がある)

◉1領域における上位・下位運動ニューロン障害の臨床徴候あるいは電気生理学的異常
◉または、2領域以上の上位運動ニューロン徴候のみ
◉または、1領域の上位運動ニューロン徴候とそれより頭側の下位運動ニューロン徴候

 

上記は意味が少しわかりにくいかもしれませんが、臨床症状を評価してみた結果が「どの程度ALSの可能性が高いか」を表現するための基準と考えていただければよいです。例えばこのような表現になります。

例1)確実にALSといえる臨床所見だな・・⇒Define
例2)たぶんALSという程度の臨床所見だな・・⇒Probable
例3)ALSの可能性があるかもという程度の臨床所見だな・・⇒Possible

 

生命予後

生命予後については呼吸障害・球麻痺症状を認めている症例が予後不良となりそうです。また、病状の進行速度肥満も予後に影響します。

色々な文献の一部を抜粋してまとめると以下のような感じになりますね。

・侵襲的陽圧換気療法(tracheal positive pressure ventilation:TPPV)の有無で大きく変わる

・発症から死亡までの全経過で平均40.6±33.1ヶ月、TPPVを実施した群で49.1±37.2ヶ月、実施しなかった群で35.8±31.1ヶ月 (症例によるばらつき多い)

・病型問わず、初発症状から次の症状の出現まで期間が短い場合は症状進行が急速であり生命予後が不良となる傾向あり

・球麻痺症状は予後不良

・BMIの年間の変化量が2.5以上低下する群でTPPVまでの期間が優位に短縮する
初診時の%FVC(努力性肺活量)75%以下で症状進行が速い

 

ALSの文献を見ると症例によるばらつきが非常に大きいものが散見しています。

発症から1年以内に死亡する患者が10%いる一方で、10年以上経過して生存する例も10%程度存在するという報告もありました。

このようにばらつきが見られる理由は、発症年齢の幅が広かったり、症状の進行速度が違ったり、初発症状が違っているためと考えられます。

 

予後不良因子

予後不良因子をまとめると以下の通りです。該当すると予後不良の経過をたどる確率が高くなります。

ALSの予後不良因子

・進行速度が早い
・高齢発症
・栄養状態不良
・努力性肺活量低下
・鼻腔吸気圧低下
・球麻痺発症
・呼吸障害発症

 

参考資料

1)Brooks BR,Miller RG,Swash M,et al;World Federation of Neurology Research Group on Motor Neuron Diseases,El Escorial revisited:revised criteria for the diagnosis of amyotrophic lateral sclerosis.Amyotroph Lateral Scler Other Motor Neuron Disord.2000;1:293-299.
2)de Carvalho M,Dengler R,Eisen A,et al.Electrodiagnostic criteria for diagnosis of ALS.Clin Neurophysiol.2008;119:497-503.
3)織田雅也、和泉唯信:運動ニューロン疾患~筋萎縮性側索硬化症の診療と倫理的問題~、intensivisit,vol.8,no.4,2016-10,861-867

 

 

本日は以上で終わりです。

今回は筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)の診断基準と生命予後、予後不良因子について掲載しましたがいかがでしたでしょうか?

診断基準は改訂を繰り返すことで確立されたものになってきていますが、予後については十分な臨床データがなく未だ確立された内容が報告されている文献はみつかりませんでした。

見ていただいた方が納得いく情報は提示できていないかと思います。

 

それだけ予後予測が難しい病気ということですね・・

 

また、仮に予後が明確になったとしても、進行性の疾患で完治することはありませんので、私達はどのようにして患者さんのQOLを向上する関わりを行うかという点は非常に難しい課題だと思います。

 

最後までお読みいただきありがとうございました!

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